LIDFORTの靴
連載:私の逸品 ①
富永 彦文((有)富永建築設計事務所、東京都建築士事務所協会西多摩支部)
スケッチは筆者。このほかにもお気に入りの逸品のスケッチが多数。
 巷で話題の大塚家具の新宿ショールームは、かつては「三越新宿店南館」だった。1999年6月6日、「衝撃の出逢い」があったのは、その閉店セールの最中だった。
 靴好きの私は、まず地下1階の靴店「ワールドフットウェアギャラリー」へ足を向けた。セールで大賑わいの中、陳列棚の最上段に飾られていた、燦然と輝く存在感のある靴と目が合ってしまった。
 「靴に文化の香りを感じませんか?」と、靴は無骨な風貌で鎮座しながら、私に向かってその香りを漂わせた。
 店長さんに棚から下ろしてもらい、手に取ってみると、革の風合いを生かしたナチュラルな色、デザインされた甲の皮の重なり、手の込んだ飾り穴、全体の重厚なディテール、靴底を縫っている頑強な太糸の手縫いのダブルステッチ……など、なるほど、シューメーカーの伝統技術に裏打ちされた文化の香りを十分に感じ取れる逸品である。
 妻の冷たい視線を背中に感じつつ、期待と恐れが入り交じった複雑なワクワク感に包まれながら足を入れてみると、幸か不幸か、なんとこれがジャストフィット。「この機を逃すと二度と出逢えない」(妻を渋々納得させる決め台詞)。運命の出逢いを感じ、連れて帰ることにした。
 それから16年。私の靴コレクションの中でも、いちばん思い出深く、大事にしている靴で、特別の日に楽しく愛用している。
 靴愛好家の方はお分かりかと思うが、絵にあるシューキーパーはメーカーのディスプレイ用で市販品ではない。店長さんが特別に、靴と一緒に付けてくれたものだ。今となってはこれも靴と同体の宝物だ(靴を休めているときは、シューキーパーは絶対必要。当然、靴磨きも自分で)。
 よい設計をするには「おしゃれ心」が欠かせないと考えている。おしゃれでクールなディテールを考え、それを密かに建物に取り入れ、竣工した建物のその部分を眺めてはひとりで悦に入るのが私の設計の楽しみだ。
 「おしゃれの第一歩は足元から」ともいわれている。あなたも、お気に入りの一足を探しに出かけてはいかがだろうか。根気強く捜せばきっと出逢えるはずだ。
 願わくば、この稿が、読まれた方の足元を見直すきっかけとなり、その意識が購買意欲をかき立てて消費につながり、経済の活性化に寄与せんことを。

LIDFORT
(リドフォルト)
LIDFORTはイタリアの靴のブランド。1945年、イタリア靴の聖地といわれるマルケ州モンテグラナロに紳士靴をメインとして創業。社名は創業者のリド・フォルトゥーナにちなむ。現在はふたりの息子、ヴィンチェンツォとオネリオに受け継がれている。創業当時から、高品質の素材と、シンプルでありながらオリジナリティに溢れるデザインでファンを魅了し続けているファクトリーブランドである。
出典:http://www.lidfort.it/en/about-2/
富永 彦文(とみなが・ひこふみ)
建築家、(有)富永建築設計事務所、東京都建築士事務所協会西多摩支部
1947年北海道生まれ/1975年 (有)富永建築設計事務所設立、同年 東京都建築士事務所協会西多摩支部入会/1983〜88年 同副支部長/1999〜2002年 同支部長
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