賛助会主催特別講演会と展示会
山田憲明講演会「木構造デザインの探求」|令和5(2023)年11月10日(金)@東京都建築士事務所協会&オンライン
関 和典(東京都建築士事務所協会賛助会代表、株式会社ゼットアールシー・ジャパン)
講演者の山田憲明氏(左)とナビゲーターの玉腰徹氏(右)。
会場風景。
 賛助会主催特別講演会をどうしたものかと、支部協力会員でもある千代田支部の副支部長、玉腰徹氏(司構造計画)に相談し、山田憲明先生(山田憲明構造設計事務所)をご紹介いただいた。木造にも造詣深い山田先生なら、SDGsとしてもタイムリーだと即断。山田先生からもふたつ返事のご快諾を得て、このプロジェクトがスタートしたのが凡そ半年前の2023(令和5)年5月だった。
 山田先生は、今年度の日本建築構造技術者協会のJSCA賞選考委員長をされていて、『日経アーキテクチュア』の昨年末の特集「編集部が選ぶ10大建築人2023」(2023年12月22日号)のおひとりというすごい方だ。
 講演会は、折しも協会本部隣の花園神社一の酉前夜祭の11月10日、本部会議室において、リアル参加約30名、オンライン約40名のご参加をいただき、午後3時、賛助会幹事三信通商(株)の望月秀将さんの開会宣言でスタートした。テーマは「木構造デザインの探求」。
講師紹介──増田一眞を師に
 まずは、ナビゲーターの玉腰徹氏から山田先生のプロフィールが紹介された。
 山田先生は1973(昭和48)年東京都生まれ。1997(平成9)年に京都大学工学部建築学科を卒業されるとすぐ、惜しくも2023(令和5)年1月に他界された増田一眞先生(1934–2023)主宰の増田建築構造事務所に入所された。増田先生は、名著の誉れ高い『建築構法の変革』(1998/平成10年)によって、すべての構造について、構法からの構造設計を啓蒙され続けた方でである。
 山田先生は入所数年で、間組の支援も得て木造半剛節ラーメン架構で構造安全性のセンター評定を受けた、大工棟梁と職人による伝統的木工法の木造四層天守閣の復元となる「大洲城」(2004/平成16年年竣工、愛媛県大洲市)の構造設計を担当。2011(平成23)年には第22回JSCA賞作品賞を「国際教養大学図書館棟」で受賞されている。2012(平成24)年に独立されて山田憲明構造設計事務所を設立。現在は著名な建築家や設計事務所と協働し、非木造・木造を問わず、数々の賞を受賞されている。
 ナビゲーターの玉腰氏からは、増田一眞先生の2005(平成17)年の松井源吾賞受賞をめぐる師匠と弟子の心温まる秘話も紹介され、最後に、JSCA機関誌『structure』最新号(No.168 10月号)への山田先生の寄稿「木構造設計のむずかしさとおもしろさ」を引いて、「木造ってむずかしいけど、だからこそおもしろい」をお聞かせ願いましょうの呼びかけで講演が始まった。
「素材」、「接合方法」、「かたち」
 まずは恩師増田一眞先生との関係と、代表的な担当作品である「国際教養大学中嶋記念図書館」や「大洲城天守閣」。独立してからの「本山寺五重塔」解体修理などのプロジェクトが紹介された。
 そして、日本の木造建築が、RC造や鉄骨造に比べて歴史性、地域性、多様性が特に強いとの説明があり、特に多様性についてはご自身で作成された関係図を用いて、すべての構造物は何らかの「素材」を使って、何らかの「接合方法」を用い、所望の「かたち」をつくっていることを説明。その時、性能やコストやつくり易さ、使い易さ、美しさ、地域性や環境などのさまざまな要件を組み合わせて最終的な「かたち」をつくるのだと。
ネットワークの大切さ
 そして、ここからが木造の奥深さでである。「素材」にはまず樹種があり、育った地域があり、育った年数があり、形状も丸太があり、製材があり、集成材があり、CLTがあり、またLVLのような面材もある。また、「接合方法」も原始的な縛るから始まり、木造でも中に鉄筋を挿入したもの、圧着の方法もいろいろある。また、ボルトや釘を使うことも。そして、日本古来の伝統的な嵌合という方法がいたるところで使われている。これらのいろいろな「接合方法」を用いてできる「かたち」も多種多様で、これこそが建築家の腕の見せどころとなるわけである。
