第4ブロック研修旅行2023|新潟を巡る旅
第4ブロック|令和5(2023)年10月29〜20日@新潟
押川 照三(東京都建築士事務所協会板橋支部、+A一級建築士事務所)
恒例の第4ブロック研修旅行を開催した。今回は、新潟県の新潟市、長岡市、十日町市を巡り、北陸の中核都市・新潟の魅力を発見する旅を企画した。
新潟市は本州日本海側で初めての政令指定都市となり、都市施設の充実が図られ多くの文化会館や商業施設が建築されている。また、長岡市や十日町では、復興や町おこしの一環として建てられた魅力的な建物が数多い。
さまざまな観点から取り組まれた建築のその後を見ることで、都市と建築、人と建築の「今」を体験し、今後の私たちの設計の糧にしたいと考え企画した。
市名、県名の由来は、信濃川と阿賀野川の河口にある新しい潟の呼び名である「新潟」に由来するという。県内でも屈指の広さを誇る「福島潟」に、この地域の大きな特徴で都市の基盤となった「潟」を紹介する施設として1997年に青木淳氏の設計で「潟博物館」が建築された。
「福島潟」の北西部に位置する高さ30mを超える逆円錐の建物は、ガラスの外壁に沿ったスロープから、360°のパノラマ展望が広がる。「潟」の雄大な自然と広大な土地を干拓した人間の力を感じさせるに十分なステージとなっている。さらに天然記念物「オオヒシクイ」や希少植物「オニバス」など、「潟」に生息する動植物が紹介され、生態系を知り、直に見ることで新たな「潟」の魅力を発見できる施設となっていた。
【新潟市江南区文化会館】
新潟市が都市施設の充実を図るためにつくった新居千秋氏設計の複合施設。機能としては、図書館、公民館、郷土資料館、ホールが入る。
建物の中心に十字型の廊下(共用部)を挟むように各施設を配置し、その真っすぐ伸びた廊下の上部には洞窟のような独創的な空間が広がっている。そこには、セパ穴を利用した照明が配置され、宇宙を感じさせる異空間が演出されており、各部門につながるこの共用部が建物の一体感を創出している。それと同時に、それぞれの施設の賑わいや視覚による認知がなされることで、新たな利用機会を育んでいるように思える。特に演劇も公演できるホールは、曲面が多用され、廊下とは違う魅力を感じさせる空間となっている。ダイナミックな空間演出には、パリのオペラ座などに見られる演劇空間に引き込む手法がとられていることを感じ、圧倒された。楽屋の壁には、多くの出演者のサインが飾られていて建物の歴史が感じられる部分もあり、市民活動の拠点として十分な機能を発揮している施設であると感じ取れた。
江南区文化会館と同じ新居千秋氏による設計で、円形のらせん状に伸びる外観が特徴の建物。当初予定にはない訪問だったが、幸い上演予定のない日だったのでエントランスホールなどの共用部などを見学できた。
建物の外観は、多目的ホールを中心に建物が渦巻く雲が立ち上がっているような円錐形。エントランスからダイナミックな造形が目に入り、さらに内部では、斜めに伸びる梁や円形の雲のようなアルミの天井材が異空間を演出している。共用部から多目的ホールにつながる空間構成は、前日に見た「江南区文化会館」でも見られた演劇空間に引き込む手法がとられていた。
【アオーレ長岡】
この地域で「会いましょう」の方言である「アオーレ」を名前に冠した複合施設である。地域交流の拠点として隈研吾氏により設計された建物で、アリーナ、市役所、ナカドマ(屋根付きの中庭)が入っている。
ナカドマに面した壁面には市松模様のように配された木材が市民活動と行政の交わりを表しており、建物の外観を特徴付けている。
市民活動や行政との交わり(役所機能、議会場の公開)が、建物演出により行われている。ナカドマではキッチンカーやイベントが催されることで人びとが集い、ガラス張りの議会場は市民が議会の様子をいつでも見ることができる。そのリアルな透明性が市民と行政のつながりを演出している。そのつながりが街の活性化に貢献している好例であると感じる建物であった。
【十日町情報館】
図書館の機能に広域的な人の交流や情報発信の機能を加味した「十日町情報館」は、内藤廣氏の設計で1999年に竣工した。
信濃川が形成した河岸段丘に建てられた建物の内部は、その地域を模したかのような段状の書架スペースを巨大なPC梁が覆う、開放感あふれる書架・閲覧スペースが特徴である。
