東京建築賞の特徴と意義
──選考委員の経験を踏まえて
小林 克弘(首都大学東京教授)
 第30回(2004年)から昨年の第41回に至るまで、12年間にわたって東京建築賞の選考委員を務めさせていただいた。これまでに経験した日本建築学会の作品選集・作品選奨やBCS賞の選考委員などの委員任期2年と比べるとたいへん長い期間であり、東京建築賞の歴史の約3分の1弱を実体験させていただいたことになる。その経験を踏まえて、東京建築賞の特徴と意義や今後についての私見を述べたい。
4つの部門の意味/賞の社会的価値の定着へ
 東京建築賞の特徴のひとつは、4つの部門:戸建住宅部門、共同住宅部門、一般部門一類、一般部門二類を設定して、部門ごとに選考を行うという点である。こうした部門設定は、東京建築賞に限ったことではないかもしれないが、建築というさまざまな建物種別を対象にした賞としては重要なことであろう。東京建築賞は、部門設定に加えて、造形、技術、都市への貢献、使われ方など、総合的な審査を行うことで、非常にバランスの取れた選考結果が得られているのではないだろうか。
 そうした選考の努力もあって、東京建築賞は、着実に社会的評価の高い賞になってきているように思う。私が選考に加わった第30回(2004年)は、応募作品数が合計27点であったが、第35回(2009年)には、計84点(戸建住宅部門27点、共同住宅部門27点、一般部門一類15点、一般部門二類15点)に及んだ。ここ数年は、その中間くらいの応募数になっているが、数の上のみならず、質の上でも優れた作品の応募がなされ続けていることは、賞の社会的価値の定着を示す事実であろう。
東京都知事賞のクライテリア
 東京都知事賞という栄誉ある賞を設定していることも大きな魅力であろう。第39回(2013年)からは、各部門の賞を決める前に都知事賞作品を決定する方式に変わったが、第38回までの都知事賞は各部門の上位入賞作品から選ぶという方式であった。その結果を見直してみて興味深いのは、9年間に、戸建住宅部門から1作品、共同住宅部門2作品、一般部門一類2作品、一般部門二類4作品と、さまざまな部門から都知事賞が選ばれていたことである。都市環境や都民生活の向上への貢献となると、大規模な作品が選ばれがちになるように思えるが、極めて柔軟な視点から選考が行われたことがわかる。
時代を映す東京建築賞
 応募作品の中に、2010年ごろから、リノベーションやコンバージョンが増えてきたことは、時代を反映した動向であろう。「東京駅丸の内駅舎保存・復原」が第40回東京都知事賞を受賞したことは記憶に新しい。そうした特別な歴史的価値をもつ作品に限らず、住宅をリノベーションした「T-T space」(第36回)や「お茶の水のリノベーション」(第39回)、産業施設を市庁舎に転用した「山梨市庁舎」(第36回)、都心の中学校を児童施設などに転用した、「しんえいこども園 もくもく」(第41回)などは、より一般的なリノベーションやコンバージョンの可能性を提示している。新築と併せて、こうした作品を評価するという姿勢は貴重であろう。
 12年間を振り返る際に、幸い、東京都建築士事務所協会HPでの第30回以降の受賞作品データおよび受賞理由を掲載したWebサイトを参照できた。しかし、残念ながら、それ以前のデータは、このサイトでは見ることができない。一方、会報誌『コア東京』が2015年4月号から新たな装丁になり、並行して、内容刷新の検討および「コア東京Web」の整備が進められている。その経緯は、2015年4月号に加藤峯男氏(編集専門委員会担当理事)執筆による「『コア東京』新装オープンの経緯」に述べられているが、この先、東京建築賞に関しても、過去に遡ってデータベース整理およびアーカイヴズ化が進むことを大いに期待したい。折角、40年以上の歴史を持つ貴重な賞なので、賞の選考に長く関わった者としては、東京建築賞を第1回からアーカイヴズ化していただきたいと強く願う次第である。今が絶好の機会であろう。
小林 克弘(こばやし・かつひろ)
建築家、首都大学東京教授
1955年生まれ/1977年 東京大学工学部建築学科卒業/1985年東京大学大学院工学系研究科建築学専攻博士課程修了、工学博士/東京都立大学専任講師、助教授を経て、現在、首都大学東京大学院都市環境科学研究科建築学域教授
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