 これらの「かたち」を「持続する木構造デザイン」とするために、たくさんの人の知恵を借りるためのネットワークを構築することもとても重要だと強調された。たとえば、地域の木材生産者、大工さんやプレカット工場などのファブリケーター、材料や防耐火、乾燥、耐久性などの専門家、あるいは、木材コーディネーターといわれる方々の持つネットワークなど、ひとりではできないこともこれらのたくさんの方々とのネットワークがあれば実現できる、木造のプロジェクトではそれが特に重要になってくるとのお話であった。
素材別事例の紹介
 その後、素材別、すなわち、①一般製材(例:「神山まるごと高専」、「大分県立武道スポーツセンター」)、②大径製材(例:「高床の家」、「山仁コーポレーション社屋」)、そして③丸太(例:「南小国町役場」、「上勝ゼロウエイストセンター」)を活かした構造デザインについて事例紹介が行われた。
 木造とはいえ、フレキシブルに鉄骨やボルトを使い、かつ、それらが見えないように、そしてその数をできるだけ減らすにはどういう構造デザインが望ましいのか、それはどのくらい難しいのか、どのように解決・実現していったのか、最終的にどういう「かたち」になったのか、それぞれの事例において詳しくご説明いただけた。いくつかの質疑を経てお開きとなり、本当にあっという間の90分であった。
聴講者からの感想
 以下会場の方々やネットでご視聴いただいた方々の感想の一部をご紹介する。
・とても素晴らしいご講演だった。接合部の構造的な合理性と施工性と意匠的な美しさを極めた総合的に深く考えた設計だなと思った。
・2023年1月に青年部会でこどもワークショップとして、2×4材を用いて子どもが実際に乗れる大きさのダヴィンチ橋の組立体験を開催したが、実際にこの構造で大規模空間をつくるなんて想像できない。
・同じ構造設計に携わる者として日々、マンネリのルーティンの仕事ではいけないと改めて思い直した。山田先生は「技術者である前に建築設計者であれ」の見本。
・もたれ合い構造や木組みの事例は長い間木造を探求されてきた方でなくては至れない境地のように感じた。
・木の構造の先生が、木の何を心配して、どんな手を打とうとしているのか、今後の自分のビジネスを進める上で、いろいろなヒントをいただいた。
・自分がつくったものが安全かどうか、それを心配しながら1年間も酒がまずいのはいかがなものか(笑)。
・「さて、どうしようかな?」とのコメントの裏には、難問に翻弄されている状況を心の底から面白がっている山田先生がいる気がする。
 最後に私の感想。「ゼロからイチをつくり出す」作業を地道に積み重ね、たくさんの引き出しを備えながら「常に新しいことに挑戦したい」という山田先生の心の底から湧き上がる情熱に本当に感動した。
 現在30くらいのプロジェクトが同時進行しているそうで、これからメディアから引っ張りだこになることだろう。早めに講演会を実現できて本当に良かった。より詳しく山田先生の作品を見たい方は、下記のホームページをご覧いただきたい。
https://www.ysd-office.com
展示会風景。
(撮影:筆者)
賛助会会員による展示会  講演に先立って行われた賛助会員による展示会には以下の15社に出展いただくことができた。
① (株)三菱地所住宅加工センター
② 日成ビルド工業株式会社
③ 株式会社ピアレックス・テクノロジーズ
④ 越井木材工業株式会社
⑤ 福井コンピュータアーキテクト株式会社
⑥ ビイック株式会社
⑦ 野原グループ(株)、(株)アークノハラ
⑧ (株)ゼットアールシー・ジャパン
⑨ (株)シブタニ
⑩ 山口産業株式会社
⑪ 株式会社タナカ
⑫ 株式会社日東製陶所
⑬ 株式会社ロンビックジャパン
⑭ 株式会社ニッコー
⑮ 株式会社地耐協
関 和典(せき・かずのり)
東京都建築士事務所協会賛助会代表、株式会社ゼットアールシー・ジャパン 代表取締役社長
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