BIMの課題を解くオブジェクト標準とBIMライブラリ 第2回
データから読み解くBIM普及の現状・導入効果・課題
寺本 英治(BIMライブラリ技術研究組合専務理事)
図1 業種別のBIM導入状況
図2 規模別のBIM導入状況
図3 BIMへの期待と効果(⑤ 顧客へのプレゼンテーションに用いる場合・経験年数別)
図4 企業規模別のBIM導入効果
図5 BIM導入による効果やメリットが実感できる場面
図6 BIM導入による効果やメリットが得られていない場面
図7 BIMの導入に至らない理由
概要
 このシリーズ第1回(『コア東京』2021年12月号)の冒頭に、「日本でのBIMの状況は、海外のBIM先進国と比較すると、残念ながら広く利用・普及している状態ではないといえるでしょう。」と書きました。第2回では、なぜそう言えるのか、また海外と比べてどこが課題(違っているのか)なのかをお話しします。
 日本のBIM普及の現状・導入効果・課題を示すデータとしては、「(一社)日本建築学会 設計・生産の情報化小委員会 WG 年次報告」、「建築士事務所のBIMとIT活用実態にかかわる調査報告書(WEB版)」(令和元年9月、(一社)日本建築士事務所協会連合会 BIMと情報環境WG)、「BIM活用実態調査レポート2020年版」(日経BPコンサルティング)等がありますが、全国の設計事務所、施工業者を対象として網羅的な調査結果を公開している、国土交通省の建築BIM推進会議が行った「建築分野におけるBIMの活用・普及状況の実態調査」(令和3年1月)では最新の状況を把握できますので、これを引用させていただきます。
また、海外のBIMの普及の現状・導入効果・課題に関しては、英国NBSの「The NBS BIM Report2020」を引用します。
日本のBIM普及の現状・導入効果・課題
 「建築分野におけるBIMの活用・普及状況の実態調査」は、建築BIM推進会議を構成する設計関係7団体傘下の440社、施工関係4団体傘下の304社、その他69社のアンケートへの回答を整理しています。設問は43問と多いため、ここではBIMの普及、効果と課題に関する回答に限定して紹介します。
 図1は業種別のBIM導入状況を示しています。全回答者の約半分がBIMを導入しており、設計事務所は43%、施工業者は49%が導入しています。また施工業者でのBIM導入が、総合建設業(ゼネコン)と専門工事会社でほぼ同じ状況であるのに対して、設計事務所では総合設計事務所が81%に対して専門設計事務所が33%であることが際立っております。なお専門設計事務所としては、意匠、構造、設備、積算事務所です。
 図2は規模別のBIM導入状況を示しています。従業員数にほぼ比例してBIM導入が進んでいることがわかります。
 次にBIM導入のどこに効果を感じ、また何がBIM導入の障害になっているかを見ていきます。
 BIM導入のきっかけと効果に関して、①「業務の効率化の期待」、②「業務の質の向上を期待」、③「受注機会の創出を期待」、④「データ連携・蓄積を期待」、⑤「顧客へのプレゼンテーションに期待」、⑥「発注者からBIMを求められた」、⑦「協力会社等、業務上の関係者からBIM活用を求められた」、⑧「海外案件に対応するため」、⑨「同規模同業者がBIM活用を進めていた」、⑩「海外の動向をみて導入した」、⑪「業界の将来的な動向を予測して導入した」に関する設問があり、回答の選択肢は、各々「期待・予想以上の成果があった」、「期待・予想程度の成果があった」、「期待・予想ほど成果がでなかつた」、「期待・予想の成果が全くなかった」の4通りです。
 すでにBIM導入した者の回答では、その導入のきっかけと効果は、⑤「顧客へのプレゼンテーションに期待」に関しては、「期待・予想以上の成果があった」と「期待・予想程度の成果があった」の回答を合わせて80%で(図3参照)、上記11問の設問に対する回答の中で、最も効果を感じているとの回答で、導入のきっかけとしても、また実際の効果も高いことがわかります。また図3では、導入からの期間が長い方が、「期待・予想以上の成果があった」と「期待・予想程度の成果があった」の回答合計が高まっていますので、経験や実績が活きていると推定されます。
