社労士豆知識 第56回
意外と知らない国民年金の制度とメリット
宮崎 裕馬(神楽社会保険労務士事務所)
 「年金制度」と聞くと、「いまいち信用できない」、「どうせ自分が老後になる頃にはもらえない」と考えている方も少なからずいらっしゃるのではないでしょうか。その考えはさておき、まずは制度内容を確認していきましょう。
 国民年金はその名のとおり国民全員が加入する「基礎年金」です。よく似た言葉で厚生年金がありますが、こちらは「被用者年金」で、会社の勤労者のための制度で保険料は給与天引き、かつその保険料で国民年金も払ったことになります。そのため2階建て年金とも呼ばれますが、今回は厚生年金の話は割愛します。
 国民年金保険料の納付義務者(第1号被保険者)は、上記の勤労者が加入する厚生年金の対象者(第2号被保険者)以外、つまり20~60歳の自営業者、学生などです。勤労者の扶養配偶者(専業主婦等)は直接納付しなくても間接的に保険料を払ったことになります(第3号被保険者)。
 この国民年金保険料の納付率が近年上昇しているのはご存じでしょうか。老後資金の問題などで奇しくも国民のマネーリテラシーが少なからず向上し、「年金制度、意外とメリットあるかも」と考える方が多くなったからではないかと推察されます。ではその「メリット」とは何でしょうか。
物価変動する国民年金
 国民年金保険料は月額17,000円(賃金・物価により変動有)、これを40年間納付すると816万円。65歳から受け取れる年金は年額780,900円(賃金・物価により変動有り)。約10年でコスト回収でき、後はずっとプラスになります。
 物価により将来の年金が変動されることが意外と見落とされるメリットのひとつで、「年金なんか払うよりも自分で積み立てた方がいい!」という人はこの物価変動を加味していないと考えられます(ちなみに昭和49/1974年の山手線初乗り30円、タクシー初乗り220円。せっかく積み立てても40年後には貯金額が実質目減りすることもあります)。民間保険会社も個人終身年金の商品もありますが、この物価変動は非対応なものが多いです。
 このような手厚い制度を国民が納付する保険料だけで維持することは難しく、もらえる年金額の半分は税金で賄われており、見方を変えれば保険料を納付せずに年金を受給できない人は税金を取り戻すチャンスを逃しているともいえます。
障害を負ってしまった時にも受給できる
 「年金」と言うと老後の資金を思い浮かべる方が多いですが、健康を害し障害を負ってしまった時にも受給できます。これも個人年金にはないメリットです。障害というと「手足が不自由になった」などが考えられますが、精神障害(うつ病等)、内部障害(心疾患、糖尿病、がん等)も対象で、先述の厚生年金の対象者は年金を受給できる障害の範囲・程度がより広くなります。
遺族年金の支給
 もうひとつ、自分が現役の時に死亡した場合には遺族年金が支給されます。18歳未満の子がいるときだけですが、これもある意味、自分の死亡保障と考えることができます。ちなみに厚生年金の場合は子が18歳以上でも妻が受給できます。勤労者のための年金の方が充実していることがわかりますね。
 簡単に年金制度の仕組みをご説明しましたが、「意外と悪くない」と思った方もいらっしゃるのではないでしょうか。そんな方におすすめなのが、もらえる年金額を増やすことができる「付加年金」という制度です。
付加保険料は2年でコスト回収
 毎月400円の「付加保険料」を毎月の国民年金保険料に上乗せして納付するものです。将来もらえる年金額が「200円×納付月数」増えます(物価変動無し)。たとえば40年間納付すると192,000円で、将来上乗せ分は年間96,000円。2年間でコスト回収でき、後は亡くなるまでずっと上乗せされるのでプラスです。これは厚生年金にはない制度で、市・区役所で用紙1枚で申し込みできます。
 いかがでしたでしょうか。年金と聞くとネガティブな意見がネット上でも溢れていますが、払うだけのメリットも十分ある事がお分かりいただけたと思います。
 政府も制度維持のために、集めた保険料の一部を国内外の債券・株式に投資、運用しています。「コロナ禍で莫大な損失が出た」とニュースになりましたが、長期的にみれば(ITバブル崩壊・リーマンショック・コロナショックを含めても)2001年度~2020年度の収益率は+3.61%で、比較的安全な資産で構成される運用成績としては、これはかなり優秀な数字です。少子高齢化の進展など課題はもちろんありますが、これからも国民全員が共有する貴重な公的制度として存在し続けることでしょう。
宮崎 裕馬(みやざき・ゆうま)
社会保険労務士、神楽社会保険労務士事務所
1978年 東京都生まれ/2001年大学卒業後、総務省入省/郵便局の金融窓口で資産運用相談業務を担当/2021年 日本郵便株式会社退職、社会保険労務士事務所開業
カテゴリー:建築法規 / 行政
タグ:社労士