VOICE
小山 充男(東京都建築士事務所協会北部支部、建築工房 上二 一級建築士事務所)
課題「ギャラリーのある家」
未だ衰えを知らないコロナウイルスが世界を一変させた。今までのあらゆる常識が通用しなくなった。事務所協会でもリモートによる行事、会議が増えている。協会会員の皆様も多寡にかかわらず、いやが応でもその変化に巻き込まれていると思う。その影響は多方面へ及んでいる。
 大学の授業もリモート授業になっていることはニュースで聞いていた。親の職業を意識したか否かは知らないが、この春、息子が大学の建築科へ進学した。息子から「お父さん、これをPDFにするにはどうしたらいいの?」と突然質問される。設計課題などの提出物はPDFをメールで提出することも多いとのこと。これも対面授業が少なくなった影響だが、さらに作品の講評会がリモートによるとは驚きだ。コロナウイルスの影響を身近に感じた出来事だった。
 自宅で課題作業を進めている息子を見ると、自分の学生時代と様変わりした設計作業も新鮮に感じる。設計作業は製図道具を使っていることもあるが、パソコンの3D機能を駆使していることが多い。製図板に張ったトレぺへいかに太さを変えずに線を引くか苦心していた自分とは隔世の感がある。さらにBIMの授業もあるとのこと。PDFに変換するくらいの質問は答えられるが、BIMの質門を投げかけられても返事に困るだろう。BIMが何たるか知らぬ自分にアドバイスができるわけがない。本誌では「ICT時代に建築士はどう生きるか」と題し2020年6月号から芝浦工業大教授の志出一哉先生にBIMに関して連載していただいた。BIMの概略だけでも知らなければ、建築を志した者の先輩として面目が立たない。これを機に連載を読み返そうと思う今日この頃だ。
歴史を紐解けば過去の感染症の流行が社会の変化をもたらしている。中世ヨーロッパで猛威を振るったペストは、人口の3分の1が犠牲になったことで、深刻な労働不足が起きた。その結果、賃金が上がり生活水準が上がったといわれている。建築業界でもコロナ禍によるサプライチェーンからの供給不足に伴う建材調達の遅れや、アメリカに端を発した住宅需要の増加によるウッドショックなどへの対応など、急激な構造変革が迫られている。これから新型コロナウイルス感染症のパンデミックは世界にどんな変化をもたらすだろうか。収束は未だ見えないが人びとの意識に変革を起こしたことは間違いないだろう。
小山 充男(こやま・みつお)
東京都建築士事務所協会北部支部、建築工房 上二 一級建築士事務所
1967年長野県松本市生まれ/武蔵野美術大学建築学科卒業
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