 また、BIM導入のきっかけとして、⑥から⑧の「発注者、関係者からの要求、海外案件への対応を求められた場合」に関する設問への回答では、「期待・予想以上の成果があった」と「期待・予想程度の成果があった」の回答合計が70〜80%、⑨の「同規模同業者のBIM導入がきっかけ」が81%、また、⑩⑪の「海外や将来動向が導入の要因となった場合」が各々100%(回答1件)、58%で技術動向に敏感な姿勢がうかがえます。
 また図4に企業規模別のBIM導入効果についての回答が示されています。一般的には企業規模が大きいほど導入効果が大きいという結果が読み取れますが、6〜10人規模の企業(設計事務所と推測されます)で効果が大きいという特徴的なことがあります。設計事務所の方もBIM導入をご検討いただければと思います。
 図5には、BIM導入による効果やメリットが実感できる場面として、3D可視化によるコミュニケーションや理解度の改善、顧客に良い印象を与えられた、設計図書間の整合が図りやすくなった、が主な回答です。
 さらに図6では、BIM導入による効果やメリットが得られていない場面として、CAD等と二重作業になり、作業手間等が増加した、習熟時間・作業手間に対して得られるメリットが少ない、協力会社でBIMが導入されておらず分野間の連携ができない、人材育成の費用・時間等が負担となっている、が主な回答です。
 一方、BIMを導入していない要因に関しては、図7に示すBIMを導入していない企業が導入に至らない理由として、整理されており、その中で回答率の高いものを以下に示します。
・「発注者・業務上の関係者からBIM活用を求められていないため」
・「CAD等で現状問題なく業務を行うことができているため」
・「BIMを習熟するまで業務負担が大きいため」
・「業務上の関係者からBIM活用を求められていないため」
・「BIMを活用する人材がいないため、人材育成・雇用に費用がかかるため」
図8 BIM導入の推移
図9 BIMが利用されるプロジェクトの分析
図10 BIMを使用する場合の適用標準
図11 BIMプロジェクトで関与した領域(直近1年間)
図12 BIM利用の効果
図13 BIMを進める上で何が必要か
図14 BIM利用の障害
図15 BIMの利用が何に結び付くか
NBS年次BIM報告から見るBIM普及の現状・導入効果・課題
 前回にも紹介しましたが、NBSは、英国王立建築築家協会(RIBA)の下部組織で、ナショナルBIMライブラリ、デジタル標準仕様書、分類体系Uniclass2015を所管しています。現在、本部はニューカッスル・アポン・タインにあります。
 さてNBS年次BIM報告2020では、図8にBIM導入の2011年から2020年までの水位を示しています。残念ながら調査対象が不明ですが、2011年には「BIMを知らないという回答」が43%で「BIMを知っていて利用している」は13%でしたが、2020年には「BIMを知っていて利用している」が73%まで増加しています。またBIM利用者の23%は、全てのプロジェクトでBIMを利用し、46%は過半のプロジェクトでBIMを活用しています。2019年に利用率が若干落ち込んでいるのは2016年から始まった公共プロジェクトでのBIM導入の動機付け(政府指令)がなくなったことと、また政府の英国デジタル立国戦略を支援していたBIMタスクグループが、英国デジタル立国センターに引き継がれたことによる枠組み変化の影響もあると報告書では分析しています。BIM利用が過半を超えたため安定成長期に入ったということのようです。
 図9は、どのようなプロジェクトでBIMが利用されるかを示しています。
 公共プロジェクトより、民間プロジェクト、1回限り受注する顧客よりも繰り返し受注する顧客、改修よりも新築プロジェクトでBIMが利用される割合が高いことを示しています。
 図10はBIMを使用する場合、何の標準を用いていますかという質問の回答です。
 回答ではBS1192/PAS1192のレベル2、次がISO19650、3Dパラメータモデルの順です。BS1192/PAS1192のレベル2は各企業単位でBIMを使用しているレベルです。レベル3では企業の枠を超えた協働作業を行うことを意味します。
 図11は直近1年間にBIMプロジェクトのどの領域に関与したかを聞いています。回答では、BIM実行計画(BEP)、共通データ環境(CDE)等への関与が多いようです。
 図12はBIMがどのような効果があるのかをBIM利用者と未利用者に聞いています。図面を含む建設関係図書の調整の改善、プロジェクトでの課題の発生リスク削減、生産性の向上等が主な回答として挙げられています。
