講演会「フランク・ロイド・ライトの世界」
賛助会員会
早川 佳孝(東京都建築士事務所協会賛助会員会、富田商事株式会社企画・デザイン部 建築意匠参与)
講演風景。
 平成28(2016)年4月15日(金)、東京都建築士事務所協会会議室において、東京都建築士事務所協会賛助会員会主催による講演会「フランク・ロイド・ライトの世界」が開催されました。講師は、NPO法人ライトウエイソサエティ・日本代表の堀静夫さん。堀さんは、明治大学卒業後フランク・ロイド・ライト建築学校に学び、米国でバートランド・ゴールドバーグ建築事務所、鹿島建設シカゴ設計事務所に勤務した建築家であり、ライト建築の研究者。以下に豊富な写真と図面を収録した52枚のスライドによる講演の内容をご紹介します。
 フランク・ロイド・ライト(1867-1959)の72年間におよぶ設計活動で生み出された建築作品は800以上あり、それを理解するためには時代的区分が有効です。

フランク・ロイド・ライトの建築と思考の変遷は以下のように整理できます。
■第1期 人格形成期(1867-1887)
生地ウイスコンシンの自然と田園環境。
■第2期 建築開花期(1893-1909)
プレーリー(草原)住宅。
■第3期 新建築序奏期(1909-1929)
プレーリー住宅様式からの離脱。「旧帝国ホテル」、カリフォルニア住宅、「オカティラ・キャンプ」。
■第4期 建築・思想醸成期 (1929-1936)
「ブロードエーカー・シティ構想」。
■第5期 建築聡明期 (1936-1959)
「落水荘」、「ジョンソン・ワックス本社ビル」、「ジェイコブス邸」と一連のユソニアン住宅。

 この変遷をどのように捉えるかでライト建築の解釈が異なってきますが、難解である建築思想(精神性)に視点を置くことで、ライト建築に近接でき、特に、「旧帝国ホテル」、「ブロードエーカー・シティ構想」とユソニアン住宅にライト建築の真髄を見ることができます。
 3期の作品は少ないのですが、その後期の作品が第5期の基盤になっています。第3期の最高傑作「旧帝国ホテル」は、1905年の初来日以降の作品にみられる煩悶、迷走、混迷など、10年弱のデザイン発想源の徘徊期に与えられた機会でした。しかし、ライトはその竣工を見届けることなく、まったく異なる新しい建築、カリフォルニア住宅に身を転じます。「旧帝国ホテル」は、開花期のプレーリー住宅からの脱皮を志向してきた終焉作として、ライト建築の転機となった作品であると理解できます。 
第4期のタリアセン・イーストでの「ブロードエーカー・シティ構想」は、20世紀の3大都市計画理念として評価されています。しかしライトの主意は、世界の主要都市で起きていた一極集中型の都市計画の弊害を回避する提案でした。都市機能の分散(小さな政府)、自給自足、第一次産業基盤、自然環境の保全・保護・整備、教育を重視した革新アメリカ社会の提唱だったのです。 
 アメリカ中産階級の住宅を対象としたユソニアン住宅は、アメリカ建築文化創生として、究極的には個々が建設できる住宅建設を推奨、提唱したものでした。
早川 佳孝(はやかわ・よしたか)
富田商事株式会社企画・デザイン部 建築意匠参与