連載:テクノロジープラス ⑤
特殊亜鉛塗料による鋼材防食技術──常温亜鉛めっき COLD-GALVANIZING ZRC工法
宮原 重之((株)ゼットアールシー・ジャパン技師長)
Z.R.C.とは
 常温亜鉛めっきZ.R.C.は、1952年にアメリカで開発された工法で、世界各国で使用され、抜群の防錆効果を上げています。溶融亜鉛めっき(Hotdip-Galvanizing)と同等の防錆効果が得られる常温亜鉛めっき(Cold-Galvanizing)剤です。鉄を錆から守る方法としてその耐久性と経済性に加え、多くの利点を兼ね備えているため、広い分野で採用されています。
 常温亜鉛めっきZ.R.C.とは、高純度亜鉛末と特殊非公開樹脂を組み合わせたコーテイング剤(塗料タイプ)です。亜鉛の保護作用としてZ.R.C.の表面には、緻密な錆の薄膜が生成されて、この薄膜が保護皮膜となって鉄の腐食を防いでいます。犠牲防食作用としてイオン化傾向の大きい金属(亜鉛)が犠牲となって先に溶解し、イオン化傾向の小さい金属(鉄)の腐食を抑制します。
1. 建設技術審査証明書(建築技術)
【Z.R.C工法の証明】
 一般財団法人日本建築センターにおいて、建設技術審査証明(建築技術)(図1)を海外企業として初めて取得しました。これは、建築物の鉄骨部材に素地調整を施した後、Z.R.C.を常温で塗布する方法です。つまり、乾燥皮膜76μm以上を塗布することによって、「溶融亜鉛めっきJIS H 8641 HDZ55(550g/㎡)と同等の防錆性能を有する工法である」と認められたものになります。
概要:
 ①原則としてZ.R.C.工法研究会会員による施工・管理(施工者による責任施工)。②1995年11月に初取得。審査証明証9506号、以降5年毎に更新。③2020年7月、25年目の更新。BCJ-審査証明-89号。図1に、建設技術審査証明書(建築技術)を示す。各都道府県市町村の建築主事には最新の「建設技術審査証明(建築技術)報告書」が配布されている。また、東京都建築士事務所協会本部のZ.R.C.のカタログラックにも置いている。
2. ASTM D 520-00 亜鉛粒子の標準仕様
Z.R.C.の特徴
①特殊な結合剤
特殊な非公開結合剤が亜鉛粒子間の僅かなスペースに充填されており、大小亜鉛粒を強固に補強することにより、薄膜を生成します。
②耐久温度
耐久温度連続180℃。一時的400℃まで耐えうる耐熱性。
③塗膜硬度
塗膜には鉛筆硬度が求められますが、Z.R.C.は鉛筆硬度においても8Hと通常塗膜に対しても最高値の硬さを有します。
④曲げによる塗膜追従性
塗膜片を曲げるようなことでも追従性が高く、180度の折り曲げにもクラック・剥がれも生じない程、追従性を維持します。
⑤臭気
弱溶剤性(第4類2石)の溶剤により臭気も穏やかです。(ホルムアルデヒドF☆☆☆☆)
⑥長期防食性(市街地部)
薄膜ながら50~60年もの間、鉄を錆から守り高い防錆力が望めます。
⑦亜鉛粒子の規定
Z.R.C.は米国製であり、世界最高水準であるASTM D 520-00 D520 に指定されているTypeⅢカナダ産ピュア・ジンクを使用。
このため、性能に大きく影響する金属亜鉛分は最高の高純度亜鉛99%を確保しています。鉄分(Fe)はTypeⅡの十分の一。さらに環境に負荷を与える鉛・カドミウム(Cd)も汎用品に使用されるTypeⅡの十分の一しか含まれてません。また、RoHSでは鉛規制値1000ppmに対して20ppmと大幅に下回っています(図2)。
3. 建築汎用塗装の仕様
塗料は、塗膜によって腐食要因の侵入を防ぐ。(遮断効果)
4. 建築汎用塗装での錆の広がり
錆の発生は、塗膜の劣化、塗面の物理的損傷、鉄素地調査不備が上げられる。
建築汎用塗装
 塗装仕様は、素地調整・下塗・中塗・上塗(図3)より構成されており各々塗装には役割があります。
 しかし、経年変化(紫外線)により塗膜は劣化が生じ塗り替え時期を何れは迎えることになります。塗装種により異なりますが、5~10年、10~20年サイクルで塗り替え時期が訪れます。
 塗膜性能が保たれている間は安定した防錆力を発揮しますが、傷等物理的に生じた場合その部分より微量な水分が塗膜内に浸透し錆が生じます。一度発錆するとその部分より錆が広がり、塗膜がめくれ上がり(図4)錆が進行します。
5. Z.R.C.、めっき、建築汎用塗装の長所・短所
Z.R.C.、めっき、建築汎用塗装の長所・短所
 Z.R.C.、めっき、建築塗装には、各々長所・短所があります。Z.R.C.とめっきは、ともに防錆力が非常に高いものですが、めっきの場合はめっき工場のみでの施工となります。Z.R.C.は、塗り物ですから鉄骨工場、あるいは現場での施工が可能です。建築汎用塗装は、Z.R.C.と同じ塗り物ですから作業性は変わりませんが、防食性能ではZ.R.C.に劣ります。Z.R.C.とめっきと建築汎用塗装の長所・短所を図5に示します。
6. Z.R.C.、めっき、建築汎用塗装の比較
Z.R.C.、めっき、建築汎用塗装の比較
 Z.R.C.と建築汎用塗装の施工方法は、刷毛・ローラーあるいはスプレーと同じです。めっきは、450℃前後の溶融亜鉛層に浸漬することにより亜鉛金属皮膜となり施工方法は異なります(図6)。
さまざまな場面で採用されているZ.R.C.
建築物採用例
1.オーバルリング
2. こもれびルーフ
3. 主要柱
4. 駅舎屋根
5. 多目的ルーム
6. 可動ルーバー
7. エントランス屋根
8. 連絡通路
9. スタジアム屋根
10. 建屋外部屋根
11. 耐震補強
12. 免震装置
13. 耐震
14. リン酸処理調模様(淡彩系)
15. リン酸処理調模様(一般濃彩)
16. ファサード
最後に
 常温亜鉛めっきZ.R.C.は、鉄素地に直接76μm(DRY)以上塗布することにより発錆を抑え長期にわたり防錆効果が望めます。 Z.R.C.は技術を伴うものとし、施主様の資産価値を高めるためさまざまな提案協力しています。また、材料が独り歩きしないよう、施工業者様へZ.R.C.工法説明を行い、件名を確認した上、材料管理(ロットNo)を行っています。
 本内容にご質問・ご不明点等ございましたら、どんな些細なことでも結構ですので下記メールにて一報いただければ幸甚です。
miyahara@zrc-japan.com
Z.R.C.材料種類
宮原 重之(みやはら・しげゆき)
(株)ゼットアールシー・ジャパン技師長
1960年 三重県生まれ/1983年 名古屋商科大学商学部産業経営学科卒業後、建設会社入社、四日市地域コンビナート建設に従事し製缶・配管・機器設備・塗装に携わる/1990年 大手プラント設備・機器商社に入社、日本で初めて耐火塗料を海外から輸入し、熱容量を取り入れた試験方法・施工技術を確立、数多くの国内外物件に採用いただく/2012年 (株)ゼットアールシー・ジャパン入社、常温亜鉛めっきZ.R.C.を国内外の設計者、建設業者、鉄構事業者、塗装業者等へ紹介/常温亜鉛めっきZRC講習会講師