VOICE
泉 晃子(東京都建築士事務所協会理事、株式会社タムラ設計)
西原一丁目公園トイレ。設計:坂倉竹之助
はるのおがわコミュニティパークトイレ。設計:坂 茂
神宮通公園トイレ。設計:安藤忠雄。
コロナで明け暮れた1年でしたが、新年度が始まりました。年度初めの月は国によって異なるようですが、わが国において新年度が4月始まりになったのは、明治19(1886)年からだそうです。
昨年からのコロナ禍においても幸いに建設工事は止まらず、建築雑誌で既に紹介されていますが、私は居住地渋谷区の公共トイレ「THE TOKYO TOILETプロジェクト」を見たいと思い緊急事態宣言が解除になった3月の末に出掛けました。完成している7カ所のうち自宅から渋谷までのバス路線で行ける4カ所を訪ねました。
西原一丁目公園は以前は利用者があまり多くなかった公園らしいのですが、そこにあるトイレ(デザイン:坂倉竹之助氏)は緑色のドアがさわやかで印象的でした。公園の木々の緑、道路との境界の手すりの緑、トイレのドアの緑が目に飛び込んできて、いつまでも休んでいられそうな場になっていました。男性が乗ってきて置いた自転車が景色とマッチしていました。
はるのおがわコミュニティパークトイレ、代々木深町小公園トイレの2カ所(デザイン:坂 茂氏)は相似たデザインで色違いです。誰も使っていない時は外部から中が透けて見えるのですが、人が中に入って鍵を閉めると、壁面は不透明になり外からは見えなくなるという仕組みになっています。公園のベンチで休んでいるご老人にトイレをお使いになったことがありますか、と聞いてみましたが、首を横に振るばかりでした。私は面白いデザインと思いさっそく入ってみたのですが。
神宮通公園トイレ(デザイン:安藤忠雄氏)はオフィス街にあり、お昼時でたくさんの人が公園にいて、トイレを使う人、写真を撮る人もありました。トイレの外観はカッチリした固い感じなのに屋根が少し傾いで可愛らしく見えました。屋根の上に被る大きな桜は満開で、華やかさとやさしさを添えていました。
緊急事態宣言が解除されてホッとした感もあり、ちょうど桜が満開のタイミングでよい散策になりました。小公園の中のトイレはすでに景色の一部となり、その場にすっかり馴染んで見えました。地域の小さな公園に素敵なデザインのトイレができたことで、だれもが安心して、きれいなトイレが使え、見て楽しく、街の品格が上がる企画とうれしく思いました。現在完成しているのは7カ所ですが、今年はさらに10カ所のトイレができ上がる予定とのことで、楽しみです。
泉 晃子(いずみ・あきこ)
東京都建築士事務所協会理事、株式会社タムラ設計
1944年 富山県生まれ/1967年 日本女子大学住居学科卒業/1995年(株)タムラ設計入社/現在、同顧問/新宿支部
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