働き方改革を考える 第17回
働き方改革WGの活動を振り返って
寺田 宏(東京都建築士事務所協会副会長、働き方改革推進ワーキンググループ主査)
 「働き方改革」は少子社会の中で重要な課題で、積極的な業界や一部の会員各社はさまざまな施策にすでに取り組んでいます。また、コロナ禍は働き方改革に加速を加え、リモートが日常となり、多くの皆様は否応なく実行したと感じられたのではないでしょうか。いまや会社規模に関係なく労働基準法改正が令和2(2020)年4月施行され、コロナ禍で急速に進行しましたが、まだまだ温度差がわれわれの業界では大きく、認識が低いことです。無意識の当たり前が当たり前の不適格になりかねないことを、改めて認識いただくためにワーキングとしては活動しました。
「働きかた改革はなぜ必須か?」を問い直す
 好事例をさまざまな規模の企業にヒヤリングし、業界外で工夫をなされている企業などを探して、その事例を『コア東京』に連載として発信しました。さらにそれを業界外のこれからの設計を志す人へ発信するためにスパイラルアップ事業では、インターネットでの設計界の魅力発信にも協会として取り組みました*1。
 ただ、令和2年(2020)年4月の緊急事態宣言以降は、議論はさておき在宅やサテライトでの勤務、家庭での夫婦同時就業、デジタルツール活用などを実行せざるを得なくなり、多様な働き方への改革が加速し、業界は働き方の変革を受け入れざる負えなくなっています。
見えてきた課題、自らの業務スタイルに合わせる
 会員の皆様向けに「テレワークに挑戦」としてZoomでの緊急セミナーを昨年に開催、「ホストとして活用できる技術」を発信しました。Zoomを知っていただけましたが、課題も見えました。
 テレワーク(リモートワーク)の課題を以下にまとめます。
① コミュニケーションのあり方(できることとできないことの業務分析、ツール環境整備)。
② テレワークの経営者の課題(ルール・業務規則の整備、勤怠管理、残業管理、健康の管理・確認、テレワーク中の労災問題、諸手当:通勤手当、在宅手当、光熱費補助など)。
③ セキュリティ対策(プリントアウト問題、守秘義務範囲など)。
④ 現場の工事監理(ネットワークではやはりできない、報告書の作成)。
 また、テレワークのための空間整備ということでは、これからの働き方の先駆的事例の梓設計の本社「HANEDA SKY CAMPUS」や、執務空間を提案するイトーキの新本社オフィス「ITOKI TOKYO XORK」を見学させていただきました。
 自らの業務スタイルに合わせたオリジナルな働き方を構築することが重要ということがわかりました。
多様な働き方の生産効率と成果の評価
 一方で設計活動のプロセスと成果に関わる問題があります。設計業務に必要な日常コミュニケーションに代替する仕組みができていたかは不明です。今までは日常会話の中でヒントをつかみ、日常的なコミュニケーションで洗練させていった成果品の品質が保たれていることを考えなければなりません。また、生産効率を図る指標はいまだ不完全です。個人の仕事の業績に対して公平性のある評価も求められています。
 また、在宅ワークをする中でアンケートでは、女性の負担が増えたなどの回答が寄せられ、必ずしも在宅が女性活躍推進に結び付いていません。また、これからの戦力としてリタイヤした優秀な技術者の再雇用も課題です。
会社規模に関わらない企業経営の課題を追求
 働き方改革で着目しなければならない点は、これが会社規模に関わらず、さまざまな経営資源に影響することです。さらには設計業務の担い手確保にも大きく関わるとともに、何より、働き方改革は日本全体の課題であり、全業界が同じ取り組みをしているということで、避けて通れない変革です。
 以上を踏まえ喫緊の課題として、これからの働き方改革の焦点は、① 多様な働き方。②人材確保。③ ネットワーク活用の効率とリスク。④ 法制度の展望、と考えています。
 建築設計業界が永く活気ある業界となるためにも働き方改革を今後も考えて会員の皆様へ有意義な情報をタイムリーに提供していきたいと思います。
ワーキングの成果として会員の皆さまへ
 ワーキングの成果を小冊子『働き方改革推進レポート|ニューノーマルの働き方に向けて』にまとめました。会員の皆様の事務所経営・運営の一助となりますように、どうかご一読いただきご活用いただければと思います。
 本ワーキングの活動に御協力いただきました会員の皆さま、各社の皆さまには改めて御礼申し上げます。ご協力ありがとうございました。今後とも協会活動をよろしくお願いいたします。

*1:学生を含めて広く建築設計業界を知っていただくためにスパイラルアップ事業の一環としてホームページを開設した。http://re-archinet.com/

寺田 宏(てらだ・ひろし)
東京都建築士事務所協会副会長、団体課題別人材力支援事業運営委員会委員長、清水建設株式会社一級建築士事務所
1956年 大阪府生まれ/京都大学大学院修士課程(建築学専攻)修了/1980年清水建設株式会社入社、清水建設株式会社一級建築士事務所/現在、同建築営業本部副本部長/中央支部