働き方改革を考える 第1回
設計組織の先駆的事例を訪ねる
寺田 宏(東京都建築士事務所協会副会長、団体別採用力スパイラルアップ事業WG主査)
 平成31(2019)年4月より働き方改革関連法が施行され、一定規模の企業には残業時間上限や有給休暇の取得義務が付加された。大企業では制度制定がかなり進んでおり、その数はおよそ75%になるとも推測されている。一方で、これまでのヒアリングによると、当協会の会員企業の多くは働き方改革を今後の課題として繰り延べしようとする認識が強いようだ。だが、今、さまざまな業界では、健全な持続的活性化のためには働き方改革は必須であり、会社の規模に関係なく、共通の経営課題であるという認識が主流になりつつある。
「働き方改革推進ワーキング」の活動
 当協会ではこのような社会的な趨勢に応えるべく、働き方改革推進ワーキンググループ(WG)を立ち上げた。このWGは設計事務所の働き方について調査し、その成果を会員の皆様に情報提供するものである。今後、働き方改革を実践されているさまざまな規模や専門分野の事務所にヒアリングに伺い、その内容を『コア東京』に連載としてお伝えしていく。また、多様な働き方の調査研究のひとつとして、テレワークのノウハウの獲得などを実施し、設計業務の働き方改革をさらに深掘りして考える。
それらのさまざまな事例を、皆様の事務所における働き方を考えるきっかけにしていただきたいと思う。多くの会員の皆様にもWGの活動にぜひともご協力をお願いしたい。
設計組織の事例(清水建設一級建築士事務所)
 初回は比較的制度整備が進んでいる清水建設一級建築士事務所を訪ね、今後の課題を含めてヒアリングを実施した。当日は小島哲企画管理部長ほか2名の担当の方に対応いただいた。
 設計本部は現在本社に780名を抱える組織で、女性社員は135名、40歳以下は92名と、かなり男女共同参画が進んでいる。女性技術系社員の定着率はほぼ100%と高く、現在の管理職の女性比率は2.1%だが、新入社員に占める女性の割合は約25%と、今後の時代に向け期待できる人員構成となっている。
 働き方改革のスタートは、4年前から取り組み始めた週に一度の「ノー残業デー」からであった。これは施工部門を含めた全社で徹底した最初の活動として、各自の意識を高める効果もあったようである。
 産休・育休などの制度は既に完備し、現在も7名の女性社員が取得中で、男性社員も1か月程度の短期間だが、年間数名の取得者があるという。その点からは、働き方改革で話題に上がる諸制度はすでに実施されているようである。残された現在の大きな課題は、年休取得5日以上の目標を達成することである。
 一方で生産性向上については、設計初期段階でのコンピュテーショナルデザインによる検討手法として「Shimz DDE(*)」を開発し、BIMによる施工連動などを積極的に進めている。労働時間の短縮だけでなく、同時に、生産効率向上を図るさまざまな施策も実施されている。
 今後の課題としては、やはり発注者の理解、つまりは適正な設計工程時間への理解とその確保や、制度取得による本人のキャリアへの影響や評価のあり方に議論が必要とのことであった。
 ヒヤリングを終えて、組織設計事務所としての制度整備はほぼ完了していると思われ、その実効性を高めることがこれからの課題といえるだろう。
なお次回は中堅事務所のヒアリングを行う予定である。
知的創造業務における働き方改革の今後
 働き方改革については先駆的業界から次なるステップの課題が現時点で提起されている。特に設計業務と関わる点では、知的創造業務、つまりは企画業務での働き方について時間管理型の規制がなじまない点がある。
 これからも課題の浮き彫りにしながら、その課題解決をさまざまな切り口で考えていきたいと思う。 訪問委員:寺田 宏(中央支部)、泉 晃子(新宿支部)
*Shimz DDE (商標登録出願中)Shimz Digital Design Enhancement platform
 2D CAD(Computer Aided Design)で⾏う単なる図⾯作成⽀援ではなく、3Dモデルをベースにプログラミング技術を活⽤してデザインシミュレーションを⾏うコンピュテーショナルデザイン(Computational Design)として独自開発。
https://www.shimz.co.jp/shimzdesign/dde/
寺田 宏(てらだ・ひろし)
東京都建築士事務所協会副会長、団体課題別人材力支援事業運営委員会委員長、清水建設株式会社一級建築士事務所
1956年 大阪府生まれ/京都大学大学院修士課程(建築学専攻)修了/1980年清水建設株式会社入社、清水建設株式会社一級建築士事務所/現在、同建築営業本部副本部長/中央支部