私の休日⑫
休日にビデオ鑑賞を──どうせ見るなら建築関係!
田口 吉則(東京都建築士事務所協会会誌・HP専門委員会委員長・江戸川支部副支部長、株式会社チーム建築設計)
 特に映画好きというわけではないですけれど、休日には映画館に足を運んだり、DVDをレンタルします。そんな中で建物が印象的に描かれていたものを思い起こして紹介します。
1. ディスクロージャー ──舞台となる建物内部に注目
 1994年のマイケル・ダグラス主演のアメリカ映画で、「ジュラシック・パーク」でお馴染みのマイケル・クライトンの同名小説が原作。
 内容は企業内での買収や合併の権力争いをスリリングな展開で描いていくサスペンス映画で、舞台となるのは、パソコンソフトを開発する企業の建物。外観は普通だが、内部は真ん中に大きな吹き抜けがあり、赤煉瓦、スチール、ガラスブロックで構成される大きな空間が特徴だ。最新技術で働く人びとと古びた赤煉瓦壁の対比が印象的。映画館で見たとき、こんな事務所が設計できたらと思っていたが、後で映画会社内につくられたセットだとわかって少しがっかり。


2. 家族はつらいよ──住みやすそうな間取り
 横浜市青葉区で暮らす三世代同居の一家の暮らしぶりを描いた山田洋次監督による喜劇映画。2016年公開。
 平田一家が暮らす家の間取りは、木造2階建ての4LDK、外観は実在する建物だが、室内は舞台セットである。
 1階リビングは、庭に面したほどよい大きさの空間で、家族会議等のコミュニケーションの場になっているのが特徴。玄関からの出入りは必ずそこを通り、家族同士で顔を合わせるプランとなっている。2階の老夫婦の部屋は、増築したのであろうか?広い部屋となっている。お互いのプライバシーを保つレイアウトで、ここもまた居心地がよさそうだ。2階には他に子供部屋が2つあるはずだが、外観からは少し無理がある(図はビデオを見ての想定平面図)。


3. メン・イン・ブラック──有名建築に注目
 1997年のアメリカのコメディSF映画。
 ニューヨーク市が舞台で、序盤でウイル・スミス演じる警官がエイリアンを追い駆けるシーンの舞台はF. L.ライト設計の「グッゲンハイム美術館」(1959年)。あの吹き抜け部分を警官が駆け上がる。最後にエイリアンが逃げる円盤は、1964年のニューヨーク万博でフィリップ・ジョンソンが設計した「ニューヨーク・ステート・パピリオン」。現在は使用されていないが、まるでこの映画のために残していたかのようだ。人気シリーズとなって続編が4まで続いている。


4. もしも建物が話せたら──映画監督が建物を映す
 文字通り建物を擬人化させて自身(建物)とそれに関わる人びとを6人の監督がそれぞれ6つの思い入れのある建物を描く。2014年公開。
 「ソーク研究所」(設計:ルイス・カーン、1966年)では、俳優でもあるロバート・レッフォードが、自身が11歳の時かかったポリオの予防接種を開発したこの建物を、アングルや時間を変えてしつこく何度も映す。またそこで働く学者や研究者たちがいかにこの建物を愛しているか語る言葉が印象的だ。パリの「ポンピドゥー・センター」(設計:ピアノ&ロジャース、1977年)では、「カルチャーセンターである私は、昔は暴力的で人騒がせと見なされたが、いまや蒸気機関車のような懐古的な存在となった」、「オープン以来何度も改修をし、私は建築家らの勇気ある実験であり続けている」、「私は、20世紀の記憶であると共に未来のイメージでもある」と、この建物の本質を語る。そしてこの映画の中で私がいちばん好きな建物は、ノルウェーの「ハルデン刑務所」だ。犯罪者を世界一甘やかしているといわれる刑務所で、囚人たちが自由に散歩できる広い自然環境に恵まれた場所にある。音楽ルームや体育館などもあり、刑務所とは思えない洗練された北欧のインテリアがどの部屋も素敵だ。


5. ブレードランナー──F. L. ライトの建物が存在感を示す
 1982年に公開されたアメリカのSF映画。
 スターウォーズのような派手なアクションもなく、人類に反撃する人造人間を倒すという単純なストーリー。しかしこの映画の見どころは、舞台となる2019年のアジアっぽい雑多で荒廃した未来都市だ。映画監督が新宿の歌舞伎町を訪れて刺激を受けたそうだ。ハイテクな乗り物や巨大で近代的な超高層を背景にする一方で、細部では日本語の文字であふれる雑多な界隈がバックとなり、建物のディテールや小物などにノスタルジックな雰囲気が漂う。
 そのひとつにハリソン・フォード演じる主人公の刑事が住むアパートに、F.L.ライト設計の「エニス・ブラウン邸」(1924年)が撮影に使用されている。マヤ建築風の壁がこの映画の神秘的な雰囲気を醸し出すことに一役買っている。熱狂的なファンも多く、続編が公開中。


6. 時計仕掛けのオレンジ──どれも刺激的!
 1972年のスタンリー・キューブリック監督のアメリカ映画。
 暴力と性描写が問題となり成人映画の指定を受けたが、アカデミー賞の4部門にノミネートされた。内容は賛否両論あるが、映画の中盤までに出てくる背景の建物や室内インテリア、そして小物デザインがバリエーションに富みかつ刺激的だ。前半で主人公がある家に入って暴力をふるう建物は、ノーマン・フォスターらの「チーム4」による設計された「スカイブレイク・ハウス」(1964年)が使用されている。人物と共に背景の建物に思わず目を追ってしまう。

 思いつくまま書き上げましたが、魅力ある建物は、"映画を引き寄せる"気がします。名作と呼ばれる映画の中で登場する印象的な建物はまだまだ沢山あると思いのます。どなたかこの続編を書いていただけますか?
田口 吉則(たぐち・よしのり)
東京都建築士事務所協会会誌・HP専門委員会委員長・江戸川支部副支部長、株式会社チーム建築設計
1953年東京生まれ/(株)チーム建築設計代表取締役/東京都建築士事務所協会編集専門委員
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