ワークプレイス
スペースデータからみるオフィス像
辻村 由紀子 合原 祐美(株式会社イトーキ FMデザイン統括部)
社会環境の変化
 少子化と高齢社会、ダイバーシティへの対応、大規模災害への対応や地球環境への関心と責任の高まりなど、社会環境はこれまでになく大きく変化しています。企業価値を高めていくためには、これらの変化に対応しながら、ワーカーひとりひとりの能力を引き出し、成長させ、組織力を向上させていく活動が必要であり、その場としてのワークプレイスは、経営資源として、その重要性をますます高めているといえます。
図1 ワークプレイス計画時の課題と実施施策
2012〜14年に竣工した「島型対向式」を中心とした、一般的なオフィス80事例より。9割がテナントビル入居のオフィス。
取り組むべき課題
 さまざまな環境の変化の中で、ワークプレイスを的確にマネジメントしていくために取り組むべき代表的な課題は、以下のように整理することができます。

① 業務内容や組織構造の変化等に柔軟に対応し、適切にワークプレイスを供給。
② 組織の知識創造行動を活性化するワークプレイスとそれを適切に運用するサービスの提供。
③ ワーカー個々の成長など自己革新を支援するワークプレイスやサービスの提供。
④ さまざまな人材を活用していく、ダイバーシティへの対応、ユニバーサルデザインの採用。
⑤ 従業員の健康管理を経営的視点で考えた、ワークプレイスにおける心身の健康に関する対策の実施。
⑥ ワークプレイスの構築・運営維持段階での、環境負荷低減施策の実施。
⑦ 大規模災害時における災害時の拠点化などの社会貢献施策の実施。

 また、図1は、2012〜14年に竣工した「島型対向式」を中心とした、一般的なオフィス80事例の、ワークプレイスづくりにおける主要テーマや、解決すべき課題についてまとめたものです。これを見ると「コミュニケーション強化」、「経営資源全体最適化・有効活用」が80%以上の企業(オフィス)においてテーマアップされ、実際に何らかのかたちで課題解決に取り組まれていることが分かります。
「経営資源全体最適化・有効活用」という課題に取り組んだ結果として、オフィスの面積や、会議・ファイリングなどのための諸機能がどのような配置状況になっているのか、その概要をこれらの事例の面積データ等からご紹介します。
 取り上げた80事例は、その9割がテナントビル入居のオフィスであるため、比較的スペース効率のよい計画が実現されているオフィスであるといえます。
図2 オフィススペースの機能別構成比
図3 1席当たり面積
オフィススペース
オフィス全体の面積を、執務室面積、役員専用面積、個室執務面積、業務支援面積、情報管理面積、生活支援面積、通路面積に分類、計測・集計し、各面積の構成比を示したものが、図2のグラフです。
デスク・収納・オープンミーティングなどから構成される執務室が全体の61%、会議応接室・受付などの業務支援機能の面積が20%を占めています。この業務支援面積の6割は会議室が占めています。1991年当時のデータでは、執務室面積は全体の50%弱であり、近年のオフィスでは執務室面積の占める割合が大きくなってきているといえます。
執務席として使用するデスク1席当たりのオフィス面積は、7.8m2でした。オフィス計画開始時の入居予定人員は、設置デスク数の80〜90%程度でしたので、入居人員当たりに換算すると、8.7〜9.8m2/人程度と想定されます。
1席当たりの各面積は、図3に示す通りであり、執務室面積では4.8m2/席となっています。
テナントビル入居のオフィスのみを抽出してみると、オフィス面積は7.6m2/席、執務室面積は4.8m2/席となっており、オフィス面積の縮小分を執務室以外の面積を削減することで補っていることが分かります。
業務支援面積は1.6m2/席、そのうち会議室の面積は1.0m2/席となっています。サーバールームや図書室、書庫室、倉庫などの情報管理面積と、リフレッシュルームや談話室、更衣室などの生活支援面積は共に0.4m2/席程度となっています。
近年では、リフレッシュのためのスペースを独立して設置せず、気分転換、交流、作業、ミーティングなどさまざまな用途に利用できる複合用途の場として執務室内に設置することが多い。特に、テナントビル入居オフィスなどの、利用できる面積に制約のある場合には、用途の複合化によるスペース効率の向上と機能向上を図る事例が多くみられます。
図4 ミーティングスペース(会議室・応接室)の室規模別設置状況
図5 オープンミーティングスペースの室規模別設置状況
ミーティングスペース
会議室・応接室の設置状況を、室規模(設置席数)別にみてみると、12名以下の会議室が全体の75%を占めていることが分かります。その内、設置割合の一番多い室規模は、5〜6名用で、全体の3割弱となっています(図4)。執務席として使用しているデスク数との関係では、会議・応接室の1席を、2.2人(席)でシェアしていることになります。
