VOICE
泉 晃子(東京都建築士事務所協会理事、(株)タムラ設計)
東京都建築士事務所協会は今年創立70周年を迎え、特別記念号の編集に参加させていただきました。そんな折、70代の友人が引越しをしました。花屋の店頭はカーネーションから紫陽花が多くなっていますが、私はポップコーンという名前の珍しい紫陽花を友人の引越しのお祝いに贈りました。ブルーの本当にはじけたポップコーンみたいなぷっくりした可愛い花です。
友人が40年経過した木造の戸建てからRC造賃貸マンションへと、移転を決断した経緯を紹介してみます。2年ほど前から、持ち家を耐震性能も含めて改修して住んだ方が方がよいか、マンションに買い替えるのがよいか、賃貸に移る方がよいか、と迷って相談されていました。子供たちは既に独立して既存の木造の家を相続する必要がないことの確認に始まり、高齢になって2階建ての上下移動の不便さや今後の体力の減少を考え、木造住宅の改修を諦めること、老後の生活費用のことも考慮して、結局は賃貸物件を探すことになりました。
それまでの居住地域を中心に探し始めましたが、高齢者に貸してもらえる物件は案外少なく、気に入る物件に出会うまでに至らず、一方売りに出した木造住宅は最初に見に来た若い夫婦が気に入り売買契約へと進みました。転居先はなかなか見つからず焦りながら、半年近くかかりましたが、ついに満足できる物件に出会い、引越しに至りました。親しい数名で揃って新居に招待され遊びに伺いましたが、そのお宅のバルコニーからの景観がとても素晴らしいのです。夕方は茜色の空の中に遠く山々が連なり、その中に富士山が見え、日が落ちると山並みはブルーのシルエットに変わり、一時間も息をひそめて皆でその移りゆく景色を楽しみました。この景観が決め手になったことには、友人皆が納得しました。そのマンションは5年間の定期借家契約なのですが、友人は5年後にまた別の観点で次の選択を楽しみたいと考えていると言います。建物に携わる者として色々考えさせられることが多い経験でした。
泉 晃子(いずみ・あきこ)
東京都建築士事務所協会理事
1944年 富山県生まれ/日本女子大学住居学科卒業/1995年(株)タムラ設計入社/現在、同顧問/新宿支部
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