テクノロジー +(プラス):①
コンクリート内部調査について
源間 敏雄(東京都建築士事務所協会江東支部副支部長、株式会社レジスタ一級建築士事務所)
はじめに
 既存建築物・構造物に使用されているコンクリートを破壊せず、非破壊検査にて調査する需要の増加と性能向上はめざましいものがある。コンクリートの内部調査には「エックス線撮影法(レントゲン)」と「電磁波レーダ法」があるので、それらについて述べるとともに、エックス線撮影法の最新開発内容を紹介する。
電磁波レーダ法
 電磁波レーダ法とは、コンクリート内に電磁波を照射し、その反射波を受信してコンクリート内の鉄筋などの有無を確認する手法である。装置はハンディタイプで、操作性はよいが、鉄筋が密集している場合や、電配管(樹脂管)などについては、精度が低下する。
図1 エックス線撮影状況。
図2 フィルム判定のイメージ。
図3 罫描きのイメージ。
エックス線撮影法とその問題点
 エックス線撮影法(図1参照)とは、コンクリート内にエックス線を照射し、背面のフィルムに鉄筋や電配管などを投影することができる画像診断手法である。精度はよいが次項の問題点がある。
① 撮影終了後にフィルムから診断する際(図2参照)に高度な判定力量が必要になる(個人差によるバラツキの解消が必要)。
② 診断後に、エックス線撮影結果をフィルムから現地に描写する作業(以下、「罫描き」)を行うが(図3参照)、この作業は複雑で、しかも慎重に行わなければならず作業時間がかかり、それは全作業時間の約1/2を占めている。そのため、時間短縮が求められている。
 そこで、エックス線を用いた診断において上記2項目を改善した、新しい技術とサービスの開発に取り組んだ。
図4 エックス線撮影法の現状のイメージ。
図5 オフサイト判定のイメージ。
図6 罫描き原寸大プリント図の貼り付けイメージ。
エックス線撮影法の新技術とサービスの開発目標
【1】オフサイト判定
 現状では、暗室付きのフィルム現像車で現地に乗り込み、その場で現像して罫描き作業を行う(図4参照)。
 しかし、エックス線撮影時のフィルム判定を、オフサイト(現地ではない場所、たとえば本社等)で熟練したスタッフが行うこと(図5参照)により、判定においての信頼性および作業効率を上げること、また診断のばらつきを防ぐことができる。なお、熟練スタッフの育成には7年から10年の期間(経験年数)が必要である。
 オフサイト判定は、従来の現像フィルムでなくイメージング・プレート(以下「IP」)を使用し、デジタル化された画像を送受信することにより可能となる。また、判定力量の求められる電配管などでは、コントラスト色調補正により判定しやすくなるため、その機能のシステム化を目指した。
【2】罫描き転写のシステム化
 罫描き作業は、基準点からの拡大率等を計算し、1点、1点決めていかなければならないが、パソコン上で拡大率を自動計算し、罫描きの原寸図をプリントアウトできるシステムの開発により、現場への転写は誤記の恐れがなくなり容易になる(図6参照)。
【3】現地作業のマニュアル化
 エックス線の診断における専門的な経験が少ない作業員でも、作業が確実に実施できるようにするため、現地作業のマニュアルを作成し、高度な診断技術が維持できるようにする。
 これらにより、労働力不足にも対応した、次世代型の診断が可能となる。
開発結果
【1】オフサイト判定
 エックス線撮影時のフィルム診断を、オフサイトで熟練したスタッフが、判定に適した環境で集中して行う。それにより診断の正確性を保ち、診断精度のばらつきを抑えることで、診断の信頼性を高めることができ、また、一般作業員ひとりが普通の車両で現地に行けば済むため、作業効率が改善した。
【2】罫描き転写のシステム化
 罫描き転写システムでは、罫描きの原寸図を印刷することができるため、現場への転写はそれを診断箇所に貼り付けることで、正確かつ簡単に行うことができる。計算ミスをはじめとした現場への転写におけるミスが発生する恐れがなくなり、また、作業時間が短縮できた。
【3】現地作業のマニュアル化
 現地作業をマニュアル化することにより、現場経験が少ない一般作業員でも、作業が確実に実施できるようになった。
図7 実施例。
実施例
 本システムを使用し、エックス線撮影から罫描きシステムを使用した原寸大プリント図の貼り付けおよびコア抜き完了まで、一貫した作業の実施例を以下に示す(図7 参照)。
 作業効率が上がり、約1/3程度の時間短縮が図れた。
 このことから、コンクリート内部調査のひとつの手法として、本システムが有効であることがわかった。
源間 敏雄(げんま・としお)
東京都建築士事務所協会江東支部副支部長、株式会社レジスタ一級建築士事務所技術部長
1955年生まれ/法政大学工学部建築学科卒業/2011年~(株)レジスタにて、建物調査・診断、大規模修繕工事設計・監理、技術開発に従事