豊島支部講演会「ウォーカブルなまちづくり」
豊島支部|令和5(2023)年11月22日(水)@豊島区民センター会議室404
加藤 恭子(松本エンジニアリング株式会社)
バルセロナのスーパーブロック──サステナブルでレジリエンスの高い都市変革の地図
https://www.barcelona.cat/pla-superilla-barcelona/mapa/ca/#a_0__&
 吉村有司東京大学先端科学技術研究センター特任准教授を講師に招き、「ウォーカブルなまちづくり~新領域ビックデータ利用の可能性について~」と題し、講演していただいた。吉村先生は2001(平成13)年よりスペインに渡り、バルセロナをはじめいくつもの「まちづくり」に携われた方である。会場はほぼ満席の盛況で、参加者の関心の高さがうかがえた。
ビッグデータと建築
 「建築においてビッグデータを活用する」とは、具体的にはどういったことなのか。たとえば、人や車、物の動きを通し都市を分析。その結果を建築や都市のデザインに反映しようというものだ。「直感」ではなく「科学的なデータ」に基づいた、新しいまちのつくり方だ。講演では多岐にわたる活用方法について、事例を挙げて解説していただいた。
「ウォーカブル」はまちづくりの鍵
 ひとつめの事例は、「歩いて楽しいまちづくり」を目指す「都市のスーパーブロックプロジェクト」だ。スーパーブロックはスケールを把握しやすい整形の9つのブロックを、ひとつの大きなブロック(街)と捉え直し、周囲を公共交通機関、内側の街路を歩行者優先とし、市内街路の60%の歩行者空間化を目指すものだ。モデルエリアに選ばれたバルセロナのグラシア地区は劇的に変わった。パブリックスペースが増え、人が寛ぐ空間ができ、空気汚染や騒音も減少され、街としての魅力度がアップされた。この手法もAIやビッグデータが活用され実証実験を経て生まれたものだ。「ウォーカブル」はまちづくりの鍵となる。歩いて楽しいまちは古今東西、魅力的だ。
日陰を探索するアプリ
 ふたつめの事例は、「緑視率のマッピング技術と日陰ルート探索アプリ」だ。
 簡単にいえば、「まちの日陰マップ」だ。気温が40℃に迫る真夏の午後、目的地まで日陰だけを選んで歩きたい。命の危険を感じる日本の夏での「ウォーカブルなまち」を考えたとき、このアプリは必須アイテムだ。ルート上の日陰を探索するアプリは、今までありそうでなかった。なぜなかったのか? それは街路のどこに日陰ができるのかが、わかっていなかったらだ。これをマンパワーでやるとコストも時間も膨大にかかる。そこでビッグデータとAIの登場だ。街路樹の情報はGoogleストリートビューより収集し、それらを画像解析技術を用いて樹木の情報をマッピングさせることで今までにない情報が得られる。新たな情報は、都市計画だけでなく、街の景観計画においても活用したいデータだ。“HIKAGE FINDER”は、Webサイトにアップされている。
多種多様な業種があるまちに
 3つめは、「ビッグデータを用いた都市多様性の定量分析手法」について。
 「都市」の「多様性」とは何か。ここでは都市の活気をつくり出すものとして「小売店」に着目した。その「数」と「種類(業種)」を軸に市民の消費動向のデータを加え定量分析を行った。同じ業種が集まるまちと、多種多様な業種があるまちではどちらの魅力度が高いかという問いに、答えは後者だった。「多様性」が私たちの生活に無関係ではないことがわかる。この結果は、シャッター商店街や街の空洞化などが問題となっている地方都市においてのまちづくりのヒントになりそうだ。
誰でも自由に使える地図をつくる
 最後は、「歩行者空間とオープンストリートマップ(以下OSM)」について。
 OSMは誰でも参加でき、誰でも自由に使える地図をつくるプロジェクトだ。「地図のウィキペディア」とも呼ばれるもので、街の膨大な情報を一元化ができる。プランナーは感覚的ではなく、多種多様なデータを用いた、より深みのある計画や構想が提案できるのだ。幅広い分野での活用が期待できるツールとなりそうだ。
若者が集うまちは可能性がある
 4つの例をあげ、AIとビッグデータの活用方法について話していただいた。先生は講演中、自らの立ち位置を「建築家である」ということを強調されていた。その言葉通り、データを活用する目線は、私たち建築に携わるものとして興味深いものであり、次にどのようなものが見られるのか期待が膨らむ。
 講演の後半は、参加者の「ウォーカブルは郊外にも当てはまるか」、「景観と売り上げの相関関係」、「ウォーカブルな街と荷捌きについて」、「店舗の看板有無と売り上げの関係性」などの質問に対し、具体的な例を挙げ回答いただいた。なかでも「池袋の今後について」を伺うと「若者が集うこのまちは可能性がある」と心強いひとこと。今後のまちづくりにいっそう力が入る。

■講師紹介
吉村 有司(よしむら・ゆうじ)
建築家、東京大学先端科学技術研究センター特任准教授 1977年 愛知県生まれ/2001年よりバルセロナ在住。バルセロナをはじめ数々のまちづくりに携わる/2019年より現職
加藤 恭子(かとう・きょうこ)
東京都建築士事務所協会豊島支部副支部長、支部編集委員 1968年 埼玉県生まれ/2005年 松本エンジニアリング株式会社入社、プラント建屋内構造物設計に従事