熊本で4支部合同講習会開催──『熊本地震仮設住宅はじめて物語』と熊本地震前後の住宅耐震化の現状
江戸川・墨田・江東・足立支部|令和4(2022)年10月1日(土)@熊本
小嶌 哲(東京都建築士事務所協会江戸川支部副支部長、小嶌建築設計事務所)
講師の田邊肇さん(右)と松野秀利さん(左)。(撮影:筆者)
主催者あいさつ。
4支部の講習会参加者。
質疑応答。
 第44回建築士事務所全国大会(熊本大会)の開催に合わせ、10月1日、熊本市内で江戸川・墨田・江東・足立の4支部合同による講習会が開催された。
 講師は、(一財)熊本県建築住宅センターの田邊肇専務理事と、同センターで耐震診断士派遣業務に携わる松野秀利さんのおふたりにお願いした。熊本地震発生当時、田邊さんは熊本県土木部建築住宅局長として事後対策の陣頭指揮をとられた方であり、松野さんは当時、熊本県建築課の審議員(課長補佐)で、その後2年間建築課長を務められた。
 前日に行われた伊東豊雄さんによる大会の基調講演も興味深いものだった。伊東さんは「くまもとアートポリス」のコミッショナーを務められており、平成28(2016)年4月16日の地震発生直後の回想から始まる講演に聞き入った。
RC基礎の仮設住宅と「みんなの家」
 応急仮設住宅団地の配置計画等を含め伊東コミッショナーに助言をいただき「みんなの家」のある応急仮設住宅づくりを進めるという蒲島熊本県知事からの発表は、地震発生から2週間後のことであった。当事者としては用地選定なども不徹底の状態からのスタートであったが、知事から全職員に告げられた「痛みの最小化・創造的な復興・熊本の更なる発展につなげる」という復旧・復興の三原則を念頭に物事の決断を推進することができたという。
 取り組んだ応急仮設住宅はその特徴として、①全体4,303戸のうち地元工務店による683戸を、鉄筋コンクリート基礎による木造仮設住宅として整備したこと、②110の応急仮設住宅団地のすべてをゆとりと触れ合いのある配置計画としたこと、③応急仮設住宅団地の集会所・談話室は95棟すべてを木造の「みんなの家」としてつくることができたこと、④応急仮設住宅団地の中に「くまもと型復興住宅」のモデル住宅を3棟展示したことが挙げられる。
 通常の応急仮設住宅は仮設建築物許可期限の2年間で役目を終えるので、基礎には木杭が用いられ、鉄筋コンクリート基礎はあり得ない。だが、被災者全員が期限内で退去できるわけではなく、2年を超えて住み続けることを余儀なくされることが想定された。頻発する余震と被災住宅の多さから、建築基準法に規定された鉄筋コンクリート基礎が可能との回答を問い合わせていた内閣府から得て、木造仮設住宅は建築基準法に適合する鉄筋コンクリート基礎の採用が決断された。一方、プレハブの仮設住宅はスピードを優先して木杭等の採用となり、その選択については各被災地の首長に委ねられることとなった。
 仮設住宅の建設に向けて、震災直後の4月27日に伊東豊雄さんが来県し、応急仮設住宅団地の配置計画への助言をいただき、応急仮設住宅と「みんなの家」の整備方針の取りまとめにかかった。伊東さんから、「熊本のためにできるだけのことをやります」との力強い言葉をいただき、結果として例外なくすべての応急仮設住宅団地に「規格型みんなの家」(76棟)と住民参加型の設計による「本格型みんなの家」(8棟)が完成し、そこに住民の方々が集まることによって新たなコミュニティが生まれることとなった。
 「みんなの家」は95棟(うち災害救助法で 84 棟)が建設されたが、住まいの再建が進む中、応急仮設住宅団地の閉鎖に伴って「みんなの家」は当初の役割を終えることとなる。「みんなの家」の移築等による利活用状況は、現時点で45プロジェクトが完了している。来年までにさらに50プロジェクトを実行し、すべての「みんなの家」が再利用されることとなる。
 また木造仮設住宅のリユースの状況は、31団地683戸のうち、現地活用でそのまま残したものが18団地300戸、8団地231戸が移設再利用された。解体に至ったものが151戸で、かなり有効に活用されたのではないかと思う。
熊本地震前後の住宅耐震化の現状
 熊本地震前後の住宅耐震化の現状は、震災前の平成27(2015)年で79%で、震災後の平成30(2018)年の調査では86%となっている。この数値の上昇については耐震化というよりは被災により建替えが需要が前倒しされたためと推測される。
 震災前後の耐震診断等の補助制度の状況については、県内45市町村のうち耐震診断補助制度のある市町村は24→39、改修設計補助制度のある市町村は5→45、耐震改修補助制度のある市町村は17→45といずれも増加し、熊本県内でほぼ整備されている。ただ被害の甚大であった益城町・西原村・南阿蘇村は震災前にいずれの補助制度もなかったとのことである。
 2000年問題(新耐震基準:グレーゾーン期の昭和56/1981年6月から平成12/2000年5月までに建てられた木造2階建住宅)に着目した集計方法では、1.0未満の評点だったものが、昭和56(1981)年5月以前建築では677件/694件で97.5%、昭和56(1981)年6月~平成12(2000)年5月建築では381件/419件で90.9%、平成12(2000)年6月以降建築では42件/72件で58.3%である。新耐震基準でも数値が芳しくないのは、上部構造評点の老朽化低減比率について、熊本地震で被災し不具合があれば低減率を乗じて算定していることが一因であると考えらえる。
 震災後の平成29(2017)年から令和3(2021)年までの熊本県の耐震診断等補助制度の活用状況は、年次ごとではいずれにおいても右肩下がりで減少傾向にある。進まない耐震改修に対して(一財)熊本県建築住宅センターでは耐震対策講演会を実施し、その映像をYouTubeチャンネル「建築住宅センターちゃんねる」を開設して配信しているとのことであった。

 誌面の関係ですべての内容を網羅できず単純に比較することは難しいが、都内での震災発生を想定した場合は、熊本地震のようにゆとりのある仮設住宅をつくることは実質不可能であり、現存する建築物の耐震化が減災に大きく寄与することを強く実感することができた講習会であった。
 ご多忙中にもかかわらず快く講師をお引き受けいただいた田邉様、松野様ならびに開催にご尽力された2000年問題WGの青谷懿さんに感謝を申し上げます。
 講習会に使用された解説書の『熊本地震仮設住宅はじめて物語』は下記URLの「熊本災害デジタルアーカイブ」に掲載されいる。
https://www.kumamoto-archive.jp/post/58-99991jl0003qvn
小嶌 哲(こじま・さとし)
東京都建築士事務所協会江戸川支部副支部長、小嶌建築設計事務所
1964年 千葉県生まれ/1987年 東海大学海洋学部海洋土木工学科卒業/住宅メーカ-・建設コンサルタント会社を経て2016年 小嶌建築設計事務所設立