「すみだ北斎美術館」内覧会
墨田支部
鈴木 文雄(有限会社鈴木設計、東京都建築士事務所協会墨田支部)
北側の墨田区立緑町公園より見る。撮影:鈴木 文雄
左:スリットを見上げる。右:1階。撮影:鈴木 文雄
撮影:店橋 淳子(墨田支部、大日向建設株式会社一級建築士事務所)
 梅雨の一瞬の晴れ間に、この建物は空と一体となった。淡い鏡面のアルミパネルは天気の具合でさまざまに表情を変えるが、青空で見せる爽やかな姿がやはり格別である。平成28(2016)年6月14日、今秋に開館を迎える「すみだ北斎美術館」の内覧会が行われ、われわれ墨田支部も招待を受け70名ほどで参加した。主催は墨田建設産業連合会、墨田建設業協会であり、施主である墨田区のご厚意により開催が実現し、総勢約150名が建設地である墨田区立緑町公園に集まった。
 葛飾北斎とは江戸時代後期の浮世絵師であり代表作に「富嶽三十六景」が挙げられる。1999年にアメリカの『LIFE』誌が選んだ「この1000年で最も重要な功績を残した世界の人物100人」に唯一の日本人で86位にランクインしたことも話題となった。北斎の生誕地として記される「武蔵国葛飾郡」が当館が建つ現在の墨田区亀沢であること、また当館敷地は北斎に屏風絵を依頼した弘前藩主の上屋敷の一画であったことなど、北斎ゆかりのこの地は、建設地として相応しい。作品を鑑賞するだけでなく、生まれ育った町の史跡に触れることにより、北斎という人物像をより深く知ることができる。
 設計は妹島和世建築設計事務所、施工は大林組と東武谷内田建設のJVである。
 鉄筋コンクリート造(一部鉄骨造)の地下1階、地上4階建てで、延床面積が約3,300m2と、小ぶりな容姿が下町の景観を妨げていない。1階はイベントにも使用できる講座室、ミュージアムショップ、図書室、2階は収蔵スペース、3階と4階が展示室となっている。
 外周4面にある建物全体を分割するスリットは外部からのアプローチとなっているため、どちらの方向からでも出入りができる。「裏をつくらない」地域との一体感を持たせる計画となっている。
 また、スリットの内側がガラス張りとなっているため、見る角度や位置で幾何学的な景色を見つけることができる。内装をシンプルな色調で構成していることで、さまざまな意外な「しかけ」を邪魔していない。自分好みの撮影スポットを探してみるのも楽しい。
 ちなみに、当館のシンボルマークは「富嶽三十六景」の1作品のある部分をモチーフにしている。それを探すのも鑑賞の楽しみのひとつにしていただきたい。

東京オリンピックでボクシング会場に予定されている両国国技館からは徒歩約10分、東京スカイツリーからも小1時間で歩けるという立地のため、多くの観光客、特に外国人旅行者の来館が予想される。北斎絵画と現代建築という、およそ200年という時代を隔てた浮世(現代風)作品がひとつとなり、日本文化発信の場として世界的に周知され、街の活性につながることを期待する。
鈴木 文雄(すずき・ふみお)
建築家、有限会社鈴木設計代表、東京都建築士事務所協会青年部会、墨田支部
1984年 東海大学建築学科入学/1987年 同校中退、東京デザイナー学院建築デザイン科入学/1989年 同校卒業/有限会社鈴木設計一級建築士事務所入社、現在に至る