団体別採用力スパイラルアップ事業 働き方改革・女性の活躍推進基礎セミナー──コロナ時代における長時間労働の問題 第3回 「長時間労働是正」セミナー
令和2(2020)年9月18日(金)13:00~16:00、Webセミナー
中田 千恵子(東京都建築士事務所協会理事、一級建築士事務所ハウジング工房)
資料イメージ。
働き甲斐があり活気のある仕事場をつくるために
 建築士事務所経営における「働き方改革・女性の活躍推進」の基礎について学ぶ第3回目である今回のテーマは、「長時間労働是正セミナー」。前回に続き、講師に社会保険労務士で一級建築士でもある田中豪先生を迎え、長時間労働是正についての考え方・必要性・対策について解説していただいた。
 今回のセミナーはワークライフバランスにかかわるため、建築士を目指している若い人たち、次世代の担い手、就職希望の方々、また、経営者にとっても働き甲斐があり活気のある仕事場をつくるための重大な課題である。
 現時点で与えられた条件下で最大限の成果を出すことを意識し、対策を検討し、取り組むことへの足掛かりにしてほしい。
具体的な取り組み
 長時間労働是正の具体的取り組みは、業務の平準化やITツールの導入の他、裁量労働制・固定残業代制・変形労働時間制等の制度の確立が挙げられた。
 特に、経営者の関心が高く、トラブルも多い裁量労働制と固定残業代制を含む、今回のテーマ5点について、簡単に記載する。

① 裁量労働制とは
 裁量労働制には、次のような特徴がある。
・一級建築士、二級建築士、木造建築士は専門業務型裁量労働制の対象(たとえば法第3条から第3条の3に規定する設計または工事監理)であるが、補助的に製図を行っても含まれない。
 要するに建築士の資格のない人は含まれない。デザイン業務への適応など、適用が微妙な場合は労働基準監督署に相談し、十分な検討を重ねてトラブルを防ぐことが必要である。
・出退社時間が決められていないため、労使協定で定めた時間分は労働したものとして賃金を支給するが、みなし労働時間で処理できる仕事量を与えなければならず、法定労働を超える場合は残業代支給が必要となる。
・導入には就業規則への規定と労使協定の届け出が必要である。
・メリットは、労働時間の管理が不要で、従業員側は流動的に自分のペースで時間が使えること。
 デメリットは導入に伴う手続きに煩雑さやパフォーマンスが低い従業員においては時間外労働が不満材料になる恐れがある。ゆえに、労使協定を結ぶ労働者代表を適切に選出し、制度を適切に機能させることと、建築士資格を保有し、裁量を持つことのできる従業員のみを対象にすることがポイントになる。

② 固定残業代制とは
 固定残業代制についても、次にいくつかのポイントを挙げる。
・会社が予め想定した時間分の残業代を支給する制度。決められた一定額を支給するため、賃金計算の必要はないが、想定時間をこえた時間外労働分は賃金の支払いが発生する。
・固定残業代分の時間を明確化し、残業代であることを明記することが必要。
・メリットは残業代の計算の手間が省け、従業員側は収入が安定し不公平感が解消される。デメリットは超過した時間分の計算が必要になり、残業が少ない場合も支払わなくてはならない。従業員側においては残業代に相当される分まで業務量があり、トラブルのもとになり易い。
 この裁量労働制と固定残業代制については、行政からの是正指導と判例の紹介により、注意点が示された。不利益変更に注意したうえで、進めることが重要である。

③ テレワークにおいても活用可能な長時間労働対策
 コロナ禍で一気に普及したテレワークは、生産性・労働時間の管理が難しく、時間外労働が増加したとのデータも紹介された。これに対しては、残業許可制の導入や数回/日ミーティングで確認し、業務日報提出を義務化することで対応している会社も多い。
 視聴者から質問の出た「従業員が申請せずに時間外労働をしている場合の責任所在」に関しては、原則、管理義務不履行で会社側の責任になるという。気をつけたい。

④ 年次有給休暇取得促進
 有給休暇を取得しやすい職場にすることは、モチベーションアップを図る上で必要であり「休んだら迷惑が……」ではなく、休んでも大丈夫な体制づくりをすることだ。取得計画の作成や所内での休暇日の共有、半日単位での取得制度での導入により、気軽に有休を取得できる雰囲気づくりに発展しやすくなる。
 年次有給休暇の取得促進は時間外労働の削減においても非常に有効であり、ぜひ取り組みたい。

⑤ 職場風土の改善
 この建築設計業界において、長時間労働を是正するためには、「残業が当たり前」という、従前からの意識改革が必要である。個々の価値観が多様化している現在、個々のワークライフバランスを保証するため、時代に適応した形で従業員満足度を向上させ、時間外労働の削減と生産性向上を図っていきたい。

 設計という業務はスペシャルな行為であり、専門家として常に最新の技術力を高める努力をしなければならない。公私の境界の付きにくい業種でもある。私たちの姿勢は元より発注者の意識も変わらなければ、信用性にかかわる事態に発展しかねない。法規やルールを熟知し、未来にあるべき姿を見据え、トータルに創意工夫して徐々にでも改善を試みるべきだ。可能な限り意識していくことの重要性を感じた。

 本セミナーは全4回連続となっており、設計事務所経営に即した最新情報を得ることができます。最終回の内容と予定は下記の通りです。引き続きWEB講習の予定です。ぜひご参加ください。
【第4回】女性の活躍推進
開催日時:11月27日(金)、12月15日(火)(予定)
セミナー内容:
・女性のライフステージに即した勤務制度のあり方
・女性が活躍できるオフィス環境づくりと成功事例の紹介
・女性の積極採用のアピールポイントについて

申し込み方法とお問い合わせ先:
リ・アーキネットHP(https://re-archinet.com/)より申込書をダウンロードし、ご記入の上、建築士事務所業界コンソーシアム事務局宛(ADE.JP.kenchikushi@jp.adecco.com)にメール添付にてお申込みください。または、(一社)東京都建築士事務所協会 担当:三沢(jimu31@taaf.or.jp)までお問い合わせください。
※建築士事務所の方限定のセミナーです。(参加無料)
中田 千恵子(なかだ・ちえこ)
東京都建築士事務所協会理事、スパイラルアップ事業WG委員、一級建築士事務所ハウジング工房
1949年 栃木県生まれ/1970年聖徳栄養短期大学卒業/インテリア設計事務所スペース201、日研学院講師を経て現在、一級建築士事務所ハウジング工房代表/北部支部