社労士豆知識 第32回
会社を守る就業規則──就業規則作成のススメ
金光 仙子(社会保険労務士法人金光総合事務所)
就業規則とは?
 就業規則とは、労働条件などを明記する、会社の「ルールブック」です。内容については労働者に相談することなく、会社が一方的に決めることができます。ただし、就業規則に記載する労働条件の内容は、労働基準法などの法令に違反することはできません。たとえば労働基準法では1日の労働時間を原則8時間までと定めていますので、1日10時間労働などという労働条件を就業規則に定める事はできないのです。
就業規則はつくらなければならないか?
 労働基準法第89条は、常時10人以上の労働者を使用する会社に、就業規則を作成して所轄の労働基準監督署へ届け出ることを義務付けています。
 一方、労働者10人未満の会社では、就業規則を作成したり、届け出たりする法律上の義務は存在しません。それでも就業規則は必要でしょうか?
就業規則を作成するメリット
 就業規則は、①合理的な内容が定められていること、②労働者に周知させていること、このふたつの条件を満たすことでその会社の労働条件となります。(労働契約法第7条)
 就業規則を作成することで、就業時間や休憩・休暇など、その会社の基本的な労働条件がどうなっているのかを確認することができます。労働条件がはっきりして労働者が安心して働くことができるようになるのは勿論ですが、実際に就業規則のコンサルティングをしてみると、会社の方が労働者に法律上何をどこまでしてあげなければならないかをよくわかっていない場合も多く、会社から適正な労働条件の見直しができたと喜ばれることもしばしばです。
 また、労働者に守ってほしい服務規律などを定めることもできます。たとえば、時間を守ること、就業時間中は業務に専念すること、会社の命令には従うことなどの就業上の基本的なことや、会社の備品・消耗品等の私用利用など不正の禁止、秘密を守る義務などは、就業規則上に明文にすることで初めて会社の明確なルールとなります。
 ルールを守らない労働者に制裁を科すには、就業規則上に懲戒事由と種類を定めることが必要とされており、就業規則なしには労働者を処罰することもできません。会社の秩序を守るためには、労働者10人未満の会社であっても就業規則はなくてはならないものなのです。
助成金を受けられる場合も・・・
 国は雇用の安定を目指して、会社に対するさまざまな助成金を用意しています(※)。助成金を受けるにはまず、会社が労働関連諸法令に基づいた適正な労務管理を行っていることが求められます。さらに、会社が労働者のために法を上回る新たな制度を設けることで受けられる助成金もあります。いずれも根拠となるのは、会社の就業規則です。就業規則なしには受けられない助成金が多いことも、就業規則を備えておきたい大事なポイントです。
(※)助成金は改廃が多いので最新情報をご確認ください。 就業規則に記載する事項(労働基準法第89条)
■ 絶対的必要記載事項
(必ず記載しなければならない事項)
① 始業及び終業の時刻、休憩時間、休日、休暇並びに交替制の場合には就業時転換に関する事項
② 賃金の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項
③ 退職に関する事項(解雇の事由を含む)
■ 相対的必要記載事項
(会社で定めをする場合に記載しなければならない事項)
① 退職手当に関する事項
② 臨時の賃金(賞与)、最低賃金額に関する事項
③ 食費、作業用品などの負担に関する事項
④ 安全衛生に関する事項
⑤ 職業訓練に関する事項
⑥ 災害補償、業務外の傷病扶助に関する事項
⑦ 表彰、制裁に関する事項
⑧ その他全労働者に適用される事項
金光 仙子(かねみつ・のりこ)
行政書士、特定社会保険労務士
金融機関勤務を経た後、十数年にわたり複数のベンチャー企業の総務経理部門に携わり、平成18年独立開業。実務に強い社会保険労務士として労働・社会保険、給与計算アウトソーシング受託を中心に事業展開し、企業の労務管理を総合的にサポートする一方で、外国人の就労等ビザ申請取次行政書士としても活躍、企業の国際化に貢献している。
記事カテゴリー:建築法規 / 行政
タグ:社労士