東京建築賞受賞作品見学会報告
会員研修委員会
鷹取 奨(東京都建築士事務所協会南部支部副支部長、鷹取1級建築士事務所)
草津湯畑周辺再整備計画のひとつ「御座之湯」前で記念撮影。
「熱乃湯」での湯もみ見学。
「上田市交流文化芸術センター・美術館(サントミューゼ)」円形広場で記念撮影。
「上田市交流文化芸術センター・美術館(サントミューゼ)」大ホール見学。
「無言館」外観。(撮影:筆者)
 平成31(2019)年4月14日〜15日、東京建築賞受賞作品見学会が開催された。
 出発当日朝の天気予報は最悪だった。1日目の午後から2日目の昼にかけて雨の予報、しかも草津の予想最低気温は1℃! 1日目の朝、薄日が差す中、新宿・工学院前に集合した参加者の方々の服装がコートやジャンパーを着込む重装備だったのもむべなるかな……。
 「次回の東京建築賞受賞作品見学会は草津湯畑周辺再整備計画を中心に、遠方だし、せっかくの草津なので1泊2日でやったらどうか」と動議が出て、幹事に指名されたのは昨年6月のことだった。その後、「2日目は『上田市交流文化芸術センター・美術館』を、少し時間が余るなら、戦没画学生慰霊美術館『無言館』にも立ち寄ったらどうか」とサジェスチョンをいただき、今回の研修旅行の骨子が固まっていった。
 その後、事務局の増渕さんの多大なご協力もいただきながら準備を進めていったが、当日の天気だけは文字通り「天のみぞ知る」ところ。祈りも通じなかったか、と残念な気持ちも少し抱えながら、参加者26名でチャーターしたバスに乗り込んだ。
1日目:草津湯畑周辺再整備計画
 1日目の行程は順調そのもの、そもそも全員が揃ったところにバスが到着するという模範的なスタートで、予定の昼食会場には1時間も早く到達してしまい、幹事としてはそれもちょっと焦る状況。
 運転手さんと「それじゃ、八ッ場ダムの展望台にでも寄りましょうか」と相談して皆さんのところへ戻ると、なんと児玉会長と安藤委員長からも「八ッ場ダム、行けないかな?」と。急遽、予定外のダム建設現場見学も喜んでいただけた上に時間も調整でき、ほっと胸を撫で下ろした。
 草津に到着してホテルを出るとぽつりぽつりと雨、それでも思ったよりは雨脚も弱く、むしろ草津の街並みにはマッチしてる? そんな風に思いながら湯畑まで歩く。すると予定より1時間も早かったのにもかかわらず、第43回東京建築賞東京都建築士事務所協会会長賞を受賞した「草津温泉湯畑周辺再整備計画(御座之湯・湯路広場・熱乃湯)」の設計者、一級建築士事務所株式会社K計画事務所の北山孝二郎先生と徳永悠二さんが既に到着されていて、もうこれは最敬礼もの。そして広場に面して設けられた屋根付き回廊(湯路広場、2014年)の下で、いかにも気さくな感じの北山先生のお話をうかがった。
 先生の設計で再整備される以前、眼前の広場は駐車場だったとのこと、それを人が集まる広場につくり変えたことで、湯畑の周囲は「車から人へ」と変わったとのこと。なるほど、まったく車が通らないわけではないものの、主役は明らかに人。草津のシンボルといっても過言でない湯畑も、心なしか喜んでいるかのように滾々と湯を吹き出していた。
 そして北山先生が手掛けられた、象徴的なふたつの建物「御座之湯」(2013年)と「熱乃湯」(2015年)。伝統的建築の雰囲気を大事に設計された建物が完成すると、それまでは派手なデザインや色で客の目を惹こうとしていた湯畑周辺の建物も、湯畑本来の雰囲気に合うように改装されたり塗り替えられていき、結果的に観光客数も1.5倍に増えたとのこと。
 半強制的な再開発ではなく、町のシンボルを生かそうとした街並み計画とその指標となる建物によって、自然な流れの中で街そのものが活性化して行く……。バブルに酔い無節操に浮かれていた昭和末期から、その反動からか活気を失っていた平成、そして令和という新しい時代を迎えるにあたって、ひとつの指標になる再整備なのではないかと考えさせられた次第である。
 見学を終えてからはもちろん温泉! 万病(ただし恋の病は除く)に効くという草津の名湯とにぎやかな宴会で英気を養ったのはいうまでもない。
2日目:上田市交流文化芸術センター・美術館
 翌日、起きてみれば晴天。望外の天気に恵まれ、これは参加された皆様の日頃の行いがよほど善いのかと感謝感謝。そうなると昨日の小雨も善行の賜物たる「風情」だったかのように思えてくるが不思議だ。本当のところはやはり「天のみぞ知る」ところだが。
 最初の訪問地は「無言館」(設計:窪島誠一郎、1997年)。出征してその尊い命を失った画学生の作品に触れ、ともすればひとくくりの概念として捉えがちな「軍隊」は、ひとりひとりの「兵士」によって成り立ち、そのひとりひとりにはそれぞれ家族や妻があり、それぞれの人生を生きてきた人間なのだということを、改めて思い出させてくれたように思う。
 そして、少々慌ただしくなってしまった(幹事・反省!)昼食の後は、第43回東京建築賞一般二類部門奨励賞を受賞した「上田市交流文化芸術センター・美術館(サントミューゼ)」(設計:株式会社柳澤孝彦+TAK建築研究所一級建築士事務所、株式会社梓設計一級建築士事務所、2014年)の見学。こちらは上田市を流れる千曲川のほとりの約45,000㎡という広大な敷地に、伸びやかに計画されたホール、美術館に加えて、市民がさまざまに利用できる交流施設を備えた複合的な作品である。
 こちらも設計者である梓設計の永池雅人先生、そして島田直樹さん、鈴木教久さんの丁寧なご案内で、普段は見ることができないホールの舞台裏やステージ上部、楽屋群に至るまで、また、大小さまざまなスタジオや微笑ましい子供アトリエに至るまで、隅々まで見学させていただいた。
 それぞれの施設のきめ細やかな設計、地元産のカラマツが多用された親しみやすい内・外装もさることながら、この作品の最大の特徴は直径約100mにも及ぶ円形広場を囲むように配置された回廊。建物内部に外光、外気を取り入れ、広々とした眺めを実現するばかりでなく、自由に出入りできる芝生の広場から内部の様子をうかがうこともできるように計画されており、建物名に「交流」の二文字が加えられているのも納得の素晴らしい作品であった。
 今回、初めての試みになる1泊2日の東京建築賞作品見学会だったが、参加された方々から、中身の濃い研修だったと評価していただき、幹事としてほっとするとともに、感謝させていただいた2日間だった。
鷹取 奨(たかとり・すすむ)
東京都建築士事務所協会南部支部副支部長、鷹取1級建築士事務所
958年 東京生まれ/1982年 芝浦工業大学建築学科卒業/1987年 鷹取1級建築士事務所開設、現在に至る