社労士豆知識 第60回
従業員が病気で長期欠勤!? 休職制度を就業規則に盛り込みましょう!
佐々木 隆(佐々木社会保険労務士事務所所長)
 会社で働く従業員が、業務災害(いわゆる労災)と呼ばれる事故で会社を休業せざるを得ない場合は、事業主は従業員に対して休業補償や医療補償等を行わなければなりません。ただし、事業主は労災保険に強制加入していますから、労災保険がこれらの補償を事業主の代わりに行うことになります。
私傷病で休業する場合は
 しかしながら、従業員が自分自身で起こした事故や病気(以下「私傷病」)で休業する場合は、年次有給休暇を消化するか欠勤扱いとなり、事業主には当然のことながら賃金や医療の補償責任はありません。
 では、これが長期に及ぶ場合にはどうなるのでしょうか。年次有給休暇が残っているのであれば、従業員の権利により賃金を控除されずに休むことができますが、そうでない場合には長期間の欠勤が続くことになるわけです。事業主と従業員は労働契約という契約のもとに賃金の支払いと労働の提供を行います。しかし、欠勤が続くということは、従業員が労働の提供ができない債務不履行状態が続くということになり、契約違反となるわけです。
 よく勘違いされるのですが、「病気や事故なんだからしょうがいじゃないか」という言葉を耳にしますが、労働契約にとって従業員の私傷病による欠勤は、原則として契約違反のペナルティになります。話を戻しますが、この契約違反が続くことになるとどうなるでしょうか。一般的に会社の就業規則には解雇要件が列記されており、その中に「精神的又は肉体的障害及び病気により、職務を全うすることができないと会社が判断したとき。」といった条文が記載されています。事業主はこれに従い解雇を行うことになります。
 ただし、いざ解雇となった場合に従業員がそれを不服として訴訟を起こした場合はどうなるのでしょうか。ご存知のとおり、日本は解雇が難しい国といわれており、労働者保護が強い法律となっております。裁判所は、事業主が解雇を行うにあたり、それ相応の理由や根拠を求めてきます。就業規則に記載されているだけでは認められないことも多々あるのです。
休職制度とは
 休職制度というのをご存知でしょうか。休職制度は従業員が私傷病で会社を長期休業する場合に、事業主が業務命令として従業員の欠勤を一定期間認める制度です。休職制度は労働基準法で定められたものではなく、事業主が任意に決められるものです。よって強制的な制度ではないのです。
 しかし、この休職制度がないということになると、事業主は解雇という選択肢をいきなり行使しなければならない場合に陥る可能性があります。
 では、休職制度がある場合はどのようなメリットがあるかというと、①従業員の私傷病による長期欠勤を寛容する姿勢がある、②休職制度により私傷病の治癒が行え職場復帰につながる、③仮に休職期間満了までに治癒できない場合は就業規則により自己都合退職と定めて退職をすることになる、④訴訟の際に休職制度を適用しても復帰できなかったといった緩衝材的な役割りになる、などといったことが挙げられます。
 逆に事業主にとって負担になる可能性があるとすると、①休職期間中の社会保険料は免除にならない、②長期の従業員不在を他の社員で回していかなければならない、③休職期間満了時に従業員が滑り込み復帰したにも関わらず実は治癒していなかった、などのトラブル等が考えられます。
 しかし、休職制度があると、入社時に従業員へ休職制度の説明をすることにより、従業員が安心した職場生活を送れる要因となり、仮に休職になった場合でも、その間に治癒できなかった場合は自己都合退職である旨を最初から理解して就労してもらうので、後々のトラブルも未然に防ぐことができます。
健康保険による傷病手当金
 事業主が休職発令を行い、従業員が医師の「労務不能」という診断書をもらうと、健康保険に加入している従業員は、傷病手当金の申請が可能になります。傷病手当金についての詳細はここでは割愛しますが、傷病手当金は最長で1年6カ月間、標準報酬日額の約2/3が、休んだ分だけ支給されます。
 最近はうつ病などの精神疾患が急増しており、治癒するまでに相当の時間を要するものが少なくないです。精神疾患者は、たいていの場合休職期間が終了しても治癒できないケースが多いのですが、傷病手当金は会社を退職した後も支給できる(退職まで1年以上勤務していたこと等が条件)ので、意外とすんなり退職を選択することが多いです。
 仮に就業規則に休職制度自体がなかったり、制度はあるものの、休職期間が最長で1年半以上になっているなど非現実的なものである場合は、ぜひ就業規則の見直しをかけてみることをお勧めします。
佐々木 隆(ささき・りゅう)
社会保険労務士、佐々木社会保険労務士事務所所長
1970年東京生まれ/血液型:O型/趣味:海釣り(アオリイカ、ヒラメ、マダイ、鬼カサゴ、シロキス、カワハギ)、野球、水泳
カテゴリー:建築法規 / 行政
タグ:社労士