私の休日 第32回
自宅建て替えの顛末記
古田 秀行(東京都建築士事務所協会千代田支部、支部編集員、株式会社エノア総合計画事務所)
写真1 左官仕上げの外壁。片流れの屋根形状。
写真2 玄関外観。レッドシダーのアクセント壁。
写真3 北西面の開口部に設けられたケヤキの花台。
写真4 1階玄関回り。コウヤマキのベンチあるいは飾り棚。
写真5 1階アトリエ。珪藻土の壁。ケヤキの梁を露出。
写真6 1階アトリエ。壁面の棚はシステム棚。
写真7 2階リビング・ダイニング。ヤナギスギの天井。
写真8 寝室の開口部の障子と襖。
(撮影:加藤悠|株式会社ウエイ、3、8は筆者)
そもそものきっかけ
 今から3年半ほど前の2018年春先、都内の市街地に建つ家人の実家が空き家となりました。その家屋は築60年を超え、耐震上の不安もあり、放置しておくことも危険だなと感じていた折、東側隣家の解体・新築の「おしらせ看板」が目に入りました。境界万年塀が傾きお互いの家屋に近接しており、同時期に解体し自宅として建て替えるのはよいタイミングだと思いました。
解体工事
 すぐに解体工事の業者さん探しを始めました。既存家屋の半分はRC造の4階建。建設当時は、斜線規制や日影規制がなかったようです。道路がL型に交わる角地で道路幅が4m未満、法42条2項道路のため、大型車輛は入れません。まず知り合いの解体業者さん2社に見積をお願いしましたが、見積は予算を大きくオーバー。そこでインターネットを通じ、価格比較できるサイトを通じさらに5社見積を取り、結局全体で2番目にロープライスだった業者さんにお願いしました。地元の業者さんでかつ事前の調査が慎重だったため、安心に思いました。計7社の見積を比較してみますと、価格の上と下で約4倍の開きがあり、正直驚きました。道路付けの悪さ、RC部分を含み地中障害物が不明だったことがその要因かもしれません。
境界問題
 敷地測量に伴い境界ポイントの確認をしている時、別の隣家の方から、こちらの既存RC造の建物が越境して建設されたという話が出ました。過去の公図からの推定ですと、そのようなことはなさそうに思えましたが、公図だけでは根拠にならず、親の時代からの感情的な問題もからんでいるようでしたので、敷地境界ラインをこちら側で譲歩することとしました。
建設のスキーム
 私の父が木製建具職人で子ども時代から父の仕事場で木材に親しんでいたこと、また私自身建築意匠設計を業としており、自宅には多少こだわりたい、そんなことで自ら設計を行い、工務店さんに施工をお願いすることにしました。ただ在来木造住宅に詳しくないことと時間的な制約もあり、基本設計スケッチまで自分で行い、実施設計と監理はその方面に明るい友人にお願いすることにしました。
工務店の選定
 大体の基本計画スケッチをもとに、工務店探しを始めました。ところが雑誌等で見つけた数社の工務店さんからは図面をみるまでもなく、相場としての建築費(坪単価)を口頭で告げられましたが、予算の3割増以上高額な金額でした。今の時代、都内で戸建ての木造住宅を自由設計し、工務店さんに施工をお願いすることは、少し贅沢なことなのかもしれません。自社の仕様で設計施工を得意とする工務店さんも一時検討しましたが、既に設計が進んでいたことや、自由度が限られるかも知れないと感じ、今回は対象外としました。その後も工務店を探し続け、予算に近い金額で請け負ってくれそうなところを2社見つけましたが、最終的には家人の親戚で茨城で工務店を営む大工さんにお願いすることとしました。
地盤調査と地盤補強
 木造2階建てなので地盤調査は不要かと思いきや、友人から必要との助言で、「スウェーデン式サウンディング試験」を行ったところ、地盤補強が必要という結果となり、小口径鋼管による地盤補強を行うこととなりました。このあたり、大型案件の設計キャリアしかない私には想定外のことで、お恥ずかしい限りです。
建築計画
【間取りに関して】
 子どもも独立し、夫婦ふたり住まい、最小限の住宅でよいと思いました。ただ家人が、趣味を生かした仕事目的のアトリエが必要なこと、ひとりは宿泊可能な多目的用途の小さな和室、納戸部屋は必要となり、結果として約24坪総2階の構成となりました。敷地は40坪くらいでしたが将来利用も考慮し、全体敷地の半分、20坪程度の敷地に建築をおさめ、残り半分は自家用と賃貸用で2台分の駐車場にしました。

