はじめに
平成30(2018)年に施行された建築物省エネ法は、約2年半近くが経過し、当制度における規制措置、誘導措置により、国内の住宅・建築物の省エネ化がより進展、普及してきました。そのような中、さらに国際協定の目標を達成すべく、令和元(2019)年5月17日に改正建築物省エネ法が公布、第1段階施行として同年11月16日にその一部が施行され、第2段階として令和3(2021)年4月1日に、その他の項目が全面施行されることとなりました。今回はその改正内容について、既に施行されている第1段階の改正内容、そして令和3(2021)年4月1日施行の第2段階の改正内容について説明していきたいと思います。
建築物省エネ法成立の背景
温室効果ガス排出削減等のために新たな国際的枠組みである「パリ協定」が平成27(2015)年採択され、平成28(2016)年に発効しました。日本は「約束草案」中期目標として、令和12(2030)年度に平成25(2013)年度比で、温室効果ガスを全体として26%削減することを目標とし、産業別の削減割合から住宅・住宅建築分野で40%削減を目標とすることになりました(表1)。こうして平成30(2018)年に現行の「建築物省エネ法」が施行されました。さらに、わが国のエネルギーの需給構造の逼迫の解消や地球温暖化に係る「パリ協定」の目標達成ため、規模、用途ごとの特性に応じた実効性の高い総合的な対策が必要不可欠として、段階的に法令の改正が行なわれることとなりました。それが、今回説明する、令和3(2021)年4月に全面施行される「改正建築物省エネ法」となります。
改正建築物省エネ法の改正内容
改正建築物省エネ法では現行の建築物省エネ法から表2のような内容の改正となっています。改正は法律公布後6カ月以内施行(令和元/2019年11月施行)と、公布後2年以内施行(令和3/2021年4月1日施行)と2段階にわたって施行となります。今回は、誌面の都合もあり、改正内容の中から、主に「届出義務制度の審査手続き合理化」、「地域区分の見直し」、「適合義務制度の拡大」、「建築士から建築主への説明義務制度」と新たに追加される「省エネ基準の評価方法の簡略化」について解説していきたいと思います。
届出制度の審査手続きの合理化
省エネ基準に係る民間の審査機関による評価書(例:住宅性能評価書、BELS評価書)を提出することにより、従来の届出制度における省エネ性能に関する計画の届出の提出期限を21日前から、最短で着工の3日前に短縮することができるようになりました。設計住宅性能評価書を利用して届出期限の短縮を受けるためには、「断熱等の性能等級4、一次エネルギー消費量等級4又は5の両方」を取得する必要があるなどの条件があります。共同住宅の届出においては、すべての住戸について以上の条件を満たす必要があります。BELS評価書を利用する場合には、非住宅部分はすべての部分、住宅部分はすべての住戸についてBELS評価を取得することが条件となります。また、届出において省エネ基準に不適合な場合、必要に応じ、所管行政庁が指示・命令ができるように適合義務制度が強化されました。
地域区分の見直し
省エネ評価に使われる地域区分は日本各地の地域気候特性に応じて各市町村単位で1地域から8地域まで8つに区分されています。今回の改正では、平成の市町村合併や最新の外気温等を各地域の標高の影響を加味して補正したデータを基に、地域区分の見直しが行われました。地域区分としては概ね温暖な区分に見直されている地域が多いのですが、標高などにより、寒冷な区分となっているところもあり、市町村内でも異なった区分に見直しがされている地域もありますので確認が必要です。
地域の区分の見直しは、令和元(2019)年11月16日に施行されましたが、経過措置として、令和3(2021)年3月31日までは従前の地域区分により省エネ基準を評価できることとなっています。しかし令和3(2021)年4月1日以後に行う建築物の新築については、経過措置は適用されなくなり。旧基準は適用できなくなるため注意していただきたいと思います。
適合義務制度の対象拡大
省エネ基準への適合を建築確認の要件とする特定建築物の規模について、非住宅部分の床面積の下限が2000㎡から300㎡に引き下げられ、300㎡以上の非住宅建築物の基準適合義務の対象範囲が拡大されます。そして省エネ基準への適合が、建築確認や完了検査時にも審査・検査されるようになります。この場合、省エネ基準への適合が確認できない場合、着工や使用ができないということになりますので注意が必要です(図1)。改正前では非住宅部分の床面積の合計が2,000㎡以上である建築物を「特定建築物」と定義していましたが、今般の改正により、特定建築物の定義を非住宅部分の床面積の合計が300㎡以上である建築物とし規制の対象となります。
