上野の山のモダニズム建築探訪
台東支部|令和5(2023)年11月19日(日)@上野
大原 正昭(東京都建築士事務所協会台東支部、大原建築設計事務所)
 台東支部によるまちあるき研修第2回目として「上野の山のモダニズム建築」を探訪する企画に参加した。11月19日(日)の秋晴れの気候に恵まれ、気持ちも浮き浮きだ。
 案内して下さる講師は、前回と同様の近代建築史家の大川三雄氏である。
東京文化会館前に集合。
東京文化会館ロビー。
東京文化会館(1961年)
 初めは集合場所にしていた前川國男の代表作、東京文化会館。先生曰く、丹下健三の「代々木屋内競技場」(1964年)と並び日本近代建築の金字塔であると熱く語られた。特にRC造の大庇が素晴らしく、その曲線美は女性の下唇をイメージした形状だと前川國男から聞いたとおっしゃっていた。また、パブリックなスペースには壁をつくらず自由に通り抜けできるような空間であることが重要ともいわれ、大小ホールのホワイエの配置にも見られるとのこと。床の磁器タイルの模様は落葉を連想したもので、目地割りに新人所員が1年間をかけたとも。まさしくわが国の代表的な音楽ホールの殿堂にふさわしい。
国立西洋美術館前庭。
吹き抜けた19世紀ホール。
国立西洋美術館(1961年)
 3人の日本の弟子たち(前川國男、坂倉順三、吉坂隆正)による実施設計とのこと。ル・コルビュジエからの原案は寸法が入ってなくたいへん苦労をしたそうだ。
 前庭の床目地の延長線上に東京文化会館のスチールサッシ方立が一致しているとお話があり、見てみると確かに同一線上にありビックリというか感心してしまった。
 中へ入るとまず天井に三角錐のトップライトと丸柱・梁が目に入る。展示室は自然光が入るようトップライトが設置されていて、絵画の展示が身近に感じる。また、中庭の景観がなんとも言えず素晴らしい。
東京都美術館のサンクン広場。
東京都美術館(1975年)
 前川國男の設計。上野の山の景観を考慮して地中に埋没させたデザインと配置になっているそうだ。そのためエスカレータで入口まで下りて行くようになっている。外壁は打ち込みタイルで近代的だ。2階がレストランとなっていて市民の憩いの場となっている。
奏楽堂外観。
奏楽堂(1890年、1987年移築)、旧京成電鉄・博物館動物園駅(1933年)
 さらに少し森の中を歩いて行くと奏楽堂に辿り着く。木造2階建ての桟瓦葺きで1988年に国の重要文化財に指定された建物。外観もさることながら中へ入ると古い木の香りとデザインの郷愁が迫ってくる。徳川家がイギリスから購入し、寄贈した日本最古のパイプオルガンと、音響に考慮したヴォールト天井を垣間見たり、移設・復元当時の資料を見ながら外へ出た。すると道路を渡った目の前に旧京成電鉄・博物館動物園駅が現れる。国会議事堂を彷彿させる段葺き屋根の西洋様式の駅舎で2004年に廃止となったのは残念だった。
黒田記念館エントランス。
黒田記念館2階の展示室。
黒田記念館(1928年)
 岡田信一郎の設計。イオニア式オーダーの列柱がデザインされスクラッチタイルの外観である。アーチ状の入口を入るとアールヌーボー風の階段手摺りが見える。天井の漆喰装飾や天窓状の照明(当初は自然採光)による黒田清輝の絵画の数々が素晴らしかった。
国際子ども図書館。
国際子ども図書館前で。
国際子ども図書館(1906年、2002年改修)
 最後に訪れたのが国際子ども図書館である。安藤忠雄が旧帝国図書館を改修したもので、ルネサンス様式の外壁にガラス製のボックスが角度を振って挿入されている。内部は円形の造作物が配されていて展示スペースを新たに増やしているそうだ。内外装とも極力当時の姿に復元するよう努力されたらしい。ガラスによって覆われた外壁は、間近に当時のデザインやディテールを見ることができ、勉強になった。
 上野の山はさまざまなモダニズム建築が集まっていて興味の尽きない場所だなと感慨にふけりつつ、「藝大アートプラザ」でお開きとなった。
大原 正昭(おおはら・まさあき)
東京都建築士事務所協会台東支部、大原建築設計事務所
1948年 東京神田生まれ/1970年 日本大学生産工学部建築工学科卒業後、(株)依田建築設計事務所/1976年 大原不動産株式会社一級建築士事務所/ 2022年 大原建築設計事務所設立