広い敷地は、各種イベント会場にも使われ、この地域で開かれる世界最大級の芸術祭「越後妻有トリエンナーレ」の会場など、街の情報発信の中心的な存在である。映画の撮影にも使われたカフェも併設された広々とした書架閲覧スペースでは、住民が思い思いのスタイルで読書や勉学などができ、ゆったりとした充実の時間を過ごすことができる。市民生活に潤いを与える文化のつまった建築であった。
【森の学校キョロロ】
最後に訪れたのは、先に紹介した「大地の芸術祭:越後妻有トリエンナーレ」の会場のひとつでもある「森の学校キョロロ」。
松之山エリアの会場でもある「森の学校キョロロ」は博物館であり、里山の生態系を見直す「自然体験型の施設」として手塚貴晴+手塚由比の設計により誕生した。約2,000トンの赤く錆びた対候性鋼板の外壁は、鉱物の力強さが表れ森の中に異彩を放っている。
ここでは、里山の生態系をさまざまな形で展示しており、特に芸術家による動植物の展示は、見る者の興味を掻き立てる表現や、目に見えないものを可視化する間接的な表現により、生物の新しい一面や今までとは違った感覚を呼び起こすような工夫が凝らされていて、自然に対して新たな興味が沸く施設だった。
地域の魅力を芸術の力を借りて表現する施設は、さまざまな形で活用できる手法であると感じると同時に、自治体と芸術家、建築家のコラボレーションが見事にマッチした好例だと思った。
2日間にわたる旅で見た施設はどれも外観や内部空間が魅力的だったが、それをさらに魅力的に見せたのが利用している人びとの存在であった。地域の拠点となる施設では、人びとの活気を演出する建築の存在が際立っており、活動をサポートするその手法に単なる箱モノではない建築の未来を感じることができた。地域の歴史や魅力を発信する施設では、さまざまな形で魅力を体験することにより、言葉だけで得ることのできない説得力が建物の魅力となることを教えてくれた。
今回の研修旅行では、建物のあり方や可能性を感じることができ、新潟の新たな魅力を発見できた。その場でしか得られなかった貴重な体験であった。
新潟市は本州日本海側で初めての政令指定都市となり、都市施設の充実が図られ多くの文化会館や商業施設が建築されている。また、長岡市や十日町では、復興や町おこしの一環として建てられた魅力的な建物が数多い。
さまざまな観点から取り組まれた建築のその後を見ることで、都市と建築、人と建築の「今」を体験し、今後の私たちの設計の糧にしたいと考え企画した。
1日目、新潟市
【潟博物館】市名、県名の由来は、信濃川と阿賀野川の河口にある新しい潟の呼び名である「新潟」に由来するという。県内でも屈指の広さを誇る「福島潟」に、この地域の大きな特徴で都市の基盤となった「潟」を紹介する施設として1997年に青木淳氏の設計で「潟博物館」が建築された。
「福島潟」の北西部に位置する高さ30mを超える逆円錐の建物は、ガラスの外壁に沿ったスロープから、360°のパノラマ展望が広がる。「潟」の雄大な自然と広大な土地を干拓した人間の力を感じさせるに十分なステージとなっている。さらに天然記念物「オオヒシクイ」や希少植物「オニバス」など、「潟」に生息する動植物が紹介され、生態系を知り、直に見ることで新たな「潟」の魅力を発見できる施設となっていた。
【新潟市江南区文化会館】
新潟市が都市施設の充実を図るためにつくった新居千秋氏設計の複合施設。機能としては、図書館、公民館、郷土資料館、ホールが入る。
建物の中心に十字型の廊下(共用部)を挟むように各施設を配置し、その真っすぐ伸びた廊下の上部には洞窟のような独創的な空間が広がっている。そこには、セパ穴を利用した照明が配置され、宇宙を感じさせる異空間が演出されており、各部門につながるこの共用部が建物の一体感を創出している。それと同時に、それぞれの施設の賑わいや視覚による認知がなされることで、新たな利用機会を育んでいるように思える。特に演劇も公演できるホールは、曲面が多用され、廊下とは違う魅力を感じさせる空間となっている。ダイナミックな空間演出には、パリのオペラ座などに見られる演劇空間に引き込む手法がとられていることを感じ、圧倒された。楽屋の壁には、多くの出演者のサインが飾られていて建物の歴史が感じられる部分もあり、市民活動の拠点として十分な機能を発揮している施設であると感じ取れた。
2日目、新潟市から長岡市、十日町
【新潟市秋葉区文化会館】江南区文化会館と同じ新居千秋氏による設計で、円形のらせん状に伸びる外観が特徴の建物。当初予定にはない訪問だったが、幸い上演予定のない日だったのでエントランスホールなどの共用部などを見学できた。
