荒川区景観まちづくりセミナーと、まちづくり塾
荒川支部
八尾 昭(荒川区景観まちづくり推進委員会委員、株式会社増田設計、東京都建築士事務所協会荒川支部)
「荒川区景観まちづくりセミナー」での篠原修氏の講演。(写真提供:荒川区)
「荒川区景観まちづくりセミナー」会場。約50人が参加した。(写真提供:荒川区)
荒川区景観計画と荒川区景観まちづくり推進委員会
 荒川区は、平成21(2009)年7月に「荒川区景観計画」の策定に着手して、平成23(2011)年5月に「景観行政団体」となり、平成24(2012)年3月に「荒川区景観計画」が完成した。
 区は計画の目標である「新しい息吹のなかにも下町らしい雰囲気のつたわる風景をつくる」を実現するため、事前協議や届出制度など、さまざまな取り組みを始めたが、その一方で、平成24(2012)年6月には公募によって区民が中心となる「荒川区景観まちづくり推進委員会」が発足し、活動を開始した。筆者もこれに応募し、平成25(2013)年度から委員として活動している。
 荒川区らしい魅力的な景観を次世代につなぐための維持保全活動や、美しい景観創造活動を進め、広めていくには、区民や区内業者が景観への意識を高め、実践していくことが欠かせない。委員会はその手助けをして啓蒙・啓発することを目標としている。
 委員会は、常時6〜10人の委員が月1〜2度会議を開き、活動方針を決めて、区内のまちあるき、他区の関係者との交流、機関誌の発行などの活動をしてきた。区民の景観に対する関心を高めることを目的に、「あらかわ百景」の募集や、「あらかわの風景資産」選定などの企画を立てたが、いずれも実現せず、どういうかたちで区民に景観を理解してもらうか、手探りしながら総じて地味な活動に終始してきた。
荒川区景観まちづくりセミナー開催
 荒川区は区内の約60%が木造密集市街地であることから、「防災」に特に力を入れており、東京都の「不燃化特区」の指定を受けて建物の不燃化を進め、木造住宅の耐震性の強化を図ることを重要項目としている。一方、景観の立場からは、「荒川区景観計画」において定めた目標に沿ったまちづくりを目指している。このふたつの正反対とも見える目標を同時に解決するのは非常に難しい課題である。
 このことがあって、委員会の活動も方向性を見出しにくくなっていた。そこで、この問題をもっと広範な人たちで考え、行動するために、セミナーを開催して、この方面に詳しい方の講演と、実務面の勉強をするための塾の開催を企画することになった。
 「景観まちづくりセミナー」は、平成28(2016)年3月25日に荒川区町屋にある「ムーブ町屋内ムーブホール」で開かれた。当日は区外からの参加者もあり、約50人が参加した。
 第1部は、篠原修東京大学名誉教授を講師に迎え、「『防災』には『景観』が不可欠の相方である」というテーマで講演をお願いした。
 以下のような話をうかがった。
1)防災施設(人工構造物)は、単機能ではだめ。景観もしかり。自然や人間は多機能である。
2)防災や景観は、人々の関心が少ない、合意を形成するのが難しい、といった難しさがある。これらふたつを別々に考えず、景観にもよいが、同時に防災上も機能を果たす、といったように、一緒に考えることが大切である。
3)防災には完全はない。防災対策は、フェイルセーフを考えておく必要がある。
そして、人の集まる場所、魅力的な場所、日常使われている場所に防災施設を造るのが有効であると話され、最後に、「さて、荒川区ではどうする?」という問いかけをされた。
荒川区景観まちづくり塾
 「荒川区景観まちづくりセミナー」の第2部は、「荒川区景観まちづくり塾」の案内をした。
 「景観まちづくり塾」は、荒川区らしい景観の形成を実現するため、新たな地域力向上の担い手の発掘と育成を目指して設置されるものである。平成28(2016)年6月下旬に開講し、月1回程度開催して、7回の講座を実施し、平成29(2017)年2月に終了する予定である。講座は、講義の他フィールドワークやワークショップも実施して、最後に成果の発表を行う。
 前述のセミナーでの篠原先生の問いかけは、われわれに進むべき方向性を示していると思う。問いかけに対する答えを見つけること、そしてその答えを実践すること。そのような活動を行う人材を発掘して、委員会と一緒に行動できる人たちを育てること。それが「景観まちづくり塾」を始める所以である。

 「景観まちづくり推進委員会」の本年度のテーマは、「『防災と景観』──下町の風情を残して安全をはかる」というものである。
 区民の安全・安心を守る「防災」と、下町らしい雰囲気のある「景観」を両輪で進めていく「まちづくり」。これは、時間と労力を必要とする活動である。そして活動を支える人たちが不可欠である。志のある人びとと活動を続けて一歩ずつ進んで行けば、防災を考えながらも景観を生かしたまちづくりが実現することを確信している。
八尾 昭(やお・あきら)
荒川区景観審議会委員、荒川区景観まちづくり推進委員会委員、東京都建築士事務所協会荒川支部 支部監事
1940年生まれ/1965年 明治大学工学部建築学科卒業後、(株)早川正夫建築設計事務所入所/1972年 増田建築設計事務所(現、(株)増田設計)入所、現在に至る