建築士事務所の処分等の基準の改正とは
東京三会が出した「処分問題の改善要望」がひとつ、実を結びました
加藤 峯男(東京都建築士事務所協会情報委員会委員長、東京三会担当)
東京三会の東京都の「監督処分基準の改正要望」
下掲の文章は、東京三会*が国及び都に提言した「建築士の懲戒処分と建築士事務所の監督処分に関する要望(平成26年4月23日)」の4つのうちのひとつを記したものです。
*東京三会:一般社団法人 東京建築士会、公益社団法人 日本建築家協会関東甲信越支部、一般社団法人 東京都建築士事務所協会
 建築士法第26条第2項第4号の「管理建築士が、第10条第1項の規定による処分を受けたとき」の監督処分が、現行の「懲戒処分に準じた処分」となっている基準を改め、第5号の「建築士事務所の建築士が第10条第1項の規定による処分を受けたとき」の監督処分と同様に扱い、建築士の違反行為による被害状況や是正対応等を鑑み、建築士事務所が継続して業務を行うことができるように、事務所閉鎖処分以外の「文書による注意」もしくは「戒告」で済むこともありうる処分基準とするよう要望します。
上記の文言通りの内容で、東京都からのお知らせにある東京都の「建築士事務所の処分等の基準(平成27年6月25日施行)」(以降「監督処分の基準」)が改正されました。
要望が盛り込まれたのが、前頁の東京都からのお知らせの「改正の概要」1)2)3)の3点の改正のうちの、2)及び3)です。この「監督処分の基準」改正は、東京三会が、東京都の旧「監督処分の基準」の規定の中で、最も強く改正を要望していたものです。今回、その要望通りに改正が実現しました。その嬉しいお知らせです。
なお、「改正の概要」の1)は、東京都が定める「監督処分の基準」に「改正建築士法(平成27年6月25日施行)」の最重要基準のひとつである「延べ面積300m2を超える建築物に係る書面による契約義務」ができたための、その履行義務違反の処分事由規定が追加されたものです。
管理建築士が懲戒処分を受けた場合の監督処分の基準の改正
改正の概要の2)3)は、建築士法26条第2項第4号における「管理建築士が懲戒処分を受けた場合の東京都が下す建築士事務所への監督処分」の基準です。
改正前の「監督処分の基準」では、管理建築士が懲戒処分を受けた場合の監督処分は、「管理建築士が受けた懲戒処分に準じた処分」と規定されていました。それが今回の監督基準の改正で、建築士法26条第2項第5号における「所属建築士が懲戒処分を受けた場合」と同様に、建築士が行った違反行為に対する是正対応等により処分の軽重が斟酌され、その内容によっては、必ずしも懲戒処分に準じた処分ではなく、「文書による注意」、「戒告」等の、事務所の閉鎖処分を伴わない監督処分もあり得る基準に改正されました。
旧監督処分の基準の不合理性
日本の建築士事務所の多くは、開設者が管理建築士です。また、各プロジェクトの確認申請の代理者であり、設計者であり、同時に工事監理者です。その体制で建築士事務所の業務を行っている事務所がほとんどです。
そうした業務体制を敷く建築士事務所において、たとえば、管理建築士が、設計者として一件の違反設計を事由として、国土交通省から「処分ランク6:業務停止3ヶ月の懲戒処分」を受けることになれば、建築士法第26条第2項に基づく東京都から下される建築士事務所の監督処分は、東京都が定めた「建築士事務所の処分等の基準」の第4号の基準の処分、すなわち「管理建築士に対して行われた懲戒処分に準じた処分」として「事務所閉鎖3ヶ月」の監督処分が行われていました。
旧基準では、建築士が犯した違反行為の弁明の機会となる「聴聞」において、たとえ処分事由となった違反行為に対して建築士が是正対応等を行い、適法状態で完成させ、処分の軽減が妥当と思われる場合でも、監督処分の基準に「管理建築士に対して行われた懲戒処分に準じた処分」と明記されているために、処分の内容を決定する行政官が処分の軽減を斟酌したくてもそれができない基準になっていました。
小規模事務所の死命を制する旧基準
このことは、たとえば、所属建築士が100人の大規模建築士事務所で、管理建築士が違反設計を事由として「業務停止3ヶ月の懲戒処分」を受けることになれば、東京都から「建築士事務所の閉鎖3ヶ月の監督処分」を受け、同事務所に所属する他の建築士99人も同時に当該建築士事務所の業務を行うことができなくなることを意味します。
各プロジェクトの設計者もしくは工事監理者に必ずしも管理建築士を立てる必要がない、人材が豊富な大規模建築士事務所では、管理建築士以外の建築士をその任に充てることで、管理建築士の懲戒処分が自動的に建築士事務所の閉鎖となるこのリスクを回避できます。しかしながら、全国の建築士事務所の相当数を占める所属建築士が1〜2人の小規模建築士事務所においては、その回避策をとることができません。
このように管理建築士が懲戒処分を受けることになればそのまま事務所の閉鎖に繋がる「監督処分の基準」は、小規模建築士事務所の死命を制する基準であり、建築士事務所の開設を促し、次代を担う後継者を育てていかなければならない建築士事務所業界にとって、その途を閉ざす障害のひとつになっていました。
また、建築士法第1条の「この法律は、建築物の設計、工事監理等を行う技術者の資格を定めて、その業務の適正をはかり、もって建築物の質の向上に寄与させることを目的とする」という法の目的に照らしても、監督処分基準の運用において、なぜここまで重い処分を科す必要があるのかという疑念を抱かざるを得ませんでした。
この東京都が定めた旧監督処分の基準の不合理性を改めてもらうため東京三会が出したのが冒頭の要望です。前頁の「改正の概要」2)3)と見比べてみてください。いかに東京都がその不合理性を認め、東京三会の要望を聞き入れてくれたかを窺い知ることができます。
なお、この基準改正は、他の道府県の監督処分の基準も東京都と同様に6月25日付けで改正になっています。
加藤 峯男(かとう・みねお)
1946 年 愛知県豊田市生まれ/ 1969 年名古屋大学工学部建築学科卒業、同年圓堂建築設計事務所入所/ 1991 年 同所パートナーに就任/ 2002 年 株式会社エンドウ・アソシエイツ取締役に就任/ 2003年 株式会社エンドウ・アソシエイツ代表取締役に就任/ 2011 年 一般社団法人東京都建築士事務所協会理事に就任
記事カテゴリー:建築法規 / 行政
タグ:処分問題, 建築士法