千代田区立九段小学校・幼稚園
設計|久米設計
第47回東京建築賞|一般二類部門奨励賞
南側の校庭より見る。左の西棟は保存・活用。正面の北棟は校庭側外観を復元。右は新築の東棟。校庭地下に体育館。
  • 南側の校庭より見る。左の西棟は保存・活用。正面の北棟は校庭側外観を復元。右は新築の東棟。校庭地下に体育館。
  • 西棟1階の小学校昇降口。
  • 北棟3階の教室、廊下、オープンスペース。
  • 西棟2階の校庭側廊下。
  • 東棟4階の屋内プール。
  • 配置図
  • 北棟断面図
建築主:
千代田区
設計:
株式会社久米設計一級建築士事務所
施工:
ナカノフドー・久保工建設共同企業体
所在地:
東京都千代田区三番町16
主要用途:
小学校、幼稚園
構造:
RC造、SRC造、一部S造
階数:
地上4階、地下2階、塔屋1階
敷地面積:
4,558.11㎡
建築面積:
1,841.21㎡
延床面積:
9,282.67㎡
工事期間:
2015年10月〜2018年7月
撮影:
川澄・小林研二写真事務所 浜田 昌樹
設計趣旨:
 復興⼩学校のひとつである九段⼩学校・幼稚園の保存・改築のプロジェクトである。
 既存校舎(大正15/1926年竣工)は歴史的価値が⾼く、地域にとって愛着のある建築である⼀⽅で、現代の教育環境を満たす校舎とするには、旧校舎の約2倍の床⾯積が必要であり、限られた敷地のなかで3階建ての旧校舎のすべてを保存することは困難であった。そこで、コの字型の旧校舎の校庭側の壁⾯位置を維持し、L字型の旧校舎のうち⻄側校舎を保存・活⽤し、北側校舎は校庭側から見た外観と構造を復元的に整備、そして東側には新校舎を増築することとした。
 改築部は校庭下を体育館として有効活⽤する計画とし、必要床⾯積を確保した。
 新築する東側校舎については、現代的な材料を⽤いながら柱のリズムを踏襲し、新旧校舎がバランスよく共存・調和することを⽬指した。
 竣⼯後は、地元の⽅々に愛着のある景観を維持しつつ、オープンスクール等の最新の設備による教育環境を実現し、活⽤されている。
(小牧 実豊、森田 純)
小牧 実豊(こまき・さねとよ)
久米設計大阪支社支社長
1965年 大阪府生まれ/1991年 早稲田大学理工学研究科修了久米設計入社/1996年 日本国政府アンコール遺跡救済チーム/現在、同社大阪支社長
森田 純(もりた・じゅん)
久米設計設計本部建築設計部副部長
1964年 東京都生まれ/1987年 明治大学工学部建築学科から大学院工学研究科博士前期課程/1989年 久米設計入社/現在、同社設計本部建築設計部副部長
選考評:
 1938年竣工の旧公衆衛生院(内田祥三設計)を港区の郷土歴史館、がん在宅緩和ケア支援センター、子育て関連施設等の複合施設として用途変更した延床面積約15,000㎡の大規模な近代建築の改修工事である。設計から工事監理の中で、設計チームが最も力を入れているのは、現行法規に適合する耐震化、バリアフリー化、設備更新等を前提として、創建当初の建物の質・デザインの復元に対して、丁寧に検証を行っている点にあると思う。
 保存改修設計の原則をはっきりと事前に決定した上で保存ランクを6区分に設定し、歴史的価値が認められる重要な部分に関しては、安全性を確保した上で最小限の介入にとどめ、建築の本質的な価値に対して十分に配慮している。一方、新たな複合用途に転用する部分に関しては、建築のデザインの骨格を守りながらも、親しみやすい空間に積極的に改修している。
 保存・再生に対する事業者(港区)の真摯な取り組み(保存活用検討委員会等による体制づくり等)も素晴らしいが、その目標を実現した各分野の専門家によるバランスの取れた設計・施工チームによる丁寧な回答のプロセスは、今後の近代建築の保存活用における設計手法のひとつの指標になると思う。(宮崎 浩)
宮崎 浩(みやざき・ひろし)
建築家、株式会社プランツアソシエイツ
1952年 福岡県生まれ/1975年 早稲田大学理工学部建築学科卒業/1977年 早稲田大学大学院理工学研究科修士課程修了/1977〜89年 株式会社槇総合計画事務所/1989年 株式会社プランツアソシエイツ設立/1990〜2010年 早稲田大学非常勤講師/2011〜13年 同大学大学院客員教授