木造住宅、耐震改修データの集計と分析
矢﨑 博一(一社)東京都建築士事務所協会 木造耐震専門委員会委員長、
佐藤 博昭 同委員
木造耐震専門委員会では、これまでに『2004年改訂版 木造住宅の耐震診断と補強方法』(国土交通省住宅局建築指導課監修、一般財団法人日本建築防災協会発行)による耐震診断・耐震補強のデータ集計を行い、その結果を『コア東京』に、平成20(2008)年7月号と12月号の2回にわたり統計的データとして発表しています。耐震診断基準が2012年改訂版へと移行したことに鑑み、今回は、最近の実情に即した情報提供を行うことを目的に、最新データの集計を行いました。
集計方法は、担当者を各支部単位で選任いただき、支部活動の中で行われている耐震診断・耐震改修の状況を昨年より報告いただいており、これまでに274棟(都内、昭和56・1981年5月以前の木造住宅)のデータが蓄積されています。
それらのデータを現在いろいろな角度から分析しているところですが、ここでは基本的な項目と、平成20年の報告結果との比較に加え、耐震補強箇所と耐震補強工事費の概算方法について報告します。
耐震改修工事はリフォーム工事と併せて行われることが多くありますが、ここでいう補強工事金額とは、耐震補強工事に直接関係しないリフォーム工事などは含まれていません。また、耐震補強工事は新築と比べ、搬入路など敷地や周辺の状況、居ながら補強による制約、ならびに外部内部の補強場所など、さまざまな条件によってその補強工事金額に差が出てきます。今回、報告する補強工事金額は、すべての対象データを延床面積区分ごとに単純平均して求めたものですが、物件ごとにはかなりばらつきがあります。
したがって、あくまでこれらのグラフは、集計したデータの平均値的なものであることをご理解の上、依頼主から概算の補強工事金額や補強量を求められた際には、ぜひこれらのグラフを活用していただき、皆様の耐震改修設計に役立てていただければと思います。
今後はさらにデータの蓄積を行い、随時、さまざまな集計結果を公表していく予定です。
1. 分析データの内容
基本的な4つのデータ(延床面積・建物の重さ・補強時の診断方法・認定工法の使用)を円グラフで報告します。東京都内の木造住宅が、どのような割合で分布しているのか、どのような検討方法を用いているかがお分かりいただけると思います。
集計データ数 274棟。補強工事未実施等により、今回は対象外としたデータ数 17棟。今回分析対象のデータ数 257棟。
延床面積
分析対象とした257棟の都内の木造住宅の延床面積を5つに分類すると、半数が100m2未満であり、面積が増えるに従い、棟数が減少していることが分かる。
建物の重さ
 昭和56(1981)年以前の建物が対象のため、重い建物が過半数を占めている。
補強時の診断方法
 一般診断法による補強設計を行っている建物は、全体の2割に及ぶ。
認定工法の使用
 認定工法を用いて補強設計を行っている建物が3割に及ぶ。
2. 評点(Iw値)の比較
 平成20年に集計を行ったときの評点(Iw値)(『2004年改訂版 木造住宅の耐震診断と補強方法』による耐震診断)と、今回集計に用いた『2012年改訂版 木造住宅の耐震診断と補強方法』による耐震診断時の評点(Iw値)を円グラフと線グラフにより比較しました。2012年改訂版の診断時Iw値が0.5以下となる比率が増加していることがお分かりいただけると思います。
 また、補強箇所数は、補強方法のバリエーションが増えてきたこともあり、同じIw値であれば2012年版の方が少なくなっています。ただし、Iw値が0.7を超えると補強箇所数が減少するため、違いが現れていません。
「2004年改訂版」による耐震診断時の評点(Iw値)
このグラフの評点は、平成20(2008)年に集計を行った1階の各方向の評点のうち、低い方の評点を抽出している。
「2012年改訂版」による耐震診断時の評点(Iw値)
このグラフの評点は、1階の各方向の評点のうち、低い方の評点を抽出している。「倒壊の危険性が高い」と判定された評点0.7未満の建物は、全体の9割に及ぶ。
2004年版と2012年版による耐震診断・補強のIw値と補強箇所数の比較
補強箇所数は補強方法のバリエーションが増えてきたこともあり、同じIw値であれば今回の方が補強箇所は少ない。
3. 延床面積と補強工事金額(単位面積当たり)との関係
集計データを基にして、建物の延床面積と補強後のIw値を1.0以上とするのに掛かった補強工事金額(単位面積当たり)との関係をグラフ化しました。今回集計を行った補強工事費の方が高くなっています。これは指針の改訂による違いというよりも価格上昇の影響によるものと思われます。
4. 総補強箇所数と補強工事金額(1箇所当たり)との関係
集計データを基にして、補強後のIw値を1.0以上とするために要した総補強箇所数と、その時の補強工事金額(1箇所当たり)との関係をグラフ化しました。1箇所当りの補強工事金額についても、人件費も含めた価格上昇の影響が見られます。
5. 診断方法による比較
診断方法による補強箇所数の比較を散布図と回帰曲線により比較を行いました。集計データとして120m2以下の建物による統計となっています。精密診断による補強設計を行った方が、補強箇所数が少なくなることが読み取れます。また、現状のIw値が大きいほど、補強箇所数の差が生じています。これは劣化度による低減係数によるところが大きいかもしれませんが、散布図では一般診断による補強箇所数が少なくなっているケースもあるため、現状の耐力壁の仕様については、一般診断でも適切に評価する必要があると思われます。
6. 補強前の1階Iw値と概算補強工事費(単位面積当たり)との関係/概算補強工事費算定図
集計データを基にして、補強前の1階Iw値と、Iw値を1.0以上にするために必要な概算工事費との関係を図表化しました。
今回の集計データでは下段の散布図で示すように、各物件の補強工事金額に大きなバラツキがあります。従ってデータの平均値を基に作成した「概算工事費算定図」の使用に当たっては注意が必要であり、本図は大まかな概算を出すための目安としてお使い下さい。

