第55回千代田区建築技術者講習会
古田 秀行(東京都建築士事務所協会千代田支部支部編集委員、株式会社エノア総合計画事務所)
会場風景。
 平成29(2017)年2月9日、第55回千代田区建築技術者講習会が、千代田区環境まちづくり部建築指導課主催、東京都建築士事務所協会千代田支部後援により、千代田区役所1階区民ホールで開催されました。
 前半は区の各所管からの3つのテーマの最初として「千代田区開発事業に係る住環境整備推進制度について」が住環境整備係長より説明がありました。もともとは定住確保政策として平成4(1992)年制定の「住宅付置制度」がありましたが、近年の急激なマンション・人口増加に対して、住生活の利便施設が不足気味となり、平成26(2014)年の住宅基本条例と基本計画の改正を受けて制度見直しとなり、「定住性のあるフアミリー住宅」の誘導から、「一定の質を有する住宅」または「住生活に密接な施設等」へと「誘導用途」の見直しが行われ、新制度が平成28(2016)年7月1日施行となりました。
 次に「建築物省エネ法(2年目施行分)について」、設備審査係長より説明がありました。「規制措置」として特定建築物(延べ床面積2,000㎡以上の非住宅建築物)に建築物の省エネ基準への適合義務、基準適合について所管行政庁または登録省エネ判定機関の判定を受ける義務、建築確認手続きに連動させることによる実効性の確保等が平成29(2017)年4月1日より求められるようになります。
 前半の最後は第15回被災建築物応急危険度判定員講習会として、「熊本地震における判定活動について」、建築審査係長より報告されました。平成28(2016)年熊本地震での実際現地で行われた危険度判定の状況が極めて具体的に報告されました。


常盤橋街区再開発外観イメージ(日本橋川方面より)。
大規模広場イメージ(東京駅方面より)。
常盤橋と東京駅周辺のまちづくり
 後半は特別講演として、常盤橋をめぐるふたつの視点から講演が行われました。
実は千代田支部でも昨年9月に新宿西口広場での「建築ふれあいフェア」で、同じ視点の展示を行いました。日本橋川にはふたつのトキワバシがあります。ひとつは大手町から東に延びる区道に架かる常盤橋と、もうひとつは渋沢栄一像のある日本橋川沿いの常盤橋公園から日本銀行本店に向って架かる石橋の常磐橋です。これらの橋と公園は、江戸・明治の歴史的建造物として、また完成すれば日本一の高さを誇るビルを擁する再開発計画プロジェクトとして、今後新しき時代を迎えることになります。
 講演は最初に「史跡常磐橋の保存修理工事について」と題し、株式会社文化財保存計画協会主任研究員の西村さんより、常盤橋門の歴史と概要、石橋の特徴、解体調査と修復方法、文化財修復事業の説明がありました。常盤橋門は常盤橋見附として、寛永6(1629)年出羽奥州の大名により築かれ、明治6(1873)年に廃止、明治10(1877)年にそれまでの木橋が和洋折衷の石造アーチ橋に架け替えられ、現存する東京の明治維新期最古の石橋となりました。しかし東日本大震災時に被災、現在文化財修復事業として、解体修理復元中です(平成29 / 2017年度完成予定)。木橋の遺構、石橋の基礎を支える松杭など、文化財として貴重な発見も多数あり、興味深い講演となりました。
 最後に「東京駅周辺のまちづくりについて」と題し、三菱地所株式会社常盤橋開発部の安達さんより、常盤橋街区再開発を中心に、有楽町、丸の内、大手町の都市開発の歴史に関して解説をいただきました。今、常盤橋街区に関しては、都市機能への貢献として、多岐にわたるインフラの更新、地下歩行者ネットワーク、大規模広場、金融・ビジネス交流機能、都市観光機能、高度防災都市づくり、環境負荷低減をコンセプトに、計画が進んでいます。具体的には4棟(1棟は地下のみ)の構成、延べ床面積約63万㎡、地下5階、地上(最大)61階の事務所を中心とした複合施設で、平成30 (2018)年度着工、平成39(2027)年度竣工の予定です。
 ふたつの特別講演は、江戸東京の中心に位置する常盤橋(ふたつのトキワバシ)周辺が、江戸から明治そして現在の東京に至る姿と、これからさらに開発が進み変貌する姿を、歴史的に理解する上で、絶好の機会であったと思います。
 今回はみぞれの降る悪天候にもかかわらず、100名を超す技術者が集まり、熱心に受講しました。千代田支部では、会員の皆様への情報提供や技術の向上をめざし、今後とも引き続き「千代田区建築技術者講習会」への協力を続けて参ります。
古田 秀行(ふるた・ひでゆき)
株式会社エノア総合計画事務所取締役 計画設計第一部長、東京都建築士事務所協会千代田支部編集委員
1957年 東京生まれ/1979年 日本大学生産工学部建築工学科卒業/株式会社間組建築設計部を経て、2003年 株式会社エノア総合計画事務所入社、現在に至る
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