関東大震災100年
あと施工アンカーの活用
藤村 勝(東京都建築安全支援協会管理建築士)
 脱炭素と持続可能な社会を目指す時代を迎え、建物の機能性、耐久性、安全性向上を図るための改修・補強工事のニーズが増大しており、これらの工事にはあと施工アンカーの活用が必須となります。一昨年(2022/令和4年)、平成13年国土交通省告示第1024号が改正され、あと施工アンカーを構造躯体の接合に用いることを許容する道が開かれましたが、あと施工アンカーの性能は施工品質の影響を大きく受けるため、以下に紹介する指針に基づき適切に設計および管理することが重要です。

表① あと施工アンカーの利用と歴史
図❶ 旧来のあと施工アンカー形式
表② あと施工アンカーの使用例
あと施工アンカーの利用と歴史
 あと施工アンカーは表①にまとめるように、金属系アンカーが旧くに考案され1950年代には建設現場で使用されるようになり、1960年代には設備機器、看板などの固定に用いられてきたといわれています。旧来のあと施工アンカーの形式は図❶に示す型抜き工法、金属系アンカー、接着系アンカーがあり、型抜き工法は大型設備機器の固定用に用いられ、接着系アンカーは1970年代から使われるようになりました。
 1977(昭和52)年に日本建築防災協会から、耐震補強を対象に『既存鉄筋コンクリート造建築物の耐震改修設計指針』(以下、耐震改修指針)が発刊され、あと施工アンカーの設計と施工法が規定されました。2006(平成18)年には構造計算の偽装問題への対応に用いられた「あと施工アンカー・連続繊維補強設計・施工指針」(以下あと施工アンカー指針)が策定され、2022(令和4)年には「接着系あと施工アンカー強度指定申請ガイドライン」(以下、強度指定ガイドライン)が日本建築防災協会から公表されました。しかしながら、現在でもあと施工アンカーの利用は表②に示すように建築物の非構造部材や設備機器の取り付けなどの限定的な利用にとどまっています。

表③ あと施工アンカーに係わる設計指針等
設計指針の適用範囲
 「耐震改修指針」、「あと施工アンカー指針」、「強度指定ガイドライン」の適用範囲などを比較して表③にまとめます。それぞれの指針で、対象とする工事、コンクリート強度の範囲、あと施工アンカーの種類、対象とする工法、許容応力度の種類などが異なります。

図❷ 使用するあと施工アンカー
耐震改修指針
 「耐震改修指針」は1968(昭和43)年十勝沖地震で被災した建物の補強などに用いられた技術を踏まえてまとめられた指針であり、当初は金属系のあと施工アンカーを主として対象としていましたが、現在は堀込みが深い接着系アンカーを用いることが主流となっています。耐震補強に用いるために作成され、本指針で規定するあと施工アンカーは増設壁や鉄骨ブレースおよび袖壁などを既存躯体に接合するために幅広く用いられ、対象とする構造体のコンクリート強度は一対の基準となっている耐震診断基準と同様に135kg/cm2以上とされています。この指針に係わり多数の実験が行われており、100kg/cm2を下回る低強度コンクリートに対する研究も行われ、耐震補強以外の幅広い改修工事にも準用されています。
 本指針が対象としているあと施工アンカーは、図❷において、四角で括って示したあと施工アンカーで、金属系アンカーでは本体打ち込み式の改良型、接着系アンカーではカプセル方式の回転・打撃型、有機系アンカーとしています。これ以外のあと施工アンカーを用いる場合には、設計者が性能確認試験などによりアンカーの強度、剛性、靭性などを確認した上で用いることとされています。本指針は大地震時の地震力を対象としており、終局強度が規定されています。

図❸ 金属系アンカー
図❹ 接着系アンカー
あと施工アンカー指針
 「あと施工アンカー指針」の対象は接着系あと施工アンカーと金属系アンカーで、対象とするコンクリート強度は18.0N/mm2以上、対象とする工法は増設壁補強と枠付き鉄骨ブレース補強に限られています。「耐震改修指針」と同様に、金属系アンカーでは本体打ち込み型のアンカーを対象とし、接着系アンカーでは回転・打撃を加えて施工するカプセル方式のアンカーを対象としています。使用にあたっては、あと施工アンカーの許容応力度および材料強度について、国交大臣の指定を受ける必要があります。設計強度は「耐震改修指針」と同様の式で規定されていますが、短期許容耐力が追加されている他、深い埋込み長さが求められています。

強度指定ガイドライン
 本ガイドラインは、前述のふたつの指針が既存建物のみを対象としていることと異なり、既存建物に加えて規模の小さい新築建物での使用も想定しています。また、対象としているあと施工アンカーは、カートリッジ注入方式の接着系あと施工アンカーに限定しています。あと施工アンカーの許容応力度は長期、短期、終局を対象としていますが、設計にあたっては本ガイドラインに基づく実大実験を行い、評価機関による評定を受けた後、国交大臣の強度指定を受ける必要がります。新築での構造部材への適用については、接合する構造耐力上主要な部分である部材の規模が小さく、当該あと施工アンカーが抜け出す等の不測の事態が生じたとしても、取り付けた部材が直ちに危険な状態にならないもの、またはこれまでにあと施工アンカーを用いて広く使用された実績があるものとされています。

図❺ 外付け補強による中間階耐震改修
図❻ 床スラブの改修
まとめ
 一昨年の告示改正により、あと施工アンカーの適用範囲が表③に示すように拡大し、強度指定申請を行えば常時(長期)応力が作用する部位にも使用が可能となりました。しかしながら、強度指定申請には強度実験を行い評価機関の審査を受ける必要があり、一般の設計者では対応が難しいのが現状です。このため、現状では常時応力をあと施工アンカーに負担させることができないため、常時応力が作用する部位でのあと施工アンカーは工夫したディテールで施工する必要があります。
 図❺に示す外付け補強による中間階耐震改修では、既存柱と補強柱をあと施工アンカーで一本化しますが、両柱間の接合部には補強架構の自重による常時のせん断力が生じるため、既存柱のフープ筋をはつり出して補強柱のフープ筋と現場溶接で接合し、あと施工アンカーに頼ることなく作用せん断力を鉄筋に負担させています。一方、図❻は床スラブの増設例で、新設スラブの周辺の大梁にあと施工アンカーを打設して既存スラブと一体化していますが、常時の床荷重は大梁端部に段差を設け、この部分のコンクリートであと施工アンカーに頼ることなく、常時の鉛直力を負担させています。いずれのディテールも参考事例で、あと施工アンカーの採用に当たっては必要に応じて特定行政庁と協議するなど、適切な手続きを行う必要があります。
藤村 勝(ふじむら・まさる)
東京都建築建築安全支援協会管理建築士 1949年 長野県生まれ/1972年 日本大学理工学部建築学科卒業後、竹中工務店東京本店設計部入社/現在、東京都建築安全支援協会管理建築士