鶯啼居
設計|山岡嘉彌デザイン事務所
第49回東京建築賞|共同住宅部門 奨励賞
正面外観夕景。「銀古美」をコンセプトとする建物の1階に店蔵を保存・再生。
  • 正面外観夕景。「銀古美」をコンセプトとする建物の1階に店蔵を保存・再生。
  • 保存・再生された店蔵内部。
  • 4階住戸リビングルーム。
  • 移設前の店蔵内部
  • 保存・再生した店蔵内部の構成
  • 1階平面図
  • 2階平面図
  • 4階平面図
  • 断面図
  • 断面図
  • 凡例
建築主:
個人
表彰建築士
事務所:
一級建築士事務所山岡嘉彌デザイン事務所
施工:
白石建設株式会社
所在地:
東京都港区南麻布3-3-33
主要用途:
共同住宅
構造:
RC造
階数:
地上5階
敷地面積:
452.22㎡
建築面積:
344.00㎡
延床面積:
1,214.17㎡
竣工:
2021年8月
撮影:
坂口 裕康
設計趣旨:
・旧江戸御府内での最古の店蔵となった建物の保存再生
・集合住宅として店蔵と調和した「銀古美」をコンセプトとした江戸文化の保存と継承
・町の証人としてその地に保存し、町の歴史と文化を次代に伝える役割を担う

 建設地の成り立ちは、江戸時代にまで遡る。かつて大名(仙台藩・松平陸奥守)の下屋敷が隣接地にあり、そこへの出入り商人たちがつくった町である。しかしながら、江戸時代の商人町は、明治以降には商店街となって栄えた時期もあったが、徐々に商店が減っていき、現在はその面影はほとんどなくなった。商人町の最後の証しとして、江戸時代中期から生き続けてきた「店蔵」を守り継承したいと願った。
 他の地に移すという保存はこの場合意味をもたない。建物そのものの価値だけではなく、「その地に存在し、その地の歴史の証人」であるからである。地域の「リビング・ヘリテージ」(生きた文化遺産)として利活用して、歴史的意義を語り継ぎ、次代へと継承していくことを目指している。
(山岡 嘉彌)
山岡 嘉彌(やまおか・よしや)
山岡嘉彌デザイン事務所 代表
1971年 武蔵工業大学(現:東京都市大学)工学部建築学科卒業/1974年 早稲田大学大学院修士課程修了後、坂倉建築研究所入社/1993年 文化庁派遣芸術家在外研修員(RENZO PIANO+UNESCO & BUILDING WORKSHOP)後、山岡嘉彌デザイン事務所設立/2010年 九州大学大学院客員教授/2012年 東京都市大学大学院客員教授
選考評:
 江戸時代から残る店蔵を保存再生しながら、母屋と共に共同住宅へと建て替えを行ったものである。店蔵部分の再生にあたっては、研究者らと共に解体前、解体中、解体後にわたり綿密な実測調査を行っており、忠実に再現されている。また部分的にあえて仕上げを途中で止めて、その仕組みを見えるようにするなど、技術の継承にも心配りがされている点が目を引く。ただ、でき上がった空間があまり積極的に活用されていなかった点がやや残念である。
 本建物は共同住宅であるが、住宅部分は見ることができなかった。ただ図面からは特に特徴的な部分は見受けられない。その代わりとして見せていただいたオーナーの住居部分は、屋上もうまく使いながら快適な空間が構成されており、細部まで目が行き届いた優れた設計であった。
 もうひとつ特筆すべき点は、単に単体建物の建て替えにとどまらず、街づくりにも目を向けて先導的な役割を果たすことも意図している点である。まず建物を道路からセットバックし、道路に面した部分は低層に抑えている。そしてそれをベースとした通りの将来像を作成しており、すでに隣の建物はその意図を受け入れ実践しているなど、将来に可能性を感じさせる点も評価できる。
(永池 雅人)
永池 雅人(ながいけ・まさと)
一般社団法人東京都建築士事務所協会副会長、株式会社梓設計フェロープランナー
1957年 長野県生まれ/1981年早稲田大学理工学部建築学科卒業後、梓設計株式会社入社/現在、同社フェロープランナー