「もてなし」について
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若い時、外国から日本に知り合いが来た。フィンランドから6名(男女3カップル)、フランスから1名(男)の計7名で全員が2〜3カ月の滞在であった。私はそのころはまだ独身で自由な時間が使えていたので、その期間中には週2回は誰かしらに会っていた。英語はあまり喋れなかったが、宴席では酒が世界共通語になるため、外国の人との付き合いは初めてでも、会うことがとても楽しかった。★
さてある時、鎌倉を見せてあげようと彼らを連れて行った。長谷寺や大仏、鶴岡八幡宮などをまわったと思う。そこで昼に計画していた精進料理を食べさせようと誘った。一生に一度のことだろうと貯めていたお金を出して気前よく振る舞った。全員が精進料理は初めてなので、「これは何か」と質問責めにあった。午後は次のコースを案内し、また結構歩いたので帰り際に今度はラーメンを食べた。★
そこで私は、「こっちの方がよほど美味しかった」と耳にした。精進料理は絶対に喜ぶだろうと自己満足していた私はがっかりした。たぶん彼らには、初めての何だかよくわからないものより、腹にたまるものがよかったのだろうか。いや、ラーメンがおいしかったのかもしれない。★
「もてなし」は自己満足でなく、また見返りを考えずにするべきだとその時思った。しかしその後は、彼らの国へ行くたびに逆に「もてなし」を受け、喜んで帰国している。……さて、2020年の「おもてなし」はどのようになるだろう。
奥山 安雪(おくやま・やすゆき)
建築家、建築設計アトリエ80主宰、東京都建築士事務所協会北部支部
1953年生まれ/野地建築設計事務所を経て1980年に独立/趣味は「書道」と「躰道」という武道
1953年生まれ/野地建築設計事務所を経て1980年に独立/趣味は「書道」と「躰道」という武道