東京建築賞受賞作品「燕市庁舎」に学ぶ技術研修会
第3ブロック
安田 浩司(アーキテム・安田計画設計室、東京都建築士事務所協会編集専門委員、渋谷支部)
燕市庁舎の環境設計。エコボイドとスイング窓による空気の流れ。
燕市庁舎南側外観全景。(写真・図面提供:梓設計)
 平成28(2016)年3月3日、渋谷区商工会館にて、概ね2ヶ月に1回開催している東京都建築士事務所協会第3ブロックの研修会が開催された。
「燕市庁舎」の設計者に聞く
 いつもは賛助会員会の協力を得ての建材や工法などの研修が主だが、今回は平成27年度に東京建築賞の優秀賞を受賞した「燕市庁舎」の設計者である株式会社梓設計の永廣正邦常務執行役員(永廣スタジオ・リーダー)による講演だ。参加者は25名で、その内容に興味津々で聞き入る。
 皆が知る食器や金属加工で有名な燕三条がある燕市は、平成18(2006)年に3市町が合併したのを機会に、新市庁舎を建設することとなりコンペを行った。審査員は「学識経験者、住民、市会議員」各5人。ちなみに「学識経験者」の定義とは一体何だろう?
4つのえん側
 梓設計が打ち出したのは「4つのえん(縁側、援側、宴側、燕側)」である。『コア東京』2015年9月号、25頁にもあるように、「ふれあいの縁側=開放的な触れ合いの場」、「協働の援側=行政と市民が協働で地域力を活かす場」、「にぎわいの宴側=市民の憩いの場となるテラス空間」、「まちの燕側=コンサートもできる市民を受け入れる広々としたエントランス空間」という4本の柱。もちろんデザインや機能的な面も評価され梓設計に決まったのだろう。
 配置(平面)計画で特筆すべきはアプローチだ。他事務所は当然のごとく北側の幹線道路からダイレクトに入る設計だったのに対し、梓設計案はあえて建物側面を経て南側の広々とした芝生の広場に面する「ふれあいの縁側」からアプローチさせた。このスペースで市民が触れ合うことを期待したのだ。これは他社の案と大きく違い、インパクトがあったようだ。審査員の中には「全面ガラス張りは……」という意見もあったそうだが、もちろん複層断熱ガラスであり、市民審査員からの「やはり開放的な建物がいい」との援護射撃もあったとのこと。
地域性と環境設計
 市民参加の4回のワークショップで意見や要望を取り入れ、「分かりやすさ」を重視し、地域性もありほとんどが車による通勤と来庁、つまり車社会ということで、広々とした駐車場がある。また、めずらしいことに「食堂」はない。これまた地域性なのか、昼食は自宅に帰って食べるか弁当持参がほとんどで、外部業者を入れても成り立たないらしい。もちろん売店はあるので一安心……。
 外壁は金属加工の燕市を象徴した「ステンレス鋼板」だが、何より環境設計に対する内容が勉強になった。200mmのフリーアクセスフロアをダクトとして床から空調を行っているが、ゆっくり送風することにより、暖気がFL+2,000mm程度までに滞留するという。知らなかった……。また、建物中央には「エコボイド」と称する吹き抜けがあり、その上部のハイサイドライトのサッシが風の流れにより動力制御なしに勝手に開閉するタイプ(スイング窓)で、春や秋には「空調いらず」とのこと。約2年間計測を行ったが、事前に行ったコンピューターシミュレーションとほぼ同じ結果が出たという。まさに「エコ」である。
 まだ多くの工夫と技術が詰まった建物であり、ぜひとも行ってみたい建物である。もちろんついでに燕市名産の調理器具や食器類も……。
安田 浩司(やすだ・こうじ)
建築家、アーキテム・安田計画設計室、東京都建築士事務所協会編集専門委員、渋谷支部
1954 年生まれ/ 1978 年 東京デザイン専門学校卒業
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