 図13は、BIMを進める上で何が必要かを聞いています。メーカーからのBIMオブジェクト供給、運用・維持管理にBIM成果物を利用すること等が主な回答として挙げられています。
 図14はBIM利用の障害は何かを聞いています。回答で多い順から、「顧客からBIM利用の要求がないこと」、「組織内の専門技術がいないこと」、「研修の不足」、「プロジェクト規模が小規模であること」等が主な要因として挙げられています。
これは、図7に示される日本でBIMの導入に至らない理由、
・「発注者・業務上の関係者からBIM活用を求められていないため」
・「CAD等で現状問題なく業務を行うことができているため」
・「BIMを習熟するまで業務負担が大きいため」
・「業務上の関係者からBIM活用を求められていないため」
・「BIMを活用する人材がいないため、人材育成・雇用に費用がかかるため」
と非常に類似しています。
 BIM導入の障害要因(図14)が非常に類似しながら、両国でのBIM利用に差がある(英国では70%以上にBIMが普及)している理由は、BIMの導入効果の違いではないかと考えて、データを振り返ってみましょう。
 日本では図5「BIM導入による効果やメリットが実感できる場面」に、「3D可視化によるコミュニケーションや理解度の改善」、「顧客に良い印象を与えられた」、「設計図書間の整合が図りやすくなった」が主な効果としてあり、一方、英国では図12のBIM利用の効果に、「図面を含む建設関係図書の調整の改善」、「プロジェクトでの課題の発生リスク削減」、「生産性の向上」等が主な回答として挙げられています。すなわち日本では、まだ3D可視化によるコミュニケーションや理解度の改善も含め感覚的な効果が主体であるのに比較して、英国では「生産性の向上」を実感できる段階にあることが違いといえます。
 生産性向上といえるのは、図6に示される「CAD等と二重作業になり、作業手間などが増加した、習熟時間・作業手間に対して得られるメリットが少ない、協力会社でBIMが導入されておらず分野間の連携ができない」等に理由があると考えられます。特に「CAD等と二重作業」は英国の回答にはありません。この点は従来建築の授業で教えられてきた「図面は命」という精神から、CADからBIMに代わっても出来上がりの図面の出来栄えや製図ルールをCAD時代のルールを適用する慣習がありがちで、その改善と、図10に示される「BIMを使用する場合の適用標準」が明確であることも必要だと考えています。
 図15はBIMの利用が何に結び付くかを聞いています。回答は、仕事の仕方の変革、建設生産性の向上、建設産業の変革等です。
図16 今後のBIMの普及を図る上で特に期待すること
まとめ
 以上、日本と英国の状況をデータ元に比較しましたが、BIM導入率が日本は46%、英国は73%で明らかな差があります。ただし母数となる集団の定義が両国で同じかどうかは不明確ですが、二つの調査が不思議に類似した結果を導いていることから、結果の信頼性は高いと考えます。
 最後に国土交通省の調査で「今後のBIMの普及を図る上で特に期待すること」(図16)として、BIMオブジェクトの標準化、属性情報の標準化、データ連携手法の確立・情報共有環境(CDE)の整備、ライフサイクルを通じたBIM活用の進展、BIMオブジェクトと仕様情報の連携等が挙げられていますのでご紹介します。

 調査の全体を参照されたい場合は下にアクセスしてください。
建築分野におけるBIMの活用・普及状況の実態調査:
https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/content/shosai.pdf
NBS年次BIM報告:
https://www.thenbs.com/knowledge/national-bim-report-2020
寺本 英治(てらもと・えいじ)
(一財)建築保全センター理事・保全技術研究所長(兼)BIMライブラリ技術研究組合(BLCJ)専務理事
昭和50年建設省(当時)入省/本省、関東、近畿、東北地方整備局、JICAフィリピン建設生産性向上プロジェクトリーダー、本省建築課長、整備課長(兼)総理大臣官邸建設室長、官房審議官を歴任。その後(一財)建築保全センター専務理事を経て、2019年から現職/その他:buildingSMART Japan理事、JFMA戦略委員会委員、元日本建築学会理事等