東京都建築士事務所協会シンポジウム
令和はじめての新春に建築設計業界に期待する──設計業務を外から考える
三井 雅貴(東京都建築士事務所協会理事、シンポジウム企画プロジェクトチーム委員、株式会社日本設計)
シンポジウムに先立って挨拶する児玉会長。右にパネリスト。(撮影:大平 孝至)
会場風景。(撮影:大平 孝至)
 令和2(2020)年1月29日14時より、明治記念館「孔雀の間」において、東京都建築士事務所協会として初のシンポジウムを開催した。
 「令和はじめての新春に建築設計業界に期待する──建築設計業界を外から考える」と題し、見通しの難しい経済状況、日々進歩する技術、難解さを増す法令や制度等々、建築設計事務所を取り巻く厳しい環境や山積する課題を踏まえつつ、新年のスタートにふさわしく建築設計事務所の明るい未来を考える・語り合うことをその目途としている。
 正会員・賛助会員等167名の参加を得て、児玉会長の「平成から令和へと年号が変わる、また東京オリンピック・パラリンピックが開催される大きな節目の年であり、未来を見据えて着実に進んでいきたい。目まぐるしく変貌する都市とわれわれを取り巻く環境のなかで、建築設計事務所の果たすべき責任と社会貢献を考える契機にしてほしい」との挨拶よりシンポジウムはスタートした。
 パネリストには、鈴木昭利新宿区副区長、東利恵東環境・建築研究所代表、村木美貴千葉大大学大学院工学研究院教授、大森有理大森法律事務所弁護士をお招きした。ファシリテーターは大森晃彦建築メディア研究所代表にお願いし、各パネリストにはそれぞれの専門分野・視点から簡単なご講演をいただいた後に討論を行っていただいた。

 最初のご講演者である鈴木副区長からは、「新宿駅周辺のまちづくり」と題し、昨年末に都市計画決定された新宿駅周辺の基盤整備の概要について説明いただいた。2020年東京オリンピック・パラリンピック前の供用開始を目指して長期にわたって工事の続いている「東西自由通路」と、今後順次再開発される駅東西の駅ビル群と線路上空の広大な広場等々、昨今注目の渋谷駅周辺再開発に並ぶ壮大な整備計画の紹介の後、その実現に向けて建築界に果たす役割の大きさと期待を語られた。
 村木教授は「都市づくりから建築に対して思うこと」と題し、東京神田地区での研究を例に大型エリア開発の進む駅直近周辺での都市更新のキーワードとして、都市防災と周辺との連携を挙げられた。個々の開発は小規模であっても周辺との連携によってエリア価値の向上が期待できること、そのためには先ずは情報共有が必要であること、さらには行政や公的機関はもとより建築設計事務所の果たす役割も少なくないことを述べられた。
 建築家の東利恵さんは「日本の建築・都市・まち」と題し、人気旅館「星のや東京」や宮城県女川町の復興施設「シーパルピア女川 ハマテラス」の作品紹介を通じて、風土や文化の深い理解とそれを踏まえた普遍的デザインが重要であること、施設の成長・発展・未来像を暮らす人びと・使う人びととしっかりと共有することが重要であると語られた。また、現新宿駅西口広場は、父上である建築家、故東孝光氏が坂倉準三建築研究所勤務時代の担当であったことや、故東氏による著名な都市住宅である「塔の家」で育ったことなど、興味深いエピソードも紹介いただいた。
 最後に講演いただいた大森弁護士からは、「民法改正と設計者の善管注意義務について」を解説いただいた。建築士業務が契約上の履行責任のみにとどまらず、建物としての安全性においてはすべての利用者に対し責任(注意義務)を負うとの最高裁判例を示され、建築士の社会的責任の重大さについて再認識を促す、強いメッセージをいただいた。

講演・討論後も活発に質疑応答が行われ、盛会のうちに閉会した。ご披露いただいたお話は、いずれも示唆に富み、今後の建築士業務における参考に、また励みになるものと確信している。ご登壇いただいた先生方、またご参加いただいた正会員・賛助会員の皆様には心より感謝申し上げます。
三井 雅貴(みつい・まさたか)
東京都建築士事務所協会理事、株式会社日本設計
1960年 愛知県生まれ/1983年 豊田工業専門学校建築学科卒業/1987年 豊橋技術科学大学大学院修士課程(建設工学専攻)修了後、株式会社日本設計入社/現在、同社取締役常務執行役員/新宿支部