建物の外観は、多目的ホールを中心に建物が渦巻く雲が立ち上がっているような円錐形。エントランスからダイナミックな造形が目に入り、さらに内部では、斜めに伸びる梁や円形の雲のようなアルミの天井材が異空間を演出している。共用部から多目的ホールにつながる空間構成は、前日に見た「江南区文化会館」でも見られた演劇空間に引き込む手法がとられていた。
【アオーレ長岡】
この地域で「会いましょう」の方言である「アオーレ」を名前に冠した複合施設である。地域交流の拠点として隈研吾氏により設計された建物で、アリーナ、市役所、ナカドマ(屋根付きの中庭)が入っている。
ナカドマに面した壁面には市松模様のように配された木材が市民活動と行政の交わりを表しており、建物の外観を特徴付けている。
市民活動や行政との交わり(役所機能、議会場の公開)が、建物演出により行われている。ナカドマではキッチンカーやイベントが催されることで人びとが集い、ガラス張りの議会場は市民が議会の様子をいつでも見ることができる。そのリアルな透明性が市民と行政のつながりを演出している。そのつながりが街の活性化に貢献している好例であると感じる建物であった。
【十日町情報館】
図書館の機能に広域的な人の交流や情報発信の機能を加味した「十日町情報館」は、内藤廣氏の設計で1999年に竣工した。
信濃川が形成した河岸段丘に建てられた建物の内部は、その地域を模したかのような段状の書架スペースを巨大なPC梁が覆う、開放感あふれる書架・閲覧スペースが特徴である。
広い敷地は、各種イベント会場にも使われ、この地域で開かれる世界最大級の芸術祭「越後妻有トリエンナーレ」の会場など、街の情報発信の中心的な存在である。映画の撮影にも使われたカフェも併設された広々とした書架閲覧スペースでは、住民が思い思いのスタイルで読書や勉学などができ、ゆったりとした充実の時間を過ごすことができる。市民生活に潤いを与える文化のつまった建築であった。
【森の学校キョロロ】
最後に訪れたのは、先に紹介した「大地の芸術祭:越後妻有トリエンナーレ」の会場のひとつでもある「森の学校キョロロ」。
松之山エリアの会場でもある「森の学校キョロロ」は博物館であり、里山の生態系を見直す「自然体験型の施設」として手塚貴晴+手塚由比の設計により誕生した。約2,000トンの赤く錆びた対候性鋼板の外壁は、鉱物の力強さが表れ森の中に異彩を放っている。
ここでは、里山の生態系をさまざまな形で展示しており、特に芸術家による動植物の展示は、見る者の興味を掻き立てる表現や、目に見えないものを可視化する間接的な表現により、生物の新しい一面や今までとは違った感覚を呼び起こすような工夫が凝らされていて、自然に対して新たな興味が沸く施設だった。
地域の魅力を芸術の力を借りて表現する施設は、さまざまな形で活用できる手法であると感じると同時に、自治体と芸術家、建築家のコラボレーションが見事にマッチした好例だと思った。
2日間にわたる旅で見た施設はどれも外観や内部空間が魅力的だったが、それをさらに魅力的に見せたのが利用している人びとの存在であった。地域の拠点となる施設では、人びとの活気を演出する建築の存在が際立っており、活動をサポートするその手法に単なる箱モノではない建築の未来を感じることができた。地域の歴史や魅力を発信する施設では、さまざまな形で魅力を体験することにより、言葉だけで得ることのできない説得力が建物の魅力となることを教えてくれた。
今回の研修旅行では、建物のあり方や可能性を感じることができ、新潟の新たな魅力を発見できた。その場でしか得られなかった貴重な体験であった。
押川 照三(おしかわ・てるみ)
東京都建築士事務所協会理事・板橋支部、+A一級建築士事務所
1995年 大阪芸術大学芸術学部建築学科卒業/1998年 日本大学大学院芸術学研究科造形芸術専攻修了/1999年 株式会社ウシダ・フィンドレイパートナーシップ入社/2001年 株式会社ゼロワンオフィス入社/2005年 +A一級建築士事務所設立
1995年 大阪芸術大学芸術学部建築学科卒業/1998年 日本大学大学院芸術学研究科造形芸術専攻修了/1999年 株式会社ウシダ・フィンドレイパートナーシップ入社/2001年 株式会社ゼロワンオフィス入社/2005年 +A一級建築士事務所設立
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