武蔵学園見学会
文京支部・練馬支部
鈴木 秀司(東京都建築士事務所協会文京支部副支部長、株式会社鈴木建築事務所)
武蔵大学3号館。大正12(1923)〜大正14(1925)年にかけて旧制武蔵高等学校の校舎として建築された。
見学会参加者。
 東京都建築士事務所協会文京支部では練馬支部との合同企画で、平成28年(2016)7月20日、武蔵学園(武蔵大学江古田キャンパス)の施設見学会を開催しました。
 武蔵学園は、中学校、高等学校、大学、大学院で構成されている学園です。平成28(2016)年にBELCA賞ロングライフ部門(「武蔵大学3号館」、「武蔵学園大講堂」、「武蔵学園根津化学研究所」)、昭和58(1983)年にBCS賞(キャンパス再開発)を受賞しています。今回の企画は、「武蔵大学3号館」ほかの、BELCA賞ロングライフ部門を受賞した建築物群と、キャンパス再開発を主に見学しました。
 武蔵学園施設部長の服巻健様から、建築概要および長期修繕計画内容等の説明を受け、当初の意匠を生かしながらの維持管理が着実に実施され、長期保存のための補修・改修が適切に行われていることを知ることができました。
内田祥哉氏ほかによるキャンパス再構築事業は、共同溝を利用してキャンパス全体のインフラ整備と維持管理機能の向上を図ったものです。キャンパスは緑が多く、学園が樹木を大切に管理し、建物と緑の調和に努力していることを感じとることができました。
武蔵大学3号館
 清水組(清水建設株式会社の前身)の設計で、大正12(1923)年から大正14(1925)年にかけて、旧制武蔵高等学校の校舎として建築されました。現在は、主に大学の教室として使用されています。構造は鉄筋コンクリート造3階建て、塔屋付き。都内でも珍しい関東大震災、空襲、東日本大震災を経験した建物で、練馬区内に残る鉄筋コンクリート造の近代建築として最も古い建物です。デザインはアール・デコと呼ばれるもので、外壁の柱の凹凸や上部のジグザグ模様が特徴です。平成17(2005)年と平成24(2012)年に、外装サッシュや内部の建具など、当初の意匠を生かした改修と耐震補強が行われています(耐震補強設計:清水建設/改修設計:武蔵エンタープライズ)。
武蔵学園大講堂
 日本を代表する建築家のひとりで、「早稲田大学大隈記念講堂」(昭和2/1927年)や「日比谷公会堂」(昭和4/1929年)を手がけた佐藤功一の設計により、昭和3(1928)年に旧制武蔵高等学校の講堂として建築されました。現在は入学式や卒業式などに用いられ、2階には武蔵学園の史料を公開している展示室(学園記念室)を備えています。構造は鉄筋コンクリート造、一部鉄骨造、2階建て。意匠はゴシック様式を残しつつ、近代的合理的空間を目指したモダニズムの息吹が感じられます。また、内壁の布目タイルや外壁のスクラッチタイルには時代の風合いが表れています。平成23(2011)年には、旧来の外観のイメージを変えることなく、空調、照明、音響のほか、座席の交換を行うなどの改修と耐震強化工事が行われました(耐震補強改修設計:清水建設)。
 平成28(2016)年2月17日に「武蔵大学3号館」と「武蔵学園大講堂」は、練馬区の登録文化財に登録されました。
武蔵学園根津化学研究所
 1936(昭和11)年に佐野利器の設計により竣工しました。佐野は耐震構造学の発展に大きく寄与した建築家で、「武蔵大学3号館」の設計にも携わっています。佐野はまた、旧制武蔵高等学校の父兄会の副会長を務め、武蔵学園とは縁の深い人物です。同研究所の初代研究所長には、玉蟲文一武蔵大学教授(理学博士)が就任し、物理化学の分野で多くの功績を残しました。現在は、「玉蟲文一研究室」として当時の内装を残しつつ、主に武蔵大学総合研究所の施設として使用されています。昭和63(1988)年に、研究所はそのままに上部を覆うように9号館が建設されています。平成22(2010)年に改修工事が行われました(改修設計:鈴木建築事務所)。
 武蔵学園は校地内を一般開放しており、学園記念室および練馬区の名木指定木、保護樹木の見学ができます。
鈴木 秀司(すずき・しゅうじ)
東京都建築士事務所協会文京支部副支部長、株式会社鈴木建築事務所
記事カテゴリー:支部 / ブロック情報