平成28(2016)年11月11日(金)15:15、東京都建築士事務所協会研修委員会主催による東京建築賞受賞作品見学会の11名の参加者は、雨が心配される中、クリスチャン・ボルタンスキー展も同時に鑑賞できるとあって、歩調を速めながら中に入りました。
整備計画について
見学に先立って会議室にて、株式会社久米設計の安東直さんと川東智暢さんから、展示空間と管理諸施設からなる新館と、本館の重要文化財朝香宮邸改修について、スライド説明が行われました。平成25(2013)年12月に竣工した新館の外装は、イタリア製大判タイル乾式外断熱工法としており、モノリシックな単純化されたボリュームとなっています。内装は、そのイメージを室内に引き込み、床はトラバーチンとPC版のコンクリート現し、ガラスはサッシレスとなっており、ミニマルな印象の表現となっています。本館が竣工したころは、欧州ではモダニズム建築が席巻していた時代に当たるため、その時代の建築文化の脈動の再現を試みたとの説明がありました。
約35,000㎡の敷地には、昭和8(1933)年に建設されたアールデコで知られる「旧朝香宮邸」(現在の本館)と、昭和13(1938)年に建設された「茶室」があり、今回の新館は、先の東京オリンピックの前年の昭和38(1963)年に建てられた民間の迎賓館(旧新館)のあった場所に新築されています。
埋蔵文化財包含地であることから、迎賓館の躯体を再利用し、高さも超えないよう計画されており、既存躯体断面図に重ねられた計画断面に、設計のご苦労が現れているように思えました。
新館は、管理事務関係諸室と、従来なかった温湿度管理のできる収蔵庫、運営用諸室、本館の展示機能を補完し、さらに拡充する展示空間が納められています。展示施設は、今回クリスチャン・ボルタンスキーのアート作品が展示されている25m×11mの主展示室(ギャラリー1)と8m×17mの講堂兼用の副展示室(ギャラリー2)、それらの伴うロビー空間、カフェ、搬入用諸室からなっています。
新館のディテール
ギャラリー1は、新館ロビー天井と同様に構造材として架けた半円形のPC床版にLEDのライン型ベース照明が組み込まれ、ニュートラルな展示空間を志向しながらも、単純なホワイトキューブとはニュアンスの違う空間がつくられていました。ギャラリー2には高さ9mのハイサイドライトによる自然採光を可能にしてあり、性格が異なるふたつの展示室となっています。空調は、主展示室は置換空調、副展示室は講堂機能も担うため、輻射冷暖房としています。アール・デコ──旧朝香宮邸の内装改修について
旧朝香宮邸の魅力は、室内空間を彩る装飾や素材の多様性にあります。古代神話を連想させる正面玄関のルネ・ラリック作のガラス扉から始まり、大客室のシャンデリア、キュビズムの影響といわれる幾何学的、立体的な照明器具も目を引きます。壁にはさまざまな希少な大理石が、バルコニーや浴室には緻密なモザイクタイルが使われ、扉の握り手やレジスターカバーは鋳造されたもので、内装すべてが工芸作品であるかのようでした。調査の結果、大広間の床の絨毯の下には、組子細工の木製床があることが判明したそうですが、絨毯との接着面は木製床を傷めずに復元することができないため、次代に復元を委ねることになったとのことです。見学研修を終えて
平成20(2008)年8月の調査業務開始から平成25(2013)年12月の竣工までの6年あまりの長い期間、限られた空間とさまざまな制約の中で、関係者への承認プロセスに注がれた建築家の途切れることのない創造への情熱と、構想を実現させようとするエネルギーに胸を打たれました。新館ロビーや展示室の天井のように空間と構造が一体となった半円状PCのディテールと、新館エントランスホール床のトラバーチンに含浸補強をしてまでデザインを貫き通す設計者の情熱が印象に残りました。
東京都庭園美術館
建築主:東京都設計:株式会社久米設計
施工:戸田・小沢組建設共同企業体
所在地:東京都港区
主要用途:美術館
構造:鉄骨造、一部鉄骨鉄筋コンクリート造
階数:地上2階、地下1階
敷地面積: 34,765.02㎡
建築面積: 2,346.55㎡(本館改修+新館増築)
延床面積: 4,241.28㎡(本館改修+新館増築)
工事期間:2012年11月〜2013年12月
市村 憲夫(いちむら・のりお)
東京都建築士事務所協会研修委員会委員、千代田支部副支部長、株式会社三菱地所設計
1956年 東京生まれ/1980年東京芸術大学卒業後、三菱地所株式会社入社
1956年 東京生まれ/1980年東京芸術大学卒業後、三菱地所株式会社入社
記事カテゴリー:東京建築賞、東京都建築士事務所協会関連
タグ:研修委員会