社労士豆知識 第62回
知っておきたい年金制度の法改正①──受け取っている人も、これから受け取る人も
小室 由利(小室社会保険労務士事務所)

 日本には2,000を超える法律があるといわれており、法律の改正があるたびに逐一目を通しチェックするのはたいへんです。年金に関する法律は改正が多く、内容が難しいため、なかなか理解できないという方も多いです。今回は2回に分けて令和4(2022)年、令和5(2023)年に法改正された年金制度のポイントを解説します。

年金手帳交付の廃止
 令和4(2022)年4月以降、被保険者資格の取得手続きをとり初めて年金制度に加入する方には、これまでの年金手帳に代わり「基礎年金番号通知書」が発行されることとなりました。
 すでに年金手帳をお持ちの方には「基礎年金番号通知書」は発行されませんので、引き続き年金手帳を保管してください。今後、年金手帳を紛失された方が再発行を希望する場合は、年金手帳は再発行されず「基礎年金番号通知書」が発行されます。
65歳以上70歳未満の厚生年金被保険者に対する定時改定制度の導入
 これまで65歳を過ぎた厚生年金被保険者で、かつ老齢厚生年金を受給している方の金額改定は資格喪失時(退職時または70歳到達時)のみとされてきました。令和4(2022)年4月の法改正からは、就業を継続したことの効果を退職を待たずに年金額に反映するために、年1回一定の時期に年金額を改定することになりました。
 毎年9月1日の基準日において、厚生年金の被保険者である老齢厚生年金の受給権者の年金額について前年9月~当年8月までの被保険者期間を参入し、基準日の翌月分(10月分)から年金額を改定します。
 この措置の対象となるのは65歳以上70歳未満の方に限られ、10月分からの改定は12月定期支払分からの金額に反映されます。
繰り上げ請求時の減額率の改定
 60歳を過ぎた方が、本来の年金受給権発生時期よりも前に老齢年金を請求することを「繰り上げ請求」といいます。男性で昭和36(1961)年4月2日以降、女性で昭和41(1966)年4月2日以降に生まれた方は、65歳が本来の受給権発生時期となります(※1)。
 上記以前に生まれた方で厚生年金の加入期間が12カ月以上ある方は、65歳前に「特別支給の老齢厚生年金」の受給権が発生します(※2)。「特別支給の老齢厚生年金」の受給開始年齢はその方の性別と生年月日に応じて異なります(※3)。
 繰り上げ請求をすると、本来の受給開始日までの月数に繰り下げ減額率(%)を乗じた年金額が減額されることになります。この減額率はひと月については0.5%でしたが、法改正後は0.4%になりました。ただし、改正後の減額率が適用されるのは男女とも昭和37(1962)年4月2日以降に生まれた方です。昭和37年4月1日以前に生まれた方は、引き続き減額率0.5%が適用されます。
 たとえば、昭和38(1963)年5月26日に生まれた男性は、本来の年金の受給権が発生するのは65歳ですが、63歳2カ月で繰り上げ請求すると、本来の受給権発生より22カ月早くもらうことになりますので、法改正後は[0.4%×22カ月=8.8%]が減額となった年金を受け取ることになります。
 繰り上げ受給せず65歳からもらった場合の年金額を100%とすると[100%-8.8%=91.2%]となります。繰り上げしなかった場合の額の91.2%の年金となり、減額率は生涯変わりません。
 年金の繰り上げ受給は、早く年金がもらえるというメリットがある反面、取り消すことができない、国民年金の任意加入や保険料の追納などができなくななど、デメリットがいくつかありますので、繰り上げ請求をする前には、一度年金事務所等でご相談の上、納得して手続きをされるのがよいかと思います。
※1、※2:平成29(2017)年8月以降は、老齢年金を受給するのに必要な資格期間(保険料納付済み期間と保険料免除期間などを合算した期間)が25年から10年以上に短縮されています。

※3:「特別支給の老齢厚生年金」の受給権発生年齢等の詳細は日本年金機構のホームページでも確認できます。
https://www.nenkin.go.jp/service/jukyu/roureinenkin/jukyu-yoken/20140421-02.html
小室 由利(こむろ・ゆり)
社会保険労務士、第一種衛生管理者
11967年 生まれ/1989年 文系大学卒業後、新幹線等の列車内サービス業務関連の企業で20年以上勤務/2012年 台東区内に小室社会保険労務士事務所を開業/労務顧問、年金相談業務を中心に業務を行っている
カテゴリー:建築法規 / 行政
タグ:社労士