支部研修旅行──台湾の日本統治時代の建築
新宿支部|平成30(2018)年6月20〜23日@台南、台北
鈴木 啓二(東京都建築士事務所協会新宿支部)
撮影:土屋 正、白石 健次、越野 明子、小松 清路、鈴木 啓二


 新宿支部では初めての海外研修旅行を開催した。行先は台湾。研修テーマは「日本統治時代建築の保存と活用の現況」視察である。参加者は会員・所員・協力会員合わせ、東京発27名、現地集合3名、日程は6月20日から3泊4日、台南・台北の2都市を巡った。
台南、「林百貨」(1932)外観。
「林百貨」売り場の柱頭デザイン。
「林百貨」外壁スクラッチタイル。
台南市代理市⻑を表敬訪問。
台南市建築師公會との懇親会。
1日目:台南
 ワールドカップ第一戦の日本勝利の喜びも冷めやらぬ20日早朝5時、羽田出発ロビー集合。入国地の台北松山空港まで2時間50分のところを45分も早く到着。ここから1日目の目的地、台南まで新幹線での移動となるが、発車までの待ち時間にバスで都心へ迂回。先ずは「台北101」(最頂部509m、屋上部449m、設計:李祖原、施工:熊谷組JV)の足元へ。いつも箱型超高層ビルしか見ていないわれわれに、101の竹をイメージした強いフォルムが国の代表的建築の表現としての気概を訴えてくる。総督府、台湾大学医学部など日本時代の建築が多い地区を巡って台北駅へ。
 台南までは台湾島(九州とほぼ同面積)の2/3を南下、新幹線で1時間46分、稲作地帯を通り308kmの距離を行く。台南着13:30。改札口近くまでバスがお出迎え。
 先ず「林百貨」(旧林百貨店、設計:梅沢捨次郎、竣工1932年、建築主:林方一、市定古跡、RC5階建て)から見学。店舗副理の曽芃茵さんの説明。暫く空きビルになっていたが2014年修復後、特産品販売施設林百貨として開業した。売場柱頭の梁との接合部がヤシの木をイメージさせるような構造表現になっていて、洗練された小物商品と相まって可愛い空間となっている。外壁のスクラッチタイルが日本の昭和初期の建物と同時代性を認識させる。
 ここから海寄りの安平地区(17後半世紀以降の貿易港湾地区)へ。「安平古堡」(17世紀オランダ時代の城塁)、「朱玖瑩先生書法展覧」(書記念館)、「安平樹屋」を見学。
 16:50〜17:30「台南市役所」へ。李孟諺代理市長を表敬訪問。大会議室にて代理市長、土屋新宿支部長の挨拶交換。代理市長より坂茂さん設計の美術館建設のお話しなどお伺いする。
 19:45〜21:00「府城食府」にて巨大な大円卓を囲み、台南市建築師公會(建築家協会)の葉世宗理事長、郭貞慧台南市台日友好交流協会理事長、ほかメンバーの方々との懇親会。
台南、「台湾司法博物館」(1914)外観。
「台湾司法博物館」ロビーで模型を⾒ながら説明を受ける。
「台湾司法博物館」屋根裏の⾒学。
「台湾司法博物館」桁⾏は⺟屋とも追掛け⼤栓継ぎ。
「台湾司法博物館」ロビーでの集合写真。
台南、「国⽴台湾⽂学館」(1916)北側外観。
「国⽴台湾⽂学館」内部。南側外部空間をアトリウム状に改修。
台北、⾬の寧夏夜市。
2日目:台南〜台北
 朝9時より「台湾司法博物館」(旧台南地方法院、設計;森山松之助、1914年竣工、二級古跡、組積造)を見学。設計を担当された葉さんから説明を伺う。日本時代に総督府地方法院として6つの法廷を持つ裁判所として建築され、2001年まで中華民国台南地方法院として使われていた。移転を機に保存修復工事を行い、2016年から司法博物館として公開している。吹き抜けに大きな塔を逆さに吊り、床の鏡に反射させて上空から屋根を見せる展示が記憶に残った。午前中をかけて内外観・屋根裏と古跡図版展(蔡佰祿さんの解説)の見学をした。古跡(文化財)保存修復工事の設計は国が組織する設計チームによるもので、そこでの提案実現の苦労話など伺った。司法博物館の向い側に建設中の坂茂さん設計の美術館があり、個性的プログラムのデザインが、新名所として大いに期待される。
