社労士豆知識 第64回
給与計算の基礎知識①
今泉 朋子(社会保険労務士、今泉事務所)
 皆さんは、給与がどのように計算されているかご存知でしょうか。手順を分けると「勤怠の集計」、「支給額の計算」、「控除額の計算」の3つあり、それらを労働基準法、健康保険法、所得税法等の法律に基づいて計算します。具体例を交え一般的な給与計算を確認してみます。

勤怠の集計
 就業規則等で定められた締め日に基づき、1カ月の労働日数、休日労働日数、有給休暇日数、残業時間(1日8時間、週40時間を超えた労働時間)、休日労働時間等を集計します。休日の労働時間は、後述する割増率が異なるため法定休日とそれ以外の休日とを分けて集計します。どの曜日を法定休日としているかは就業規則等の定めによります(法定休日を定めていない場合は1週間連続勤務した場合において後に位置する休日が法定休日)。
 労働時間の集計にあたり、深夜(22時から翌日5時まで)に働いた時間があれば、その時間も分けておきます。時間の長短にかかわらず、深夜に働くことに対して割増率が適用されるためです。
 勤怠の集計に時間を要することもありますので、締め日から支払日までの間に1週間以上あると安心です。

支給額の計算
 基本給、各種手当、残業代を計算します。基本給や各種手当は、一般的に毎月変わることはありませんが、お子さんの出生に伴う家族手当の変更など社会保険の手続きと連動するケースが多くあります。
 残業代の計算は、まず「(基本給+各種手当)÷月平均所定労働時間」で1時間あたりの給与を算出します。
 この各種手当は、労働基準法施行規則第21条により「家族手当、通勤手当、住宅手当」等を除外できることになっています。個人的な事情により支給される手当を除く趣旨のため、名称ではなく実質で判断します。たとえば家賃×○%のような住宅手当は除外できますが、一律2万円のように定額で支給する住宅手当は除外できません。
 月平均所定労働時間は、「(1年の歴日数−年間休日)×1日の所定労働時間÷12」で求めます。
 次に「1時間あたりの給与×(1+割増率)×時間数」で残業代を計算します。計算式の「1」は1時間分の時給、割増率は労働基準法に基づく次のA~Cの割増率を適用します。
A:1日8時間または週40時間を超える労働時間:25%以上(月60時間を超えた部分は50%以上) B:法定休日労働時間:35%以上 C:22時から翌日5時までの深夜労働時間:25%以上  深夜労働がAまたはBと重なる場合は割増率を合算します。

残業代計算の実際
 たとえば所定労働時間が1日8時間、土日休み(法定休日は日曜日)の会社で1時間あたりの給与が2,000円の従業員が、それぞれ次のように働いた場合の残業代を計算してみます。

例1:金曜日に10時間働いた(残業は10−8で2時間)。
2,000円×(1+0.25)×2時間=5,000円 例2:土曜日に5時間働いた。
2,000円×(1+0.25)×5時間=12,500円  土曜日は法定休日ではないので「0.35」で計算する必要はありませんが、週40時間を超えるので割増率Aを適用。

例3:日曜日に10時間働いた。
2,000円×(1+0.35)×10時間=27,000円  法定休日の労働が8時間を超えても「0.25」を加算する必要はありません。何時間でも割増率Bを適用。

例4:日曜日の22時から23時に1時間働いた。
2,000円×(1+0.35+0.25)×1時間=3,200円  法定休日と深夜労働の重複により割増率B+Cを適用。

 残業の対象とならない管理監督者についても深夜労働には割増率が適用されます。
 たとえば1時間あたりの給与が3,000円の管理監督者が22時から24時の2時間働いた場合、3,000円×0.25×2時間により1,500円の支払いが必要です。残業ではないため「1+0.25」ではなく「0.25」で計算します。
 2023(令和5)年4月から会社の規模にかかわらず、残業時間(1日8時間、週40時間を超える労働時間)が1カ月60時間を超えた場合、超えた時間の割増率が50%以上になりました。改正点にご注意ください。

「控除額の計算」は次号に続きます。
今泉 朋子(いまいずみ・ともこ)
社会保険労務士
一般企業で社会保険・労働保険等の業務に従事/社会保険労務士法人にて給与計算に従事/2019年秋台東区にて開業
カテゴリー:建築法規 / 行政
タグ:社労士