また、オープンミーティングスペースの設置状況を、規模(設置席数)別に見てみると、4名用(席)のミーティングスペースが6割近くを占めており、次いで、6名用(19%)、2名用(12%)となっています(図5)。執務席として使用しているデスク数との関係でみると、オープンミーティング1席を、4.1人(席)でシェアしていることになります。
近年、執務室内の業務支援機能や生活支援機能を融合させ、ワーカーが自然と集まるような空間を主要動線沿いに設置することで、何気ない会話や情報交換を促し、部門内外のワーカー同士のコミュニケーションの活性化を図ろうとする試みが増えています。
コピーコーナーやカフェコーナー、ミーティングコーナーが融合した空間が、新たなアイデアを生み出すコミュニケーションのためのマグネットエリアへと変化しています。
図6 1席あたりのデスク間口寸法
デスク
デスクレイアウトについては、島型対向式が、93%であり、多くのオフィスで採用されています。
デスク形状については、以前は、島型対向式レイアウトでは、ひとり1台の単体デスクの採用が一般的でした。最近では、多くのオフィスでワイド5〜6m程度の一体型の大型天板を数人でシェアする例が増えています。
1席当たりのデスクの広さについては、デスク間口1,200 mm以下が全体の48%、1,200 mm を超え1,400 mm までが39%程度を占めています(図6)。
1,200mm以下の内、1,200mmのデスク(間口)は、75%ほどで、全体の36%を占めていました。
図7 ファイリング・システム導入前後の収納量
ドキュメント管理・出力装置
 執務室内の収納量(文書用の収納キャビネットに保管できる収納の量)は、1人(席)当たり2.3fmでした。fmとは書類やファイルの量を表す単位です。書類の大きさに関わらず、積み上げたときの高さをメートル単位で表したもので、ここでは、A4サイズの書類やファイルに換算しました。
 執務室内収納量に書庫室の収納量を加えた、オフィス全体での収納量は、1人(席)当たり3.2fmでした。
 効率的な知的創造活動を行うためには、情報の共有化と活用のしやすさが重要となります。いつでも必要な情報を迅速に取り出し、活用できるようにするためには、情報の取り扱いを体系化することが必要です。そのための第一歩が、不要な書類を廃棄することです。不要な書類を適正に処分し、必要な書類の取り扱いを体系化することで、結果的に情報漏えいに対するリスクも低減されます。
 ファイリング・システムを導入することにより、既存文書の約5割が削減されています(図7)。
 コピー・複合機の設置状況を、1台当たりの執務デスク数からみると、コピー・複合機は43席に1台、プリンタは49席に1台の設置となっています。また、コピー・複合機の設置状況を執務室面積との関係でみると、執務室200m2に1台ほどの設置となっています。
その他のデータ
 リフレッシュスペース(執務室内および室として設置されているもの、食堂は含まず)の面積は0.2m2/人となっており、飲み物、給茶サービスなどによる気分転換だけでなく、情報交流の場として積極的に導入されています。
 会議室で、ガラス間仕切りを採用しているオフィスは56%でした。視線が通ることによる空間の一体感や広がり、会議室内での活動の見える化などに取り組まれているオフィスが過半を占めていました。
ワークプレイスにおける付加価値
 ここまで、いくつかの数値から、オフィスの傾向をみてきましたが、この数値(平均値)以上のオフィスが必ずしもワーカーにとって魅力的なオフィスであるとは限りません。近年導入されつつある在宅勤務やサードプレイスを活用したワークスタイルが、今後進むことを考えると、わざわざオフィスに出向いてでも仕事をすることに意味がなければ、そのワークプレイスは企業価値を向上させる経営資源とはなり得ません。それぞれのワークプレイスならではの付加価値や魅力が重要な要素となります。
 最近では、健康づくりを促すオフィスが注目されています。「座りすぎを防ぐためのスタンディングワークを促す上下昇降デスクの採用により、働き方にメリハリがつき疲労軽減・作業効率がアップする」という調査結果や、「スタンディングワークが、ワーカー同士の円滑なコミュニケーションを促す」との報告もあります。今後は、企業価値を向上させる経営資源としての、さまざまな付加価値をもったワークプレイスが現れるものと思われます。
 一方、今年発生した熊本地震や東日本大震災では、多くのオフィスが被災しました。ワークプレイスの付加価値や魅力の創出と共に、基本的な性能である、オフィスにおける安全性の確保は、今後も重要な課題のひとつであることを忘れてはなりません。
辻村 由紀子(つじむら・ゆきこ)
1990年4月 株式会社イトーキ入社。オフィスへの空間提案、製品販促提案活動に携わる。現在、FMデザイン設計部ドキュメントデザイン設計室
合原 祐美(ごうはら・ゆみ)
1999年4月 株式会社イトーキ入社。オフィス、公共空間設計に携わる。現在、FMデザイン設計部 プログラミング推進室デザインチーム