基準適合義務の対象となる特定建築行為は次の①から③までに該当します。
① 特定建築物(非住宅部分の床面積の合計が300㎡以上の建築物)の新築
② 特定建築物(非住宅部分の床面積の合計が300㎡以上の建築物)の増築又は改築であって、当該増築又は改築に係る非住宅部分の床面積の合計が300㎡以上であるもの
③ 特定建築物以外の建築物の増築であって、当該増築に係る非住宅部分の床面積の合計が300㎡以上であるもの
また、平成29(2017)年4月1日において現に存する建築物について、特定建築行為に該当する増築又は改築を行う場合であって、当該増築又は改築に係る非住宅部分の床面積の合計の増築又は改築後の非住宅部分に係る延べ面積に対する割合が2分の1以内である特定増改築については、当分の間、基準適合義務の対象とはせず、所管行政庁への届出の対象とすることになっています。
届出義務の対象となる建築行為については、基準適合義務の対象の拡大に伴い、届出義務の対象が縮小されます。特定建築物以外の建築物(非住宅部分の床面積の合計が300㎡未満の建築物)の新築であって床面積の合計が300㎡以上であるもので基準適合義務の対象となるものを除く、建築物の増築又は改築であって当該増築又は改築に係る部分の床面積が300㎡以上であるものが対象となります。
経過措置についてですが、基準適合義務は令和3(2021)年4月1日以後に確認の申請がされた特定建築行為について適用されることとなります。同年3月31日までは、旧法規定による届出については、基準適合義務の対象とせず旧法に規定する届出義務等の対象となります。また、特定建築行為のうち、令和3(2021)年3月31日までに確認の申請等をしているものは旧法の届出義務の対象となります。
建築士から建築主への説明義務制度の創設
令和3(2021)年4月1日より、小規模建築物(床面積の合計が10㎡を超え300㎡未満)の設計を行う際に、建築士が建築主に対して、省エネ基準への適合の可否等を評価し書面を交付して説明することが義務づけられます。説明の対象は床面積の合計が10㎡より大きく300㎡未満の建築物の新築、床面積の合計が300㎡未満の建築物の増築又は改築であって当該増築又は改築に係る床面積の合計が10㎡より大きく300㎡未満であるものとなります。
設計を行った建築士は、小規模建築物の工事が着手される前に、小規模建築物の省エネ基準の適合性について評価及び必要事項を記載した書面を建築主に交付して、説明を行う必要があります。その書面には適合している旨、あるいは適合していなくとも今後適合させるための必要な措置等を記載することとなります。ただし、建築主より建築士に必要事項を記載した書面を提出することにより評価及び説明を要しない旨の意思表明を行なった場合は説明及び文書を交付する必要はありません。またこれには分譲住宅・賃貸住宅の売主・仲介事業者等に対して購入者・賃借人への説明を義務づけるものではありません。
この制度により上記の小規模建築物の設計の際には省エネ評価を建築士が行う必要あり、後述する省エネに関する計算をする必要があります。
新しい評価方法の追加
今回の改正にてその評価に利用するため現行の計算方法に加え、各種簡易評価方法による新たな評価方法と計算プログラムが追加されることとなりました。これは申請側・審査側双方の負担を軽減するためのもので、各プログラムは国立建築研究所のHPにて試行版及び正式版が公開されています(https://house.lowenergy.jp/)。試行版については令和3(2021)年4月より正式版として使用できる予定となっています。評価方法の簡素化としては、全住戸平均による外皮基準評価と一次エネルギー評価の共用部の除外が可能となる方法が追加されます。
現行の共同住宅の外皮性能の評価では、住戸単位でそれぞれ計算し基準に適合しているかを判断していますが、これを、共同住宅を一つの建築物とみなして、全住戸の平均で基準を満たすか否か判断する方法が追加されます。一次省エネルギーの評価では共用部の計算が必要である一方、共用部分での一次エネルギーの消費量は大きくないことから、共同住宅の一次エネルギー消費量の評価に当たって、共用部を入れなくてもよいことになります。
フロア入力法
