これからのLED
連載:第7回 先端技術セミナー
行方 瑞木(大光電機株式会社 TACT東京 副部長)
3月11日、会員委員会主催で賛助会協賛による7回目の先端技術セミナーが開催された。テーマは、「LED照明」と、「ユニバーサルデザインとトイレ」について。参加者は34名だった。
LED照明のプレゼンターの行方瑞木氏より寄せていただいたテキストを掲載する。行方氏の仕事は「照明計画のお手伝い」とのことで、広範囲にわたる知識の持ち主。セミナーの内容は濃く、参加者は大いに興味を示していた。
次回、皆さんもぜひご参加ください。 (編)

 震災から4年がたちLEDは日本社会に定着した。震災直後の節電需要から、現在では節電以外の長所を活かして私たちの生活をより豊かにしてくれるアイテムへ進化している。そんな進化するLEDの今後の可能性について述べる。
 LEDの長所で思い浮かぶのは、まず「省電力」であることと、その小ささ。反対に短所と捉えられていたのはパワーのなさや価格の高さだったが、現在では高効率のHf蛍光灯のlm/wを凌駕する明るさを持つLEDも登場。価格も白熱灯のものより安価なLEDダウンライトも発売されるようになった。発売当初、取り沙汰された演色性の悪さや色のバラつきといった問題も落ち着き、白熱灯や蛍光灯といった従来光源の代替品として、それらの光源の長所を目指しての開発もひと段落した感がある。LEDは今後何を目指して発展していくのだろうか。
制御──人と環境に優しいテクノロジーとして
 LEDの長所のひとつに応答速度の速さがある。調光が容易であり細やかな制御が可能である。またサイズが小さいため、ひとつの器具に異なる光色のLEDを入れることができるので、調光調色という新しいトレンドを生み出した。初めはレインボーカラーで街をカラフルに彩る演出照明が登場。現在の主流は、一般的な照明で使われる昼白色から電球色までをスムーズに変化させ、室内にさまざまなシーンをつくり出すことである。
 同じダイニングコーナーでも宿題や仕事をする時は白く緊張感のある光、食事やくつろぎの時間は温かみのある電球色に切り替え、照明でひとつの空間を目的に合わせてさまざまにつくり替える手法は、昔からひとつの部屋をちゃぶ台を出して食堂、布団を敷いて寝室にとフレキシブルな使い方をしてきた日本人の合理性に合っており、急速な低価格化もあってすぐに広まった。
 また、スマートフォンやタブレットの発展に伴い、専用アプリによって簡単に照明を制御できるようになった。シーンを自在につくり、家の外からも遠隔操作が可能。さまざまなアプリと組み合わせれば、電気代の計算や、天気と照明をリンクさせることもできる。
 照明のシーン設定は空間の使い方を広げてくれるだけではなく、節電にも効果的である。震災直後、多くの施設で節電に取り組んだところ、てっとり早く行われたのが間引き点灯であった。しかし元々の照明計画にない単純な間引き点灯は、施設の美観を損ねるばかりか本来明るくなくてはならない場所も暗くしてしまい、不便さや侘しさを生み出した。
 オフィスや駅のコンコース、商業施設の共用通路など一日の使用時間が長い空間では、昼光センサーやタイマーを用いて外光利用と組み合わせることで、自然で快適な変化のある空間をつくり出すことができる。逆に照明が不適切だと不快な空間になるばかりか、心身の健康にも影響を及ぼしかねない。ブルーライト問題や、サーカディアン・リズム(概日リズム)への照明の影響が注目され、今まではどちらかというと機能や経済性優先だったオフィスや病院、高齢者施設でも、照明のあり方が重視されるようになってきた。制御しやすいLEDはそういった時代の要求に応えることができ、もはや省エネ・長寿命という観点を超えて、より人と環境に優しいテクノロジーとして私たちの生活の可能性を広げている。
白熱灯より自然に見せるLED
 かつては演色性が低く物の色や肌が鮮やかに見えないといわれていたLEDだが、技術の発展により白熱灯などの従来光源よりも優れた色再現性を持つようになった。
 ふたつの写真は両方とも3,000K(ケルビン)電球色のLEDを使用した例だが、従来型LEDを使用した左の写真はすべてが黄ばんで見えるのに対し、新型の高演色型で照らした右側の写真では電球色の光の中にあってもドレスは白く、黒いスーツは黒くスッキリと見えている。かつて白熱電球は、温かみのある色合いと適度な輝度のある光がものをきれいに見せるとされていた。しかし青の波長をほとんど含まず、黄色や赤の波長が多いため、白や寒色系の色が黄ばんで見えてしまうという欠点があった。波長の制御技術が発達したLEDでは、電球色であっても青や緑の波長も強調することができ、すべての色を鮮やかに再現できるようになった。
 LEDはまた、白熱灯の熱の元であった赤外線や、蛍光灯や水銀灯に含まれている紫外線をほとんど発しないため、熱が少ない、虫が寄りつきにくい(70%の虫は紫外線に寄ると言われている)という長所もある。
既存照明のLED化の注意点
 このようにメリットの増えたLEDを既存の照明器具に付けたいという市場のニーズは当然多く、それに応えるさまざまなLED製品が溢れている。
 住宅向けの白熱灯器具に付けられるLED電球がその代表だが、オフィスや学校、工場と幅広く使われてきた直管蛍光灯を省エネのためLEDに替えたいという要望も大変多い。しかし白熱電球と違い、蛍光灯もLEDもそう単純な光源ではないため、既存の蛍光灯照明器具にLED電球を付け替える際は注意が必要だ。
 LEDを正常に点灯させるためにはLEDに適した電流電圧へ変換する電源が必要だが、蛍光灯も点灯する際に安定器を必要とする。両者をどう組み合わせて点灯させるかによって器具の改造の有無が生じる。既存の蛍光灯器具はLEDに交換することを前提に設計されていないため、仕様によっては不具合が生じることがある。またガラス管内が空洞の蛍光灯と違い、LED電球は重いため、ランプが落下する恐れもある。安易な交換はトラブルの元となりかねない。
 同様に既存の調光器でLEDを調光する場合も、十分に確認しないとチラつきや不点灯等の不具合が起きる恐れがあるので、LED照明器具メーカー、調光器のメーカー両者にしっかり確認を行う必要がある。
 LEDは従来の光源と異なる精密機器である。それ故に繊細で取扱いに注意が必要な場合もあるが、多くの可能性があり、今後更に発展していく光源であることは間違いない。新製品情報や不明点はメーカーに気軽に問い合わせ、その長所を最大限建築に活かしてほしい。
既設の蛍光灯照明器具に直管LEDランプを取り付ける際の懸念事項*
(*一般社団法人 日本照明工業会ホームページより)
行方 瑞木(なめかた・みずき)
東京生まれ/武蔵野美術大学卒業/1989年大光電機株式会社入社。デザイン室に配属。照明デザイナーとして公共施設、ホテル、ブライダル施設、再開発計画の照明計画、及び特注品のデザインに携わる/現在、大光電機株式会社 TACT東京 副部長
記事カテゴリー:構造 / 設備 / テクノロジー / プロダクツ
タグ:LED