社労士豆知識 21回
「未払となっている残業代を支払え」残業代未払問題
金光 仙子(行政書士 社会保険労務士 金光総合事務所所長)
始まりは、お手紙
 「退職した社員から、“未払となっている残業代を支払え”という内容証明郵便が届いたのですが……。」
 そんなご相談を、幾度となく受けています。郵便は退職した社員本人からの他に、代理人の弁護士から届く事も珍しくありません。私の事務所に寄せられたご相談では最低でも数十万、多いときは300万を超える金額が請求されました。
 「請求されたお金を支払う義務はありますか?」
労働基準法の「割増賃金」
 いわゆる残業代を請求する根拠は、労働基準法第37条の「割増賃金」の規定です。割増賃金は、時間外割増賃金の他に、休日および深夜についても規定があります。
 時間外割増賃金は、原則週40時間または1日8時間を超えた時間が1ヶ月に60時間までは、通常の賃金の計算額の25%以上、60時間を超えた場合は50%以上の率で支払わなければなりません(※)。休日については35%以上、深夜については25%以上の割増賃金の支払いが必要です。
計算の実際
 本当に300万円を超える高額になることもあるのでしょうか?
 残業代未払請求では、時給の人よりも月給の人が高額になる場合が多いです。時給の人は、超過した時間分の時間単価(たとえば時給@1,000円の人であれば1,000円)は支給済みのため、残りの25%(250円)だけを支払えばよいのですが、月給の人はそうではないからです。
 たとえば月給30万円の人で、月平均所定労働時間が160時間だったとします。30万円は、その160時間分の賃金ですから、時間単価は30万÷160=1,875円で、25%割増賃金は×125%の2,343.75円となります。
 毎日2時間程度月20日残業すると月40時間、割増賃金は1ヶ月で93,750円に上り、時効となる2年間それを続ければ×24ヶ月で2,250,000円。それに加えて休日出勤や深夜労働もあれば、軽く300万円を上回る計算になります。
 これは労働者1人分ですから、もしも複数の労働者に一度に請求されるようなことになれば、会社の存続にまで影響を及ぼしかねません。
知らないでは済まされない、労働基準法
 労働基準法は、労働条件の最低基準を定める法律ですが、とても強い法律です。労働基準法の基準に達しない労働契約は、労働基準法の基準に強制的に引き上げられる効果があります。たとえば「時間外割増賃金は10%」と契約したなら、それは「時間外割増賃金は25%以上」という契約に置き換わるのです。つまり、本当に残業があり、残業代を支払っていなかった場合には25%以上の割増賃金の支払義務は法的に確定します。もしも支払わない場合には、相手が法的手続を踏めば財産を差し押さえられる恐れもあります。
 また、労働基準法には厳しい刑罰規定も置かれており、悪質な場合には会社や代表者、役員などが処罰されることもありますし、労働基準監督署の監督指導により多額の割増賃金の遡及支払いをする企業も後を絶ちません。

 近年、インターネットの普及による情報の氾濫や労働者の権利意識の高まりにより、知識を持っている労働者が増えています。中には、2年間だらだら残業を続けてすべての証拠をもって退職し、すぐさま残業代未払請求をしてくるなど、法を悪用していると思わざるを得ない事案も発生しています。
 会社の普段からの適正な労働時間をはじめとする労務管理、労働基準法の遵守の重要性が高まっています。

(※)60時間超50%以上の割増について、中小企業は当分の間、適用が猶予されています。
金光 仙子(かねみつ・のりこ)
行政書士、社会保険労務士、金光総合事務所所長
金融機関勤務を経た後、十数年にわたり複数のベンチャー企業の総務経理部門に携わり、平成18年独立開業。実務に強い社会保険労務士として労働・社会保険、給与計算アウトソーシング受託を中心に事業展開し、企業の労務管理を総合的にサポートする一方で、外国人の就労等ビザ申請取次行政書士としても活躍、企業の国際化に貢献している。
記事カテゴリー:建築法規 / 行政
タグ:社労士