社労士豆知識 第58回
カスタマーハラスメント
小島 信一(小島経営労務事務所)
お客様は神様ではない
 「お客様は神様です」という言葉があります。これは、1961年に演歌歌手の三波春夫さんが漫画家の宮尾たか志さんとの会話の中で生まれた言葉とされています。ただ、この言葉、真意は「お客様を歌によって、芸によって喜ばせたい想いが込められていて、そのために余計な考えを捨てて真っ白な心にする必要があり、それはあたかも神様に祈るような姿勢」だと、このような意味だそうです。
 一般に、この言葉、意味をはき違え、お客は何をしても許される、のように解釈され、上から目線で、かつ横柄な態度で建築事務所にクレームをつけてくるお客様がいるかもしれません。
 クセの強いお客様を相手にしたため、職員がメンタル不調になってしまい、結果、退職という事態は避けたいものです。常軌を逸した顧客の言動をカスタマーハラスメント(以下「カスハラ」という)といい、企業はカスハラから職員を守ることが求められます。広い意味での労働契約法上の安全配慮義務といえます。
カスタマーハラスメント(カスハラ)の定義
 顧客からのクレーム・苦情はそれ自体問題とはいえず、業務改善や新たな商品・サービス開発につながるものもあるため、どこからがカスハラに該当するのか、をまずは認識しましょう。厚生労働省からの指針によると……、

顧客等からのクレーム・言動のうち、当該クレーム・言動の要求の内容の妥当性に照らして、当該要求を実現するための手段・態様が社会通念上不相当なものであって、当該手段・態様により、労働者の就業環境が害されるもの

と定義されていますので、たとえばできるだけ安い建材で建ててくれ、と注文しておきながら、完成した後に音が響くから全部補修しろ、などという無茶な要求は、カスハラに該当する可能性があります。他にも土下座をして謝れ、とか繰り返しクレームを言う、などもカスハラです。
カスハラ対策の基本
 クレーム初期対応については、まずは誠意ある対応をしつつ、状況を正確に把握し、事実認定をします。ただし、顧客から暴力行為やセクハラ行為を受けた場合は、会社として複数名で対応する体制に切り替え、場合によっては警察に通報します。クレーム初期の対応はその後の成否を左右しますので、迅速な対応が求められます。
 なお、シーン別の留意ポイントは次の通りです。
【現場対応】
・相手が感情的になっていても、丁寧な話し方で冷静に対応し、よく話を聴く。また、言葉遣いに注意し、専門用語は極力避ける。
・極力議論は避け、問題を解決しようとする前向きの姿勢を感じさせる。
【電話対応】
・基本的には第一受信者が責任を持ち、たらい回しにしない。
・顧客の発言と齟齬が出ないよう、メモを取りながら話を聴き、復唱して確認する。
・対応できることと、できないことをはっきりさせ、相手に過大な期待を抱かせない。
【訪問対応】
・冷静になりにくい時間帯(早朝や夜間)は避ける。
・喫茶店など周囲から聞かれる場所や決められた場所以外には行かない。
・まずは相手の言い分を聞くだけにする。
・できるだけふたりで行く(ひとりでは対応させない、多人数も控える)。
小島 信一(こじま・しんいち)
小島経営労務事務所所長、社会保険労務士※1968年 静岡市生まれ/1991年 常葉学園大学卒業/2007 年 台東区で小島経営労務事務所設立/ 2010 年 事務所を東上野に移転
カテゴリー:建築法規 / 行政
タグ:社労士