共同住宅等の届出制度の合理化のために新たに追加された計算方法です(図2)。各フロアの基本情報を元に各フロアの住戸を単純化した上で評価を行う方法です。従来の共同住宅の計算方法は、まず住戸ごとに外皮性能を計算して、外皮基準に適合していることを確認し、次に住戸ごとに一次エネルギー消費量を計算し、さらに共用部の一次エネルギー消費量を計算した上で、全住戸と共用部の一次エネルギー消費量を計算し、基準への適合を判断していました。フロア入力法では、住戸単位の情報は不要としフロア単位の情報をもとに外皮性能や一次エネルギー消費量を計算するものです。共用部の評価は任意となることから、さらに入力を簡素化することができます。
モデル住宅法
説明義務制度のために新たに追加された計算方法です。小規模な住宅や建築物において説明が必要となるため、省エネ計算に慣れていない建築士や中小工務店の方が省エネ計算をできるような簡易な計算方法となっています。戸建て住宅の評価については、WEBプログラムに簡単に仕様や数値を入力できる計算シートが準備され、このシートで外皮性能、一次エネルギーの2種類の簡易計算シートを利用して各評価を算出し、適否を確認することになります。外皮計算用の簡易計算シートは地域区分毎、構造毎、断熱工法毎のシートが用意されていますので、実際に設計する住宅に合ったシートを選び、使用される建材のカタログに掲載されている各部位のU値を転記します。計算はシートの中で自動に行なわれます。実際には外皮の部位別の係数は固定値となっており、セルにカタログに記載された部位ごとのU値を記入し、それらを掛け算した上で、合計して基準への適合を判定します。
一次エネルギー簡易計算シートも、地域区分ごと、暖房方式ごとにシートが用意されます。一次エネルギー消費量の判定用シートでは、外皮用の計算シートで算出したUA値やη値に応じた冷暖房設備のポイント数、実際に使用する設備に応じた照明、換気、給気設備のポイント数を合計し100以下になるか否かで基準への適合を判定することになります。
小規模版モデル建物法
こちらも説明義務制度のために追加された計算方法です。本評価方法は、基本的な計算方法はモデル建物法と同様としつつ、さらに入力項目数の削減を図ったものとなります。適用規模は、説明義務制度の対象となる300㎡未満の建築物となります。モデル建物法のうち、小規模建築物では、建物全体のエネルギー消費量の影響が小さいと考えられる項目についてはディフォルト化することにより入力項目を大幅に削減し、入力項目を少なくすることによって簡易に評価できるようしたものです。入力項目数は従来のモデル建物では約90項目でしたが、小規模版モデル建物法では約30項目の入力項目に減らし、外皮、各設備の主な仕様のみを入力し計算できるようになっています。入力項目を限定することを踏まえ、計算結果が安全側になるよう設定されています。一次エネルギー消費量BEI値はモデル建物法ではBEIm、小規模版モデル建物法ではBEIsの値で評価することとなります。
おわりに
令和2(2020)年11月、日本政府は令和32(2050)年までにCO2などの温室効果ガス排出量の実質ゼロを目指す考えを表明しました。そのことを踏まえ、今後、住宅・建築物分野でもより高い断熱性能と一次エネルギー消費性能の向上、「再生可能エネルギー」の利用が必須となっていくことが予想され、より高い省エネ性能の住宅・建築物の設計が必要となります。建築士や中小工務店の方々も、より広範な省エネの知識、技術の習得が必須となります。今回の建築物省エネ法の改正は内容が多く、誌面の都合から概要の解説に留まってしまいました。これら改正建築物省エネ法については、本来、国土交通省にて全国にて説明会を開催する予定でしたが、新型コロナウイルス感染拡大防止の観点により、説明会に代わり、現在、国土交通省の改正建築物省エネ法のホームページに改正建築物省エネ法を動画、資料にて解説するオンライン講座(https://shoenehou-online.jp/)が公開されていますので、ぜひそちらを参照していただきたいと思います。
また、今回の内容について、ご質問等ありましたら下記のメールまで、ご連絡をお願いします。
株式会社東京建築検査機構性能評価事業部 伊藤宛
h_ito@tokyo-btc.com
伊藤 浩(いとう・ひろし)
株式会社東京建築検査機構 性能評価事業部 担当部長
1963年 千葉県生まれ/1990年 千葉大学大学院工学研究科建築学専攻修了/1990年 株式会社東芝入社、生産施設建築設計に携わる/2016年 株式会社東京建築検査機構入社、省エネ適判、住宅性能評価業務に従事
1963年 千葉県生まれ/1990年 千葉大学大学院工学研究科建築学専攻修了/1990年 株式会社東芝入社、生産施設建築設計に携わる/2016年 株式会社東京建築検査機構入社、省エネ適判、住宅性能評価業務に従事
カテゴリー:構造 / 設備 / テクノロジー / プロダクツ
タグ:テクノロジープラス