 昼食後は「国立台湾文学館」(旧台南州庁舎、設計:森山松之助、竣工1916年、市定古跡)の見学。
 午後4時過ぎ新幹線で台北へ。ホテルチェックイン後、寧夏夜市へ。10m幅くらいの商店街の中央に2列の屋台が並ぶ。台湾では国民の7割もが3食とも外食という。こうした国民性が全国何か所もの夜市を発展させてきたのであろう。われわれはその中の老舗屋台の集まる千歳宴で、皆でシェアして20種以上の料理を楽しんだ。
台北、保存修復工事中の鉄道部パーク「旧総督府交通局鉄道部庁舎」(1919)正⾯外観(クイーン・アン様式)。
「旧総督府交通局鉄道部庁舎」仮囲いに張られた⻘図。
「旧総督府交通局鉄道部庁舎」⼯務室での説明会。
「旧総督府交通局鉄道部庁舎」⽞関ロビーの⾒学。
「旧総督府交通局鉄道部庁舎」改修中の2階廊下。
十分(シーフェン)で天灯⾶ばし体験。
九份(ジョウフン)、等⾼線状に丘陵に張り付く集落。
上:九份、映画のモデルといわれる傾斜地の建物。
3日目:台北
 午前中をかけて保存修復工事中の国立台湾博物館鉄道部パーク「旧総督府交通局鉄道部庁舎」(設計指導:森山松之助、1919年竣工、三級古跡、組積造一部木造2階建て)を見学する。
 工事現場仮囲いに大きな青図の設計図が張ってあり、文化財修復工事の情報を街に発信している。説明案内を役所の馮佳福さんに、細部解説を逢甲大学の加藤義夫先生にお願いした。旧総督府交通局鉄道部庁舎は台北駅西側の淡水河寄りに位置し、1989年まで台湾鉄路管理局が庁舎として使っていた。2009年古跡の指定を受け、現在、保存修復工事中で、近く博物館用途でオープンする。文化財の位置づけのまま展示館用途にするのは、どこの国でも難しいが、ここでは重量物の展示物もあり、補強の柱・梁型のデザイン処理が難しかったとのことだった。
 ここで研修は終了、以後は観光となる。県泰豊で小籠包の昼食後、十分へ向かう。十分瀑布見学、天灯(昔は谷合の村からの狼煙であった)飛ばしを体験、次に九份へ。ここは日本統治時代に大きく発展し、高い山地にある金採掘を支える街で、1970年代まで鉱山は稼働していた。「千と千尋の神隠し」のモデルではといわれている建物があり、急峻な斜面に等高線状に張り付いた街である。
宿泊したグランドホテル台北(旧圓⼭⼤飯店)外観。
グランドホテル台北、滑り台のある地下避難通路。
グランドホテル台北、ロビー階段での集合写真。
4日目:台北
 台北での宿泊は「グランドホテル台北」(旧圓山大飯店、1973年竣工)。朱色に塗り上げられた御殿のような中国風外内観の高級ホテル。最終日は自由行動であるが、出かける前に全員でホテル見学。メインは階段と滑り台を併設した地下避難通路。蒋介石夫人が中心になってつくったという建物と地下通路という組み合わせがミステリアスなイメージを醸し出す。午後3時ホテル出発。日本時間午後10過ぎ全員無事羽田到着、解散。
 台湾では、今、文化財・史跡整備が着々と進められ、日本統治時代(1895〜1945)の建物も熱意を持って保存・修復に取り組んでいる様子を肌で感じた。
 最後に、旅行の企画・引率・解説をお引き受けいただいた富田家彰さん、説明や通訳など現地でお世話になった皆様にお礼を申し上げます。
鈴木 啓二(すずき・けいじ)
東京都建築士事務所協会新宿支部、株式会社建築設計社
1944年 東京生まれ/1967年 早稲田大学理工学部建築学科卒業/1969年 早稲田大学大学院理工学研究科建設工学専修修士課程修了(吉阪隆正研究室)/1970年 菊竹清訓建築設計事務所/1980年 菊竹清訓建築設計事務所を退所、 建築設計社を設立
http://www.geocities.jp/sekkei_sya/