社労士豆知識 第38回
労使協定における過半数代表者の選出方法とは?
旭 邦篤(社会保険労務士法人東海林・旭事務所)
 平成30(2018)年6月に働き方改革関連法が成立、平成31(2019)年4月より順次、施行されていきます。今回の法改正は労働時間上限規制と、同一労働同一賃金の二本柱で、企業の人事労務管理に与える影響は非常に大きいといえます。
 時間外・休日労働を行う場合に必要となり、労使間で結ぶ36協定もそのひとつで、平成31(2019)年4月から記載内容も変更されます。ところで労使協定における過半数代表者の選任はどのように行うのでしょうか。この機会に再確認してみましょう。
 そもそも労使協定には、どのような意味があるのでしょうか。
 労働基準法においては「当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合」またはそのような組合がない場合には「当該事業場の労働者の過半数を代表する者」との書面の協定がある場合は、同法の規制を免れる効果を与える規定が相当数ある(菅野和夫『労働法第11版』164頁、弘文堂、2016年)とされています。つまり、労使協定の締結(多くの規定は届出も)には、協定の定めにより労働基準法の一定の法規制を免除してもらえるという効果(罰則の適用を免れる免罰的効果など)が認められています。
 そのうち「当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合」がない場合、「当該事業場の労働者の過半数を代表する者」をどのように選出すればよいのでしょうか。
 労働基準法施行規則第6条の2を見てみると、
1. 法41条第2号に規定する監督又は管理の地位にある者でないこと
2. 法に規定する協定等をする者を選出することを明らかにして実施される投票、挙手等の方法による手続きにより選出された者であること
となっています。
 1に関しては労働基準法第41条第2号に規定する管理監督者ですが、一般的には部長や工場長など経営者と一体的な立場にある人とされています。したがって管理監督者に該当する可能性がある人は過半数代表者とすることは避けましょう。
 2の選出方法ですが、投票、挙手の他、労働者の話し合いや持ち回り決議などでも構いませんが、労働者(パートやアルバイトなども含む)過半数がその人の選任を支持していることが明確になる「民主的な手続き」がとられていることが必要とされています。
 平成29(2017)年7月、連合は36協定に関する調査結果を発表しています。その中で、過半数代表者である労働者本人に選出方法を聞いたところ、「挙手または投票により選出している」35.9%、「会社からの指名により選出している」25.2%、「一定の役職者が自動的に就任している」14.5%、「社員会・親睦会などの代表が自動的に就任している」9.2%、「判らない」14.5%、と適切な選出方法である「挙手または投票」による選出は3分の1強にとどまっています。
 過半数代表者の選出方法が問題となった有名な事件として、いわゆる親睦会の代表者を36協定締結の労働者代表としたトーコロ事件(最二小判平13.6.22労判808号11頁)があります。判決では親睦会は労働組合ではなく(したがって過半数組合に該当しない)、その代表者が自動的に過半数代表者となるのは民主的な選出という手続きに反しており、締結した労使協定は無効とされました。
 選出方法については、その後も紛争が絶えません。最近争われた乙山彩色工房事件(京都地判平29.4.27労判1168号80頁)を見てみましょう。会社(社員約20名)は専門業務型裁量労働制の労使協定を締結、届出も行っていましたが、推薦されたという過半数代表者の選出手続きの適正などが争点となりました。
 判決で「被告は、労働者代表の選出は(略)事務を担当していたDに任せていたと述べるのみであり、その具体的な選出方法について何ら説明することができず、(略)当該事業所に属する従業員の過半数の意思に基づいて労働者代表が適法に選出されたことをうかがわせる事情は何ら認められない」とし、裁量労働制の選出方法等に問題があったとして、未払時間外手当(原告4名)や付加金など約2,600万円の支払いを被告(会社)は命じられています。
 平成30(2018)年9月7日、働き方改革関連法の政省令等が公布され、改正後の労働基準法施行規則で過半数代表者に関しては「使用者の意向に基づき選出されたものでないこと」と定められています。
 今後、36協定など過半数代表者の選出方法は、いっそう注視されていくことでしょう。今でも労働基準監督官による調査(臨検監督)の際、過半数代表者の適格性や周知等については指摘されやすい事項と思われます。
 今回の電通事件でも、使用者が「当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合」と締結していたはずの36協定は、実際には労働組合の組合員数が全社員の過半数を下回っていたため無効(その後に過半数代表者を選出、再締結)となっていたことがありました。
 36協定等も、実際は会社が適当な人を指名していたケースもあるかもしれませんが、選出の手続き等が適正か、その実態を再確認し、必要な場合は適宜、見直しを図っていくことがいっそう求められる時代に入ったといえるでしょう。
旭 邦篤(あさひ・くにあつ)
青山学院大学大学院法学研究科修士課程修了/総合電機メーカーで約10年間、原子力営業などを担当、その後、証券会社で約6年間、営業を担当/2010年 東海林社会保険労務士事務所入所/2017年より現職
カテゴリー:建築法規 / 行政
タグ:社労士