【外観と素材に関して】
 当初は和風をベースにしたいと思いましたが、家人のアトリエが北欧フラワーデザイン関連の仕事をする場所のため、その間をとって「和欧折衷」ということにしましたが、こじつけですね。外壁は湿式の手づくり感を表したく左官仕上げとし、屋根形状は片流れでシンプルにしました(写真1)。外壁にはレッドシダーも使いたかったのですが、防火性とコスト、メンテナンスも考慮し、玄関入口のアクセント壁(写真2)と玄関ドア、バルコニー手摺壁(写真1)のみの使用となりました。玄関入口は外壁を刳り抜き、道路からクランクして入ることにこだわっています。北西面には外観のアクセントとして、ケヤキで花台を設けました(写真3)。夏場は簾をかけますので、和風のいでたちです。

【1階玄関廻りのインテリア】(写真4)
 小さな玄関スペースですが、中に入ると正面に木の香り漂うコウヤマキのベンチ。現在のところ、家人の作品展示用の飾り棚のようにして使っています。障子を開ければ小さな庭の植栽を望む地窓となっています。上がり框から上の床は全体に木質感にこだわり無垢のフローリング、また玄関の天井はヒノキ材としました。

【1階アトリエのインテリア】(写真5)
 8人が同時に使えるスペースとなっています。フラワーデザインの教室で客人も訪れるため、玄関隣に配置。内壁は外壁と同じく左官にこだわり、他の部屋を含め珪藻土を基本としました。アトリエということで、天井は表しとし、ヒノキの梁、構造用合板が露出しています。この真上がLDのため、天井がない分、音は抜けますが、同時使用はほぼないため今のところ問題ありません。照明はフレキシブルにしたくライテイングダクトを用い、壁面の棚(写真6)は取り外しのできる既製のシステム棚としました。テーブルは南会津の材木店に出向き、北海道産のタモの天板でオーダーしました。4分割が可能です。

【2階LD他のインテリア】(写真7)
 特徴的なのは、コーナーにRをつけた片流れの勾配天井、素材は大工さんからの提案があり、リブ状のヤナギスギを用いています。また居住部分は障子を多用しました。障子は寝室、和室にも用いていますが、その部分は襖を用いて(写真8)就寝時の遮光を工夫しました。障子の桟が太く見えますが「和欧折衷」の格子という位置付けとし、あえてよしとしています。内部建具は全体に引戸を基本とし、タモ柾目合板としました。
あとがきにかえて
 以上恥ずかしながら駆け足で、わが家の一部をその建設過程含め、ご紹介させていただきました。2019年末の完成まで、構想から1年半以上かかりました。解体、境界問題、設計、工事一連で体験してみて、家一軒建てるのは大変なことだなと思うとともに、家づくりを味わう楽しい休日の日々でもありました。家の完成後まもなくコロナ禍となりましたが、家人のアトリエは、私のオンライン作業スペースとしても大活躍しています。
古田 秀行(ふるた・ひでゆき)
東京都建築士事務所協会千代田支部、支部編集員、株式会社エノア総合計画事務所 取締役 計画設計部統括部長
1957年 東京生まれ/1979年 日本大学生産工学部建築工学科卒業/株式会社間組建築設計部を経て、2003年 株式会社エノア総合計画事務所入社、現在に至る
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