思い出のスケッチ #347
ハバナ、ナシオナル・デ・クーバホテルの庭
井上 武司(Tak建築計画工房)
 アメリカ合衆国の裏庭、カリブ海に浮かぶ島国キューバは1898年にアメリカの支援でスペインからの独立を果たすが、その後アメリカの資本支配が拡大し、国民の不満が蓄積する。メキシコ亡命中のフィデル・カストロ率いる革命軍はアルゼンチンの医師チェ・ゲバラとキューバに渡り、ゲリラ戦を繰り広げ一九五九年に親米政権を倒す。これがキューバ革命である。
 1962年に米ソの核戦争が危ぶまれたキューバ危機が起きる。アメリカのキューバに対する国交断絶・経済制裁は革命以来継続していたが、2014年にオバマ政権は国交を回復。大統領自ら2016年にハバナを訪問してレアル・カストロ国家評議会議長と握手した。
 老ミュージシャンの演奏と日常を描いた映画「ブエナ・ビスタ・ソシアルクラブ」を20年前に見た時から、キューバ旅行の思いは常に頭の片隅にあった。念願かなって一昨年の1月下旬から二週間の旅行を実行、この絵は旅行中に描いた一枚である。情報インフラが遅れたキューバで世界のニュースサイトを折々にチェックしたが、当時新型コロナウイルスの感染は中国のローカルな出来事であった。しかしその後のパンデミックで、海外旅行は随分と遠のいてしまった。
 ハバナ、ナシオナル・デ・クーバホテルは革命前の1930年代、小高い丘に建てられたキューバを代表するホテル。世界の歴史を刻んだ政治家、俳優、スポーツ界などセレブの宿泊時の写真が随所に展示され、外装やインテリアは古き佳き時代の香りを留めている。
井上 武司(いのうえ・たけし)
建築家、Tak建築計画工房
1945年 奈良県生まれ/1969年 日本大学理工学部建築学科卒業後、鹿島・建築設計本部/1989年 KAJIMA DESIGN EUROPE代表/1998年 鹿島・建築設計本部 部長/2004年 同プリンシパル アーキテクト/2008年 鹿島退社、Tak建築計画工房設立/AACA主催「建築家たちのスケッチ展」同人、現在に至る
主な作品:ホテルべレヴュー・ドレスデン(1985年)/グランドホテル・ベルリン(1987年)/フランクフルト日本人国際学校(1990年)/汐留メディアタワー・パークホテル東京(2003年)/軽井沢大賀ホール(2004年)ほか