算定例:補強前の1階Iw値=0.55で延床面積=100m2の場合、図表より単位面積当たりの工事費は24,500円/m2となります。
したがって概算総工事費は24,500円/m2×100m2=2,450,000円となります。
7. 補強前の1階Iw値と概算総補強箇所数(1階+2階)との関係/概算総補強箇所算定図
集計データを基にして、補強前の1階Iw値とIw値を1.0以上にするために必要な概算総補強箇所数との関係を図表化しました。

算定例:補強前の1階Iw値=0.55で延床面積=100m2の場合、図表より概算総補強箇所数(1階+2階)は22箇所となります。
「4.総補強箇所数と補強工事金額(1箇所当たり)との関係」の線グラフにより、1箇所当りの補強工事費は115,000円/箇所であるから概算総工事費は115,000円/m2×22箇所=2,530,000円となります。
8. 補強部位別の概算補強工事費の関係
集計データを基にして、上屋のみのデータに対しての基礎補強・屋根補強のそれぞれの割合を示します。
上の円グラフでは、上屋=1階、2階の壁面補強、屋根=屋根の軽量化による補強、基礎=基礎の補強、の棟数の割合を示しています。
補強を行った部位が、どのような割合で分布しているかお分かりになると思います。
下の円グラフは、ふたつ以上の部位を組み合わせて補強した場合の、工事費の割合を示しています。
補強部位別棟数
補強範囲を部位別で分類すると、全体の半数で基礎の補強を行っていることが分かる。
共通事項
(1)『2012年改訂版 木造住宅の耐震診断と補強方法』(一般財団法人日本建築防災協会発行)により補強設計を行ったものを対象とする。
(2)補強工事金額は基礎補強・屋根改修工事費を別途とする。
(3)補強箇所数は、半間(約910mm)を1箇所として換算する。
  ・構造用合板のような面材補強の場合は910mm当たり、片面で1箇所、両面で2箇所と算定する。
  ・筋かい補強は、たすき掛け筋かい、片筋かい共に910mmで1箇所と算定する。
(4)図表中の補強前1階Iw値はX方向Iw値(Iwx)とY方向Iw値(Iwy)の平均値とする。
  (ただし、Iwが1.0以上の値の場合は、Iw=1.0として平均を求める)
(5)現地調査の箇所数のデータ集計および統計は行っていない。
  Iw値=構造耐震指標を表す数値。耐震診断基準の「上部構造評点」と同義。保有耐力を必要保有耐力で割った値で、Iw値が0.7未満の場合、地震の震動及び衝撃に対して倒壊し、又は崩壊する危険性が高い。
  (国土交通省告示第184号/平成18年1月25日)

木造耐震に係るウェブサイト
・(一財)日本建築防災協会
 http://www.kenchiku-bosai.or.jp/
・(公財)日本住宅・木材技術センター
 http://www.howtec.or.jp/index.html
・E-ディフェンス - 防災科学技術研究所
 http://www.bosai.go.jp/hyogo/
・ぶるる君 名古屋大学福和研究室
 http://www.sharaku.nuac.nagoya-u.ac.jp/laboFT/bururu/
木造耐震専門委員会
委員長  矢﨑 博一 (第4ブロック)
副委員長 伊藤 衞  (第1ブロック)
副委員長 辻川 誠  (第6ブロック)
副委員長 岸本 豊彦 (業務委員、第6ブロック)

委員   佐藤 博昭 (第2ブロック)
委員   臼井 勝之 (第3ブロック)
委員   曽根 浩一 (第3ブロック)
委員   水野 久志 (第4ブロック)
委員   笠貫 昇  (第5ブロック)
委員   原田 英男 (第6ブロック)
矢﨑 博一(やざき・ひろかず)
ぴいえいえす設計株式会社代表取締役、東京都建築士事務所協会 木造耐震専門委員会委員長
1950年長野県生まれ/1973年日本大学生産工学部卒業
タグ:木造, 耐震改修