持続的発展のための財務体質改善・強化とBCP
加藤 秀司(株式会社翔コンサルティング)
 BCPは一般的に「緊急時に事業を継続・復旧させるための計画」と定義され、多くの場合自然災害を想定している。一方、今まで多くの中小企業経営者のお話しを伺った経験において、縮小する市場で事業を継続するということは、自然災害の想定に加え、限られた経営資源である「人・物・お金・情報」を良い状態に保ち続けることが、中小企業にとってのBCPではないかと考えている。
 自然災害を中心としたBCP作成に関しては、中小企業庁が推奨している「事業継続力強化計画認定制度」を検索すると、要件を満たすための記載項目や、特典等が詳細に記されているので、ここでは割愛させていただく。
変化に対応した社内体制の再定義──テレワークの可能性
 この観点から今後速やかに実施することとして、総人口の減少に伴う市場規模縮小等による外部環境の継続的かつ大きな変化に対応した社内体制の再定義を挙げたい。今までは考慮する必要がなかったので、思考、行動を変える必要がある。
 きっかけづくりとしては、「日常業務」、「経済誌」、「展示会で開催されるセミナー」、「興味あるメルマガ」等から変化の予兆に敏感になる習慣を身に着け、その後の展開について仮説、検証の繰り返しを行ってみてはいかがだろうか。このような習慣化は、不確実性を含んだ将来に対する判断と行動を行いやすくするといわれている。これが唯一無二の答えではないので、ご自身で納得できる方策を取り入れることをお勧めする。
 たとえば「テレワーク」の導入は、コロナが収束しても元には戻らないと考えられているので、大きな変化と捉えることができる。体験することにより、特に時間の使い方に対するメリットが伝えられている(もちろん、デメリットもある)。これらのことから、自宅のオフィス化、サテライトオフィスのさらなる普及等が考えられ、多くの建築士事務所にとって追い風になる可能性がある。
 企業にとっても単なるテレワークの推進ではなく、合理的なコスト削減や、働く環境の改善等をアピールすることで、人材確保と定着のきっかけとなるので、営業を行う際の訴求効果を高めることも可能である。
財政状況の棚卸を──キャッシュフロー計算書
 次に、特に中小企業においては、いつの時代でもキャッシュの大切さが指摘されているが、ご要望による財務診断を行うと、資金繰りや利益率の改善を実現できる場合が多い。また、会社法で定められていないので、個人の経験からはCF(キャッシュフロー計算書)を作成している中小企業はほとんど見かけない。しかし、B/S(貸借対照表、バランスシート)、P/L(損益計算書)に加え、CFを横断的に見ることで現状の財政状況に対する改善・強化のきっかけが見えてくる。
 さらに、「出ていくお金」の見直しは利益に直結することが多いほか、法人格を有している場合、個人との使い分けによる改善の可能性もあるため、一度財政状況の棚卸しを行ってみてはいかがだろうか。この一連の作業でコストがかかることはないので、気軽にお声がけいただければ幸甚である。
業務効率化と生産性向上へ──業務の可視化
 財務項目に加え、非財務項目である「時系列による業務の洗い出し」、「改善のための施策」、「評価・検証と修正」を行うことでも、業務効率化と生産性向上に効果があるとされている。
 検証の結果、現状業務の半分が不要、または置き換え等の理由により即座に効率化と生産性向上が実現できたという事例があるほか、業務を「可視化」するだけで要不要、置き換え等の判断に役立つ。
 今までの習慣を大きく変えることはそう簡単ではないが、業種、規模に関係なく避けて通れない過程であり、中小企業は、変革に対する時間と労力が格段に少なくて済むという利点がある。未着手であれば、自社で容易に実施できる施策であり、一定の効果が期待できるので、ぜひ行っていただきたい。
 今回ご紹介した施策は、自社の経営資源を良い状態に保つことが期待できるため、これが機となって皆さまの戦略立案の一助となれば幸いである。
加藤 秀司(かとう・しゅうじ)
株式会社翔コンサルティング代表取締役
大手証券会社、保険会社を経て、主に中小企業経営者に対するお金を中心としたコンサルティングを行う/2015年 株式会社翔コンサルティングを設立/中小企業に対して、経営資源である「人、お金、情報」を中心とした業務改善、戦略立案等のコンサルティング事業を行っている。
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