ポストコロナ時代の設計事務所の経営と展望──建築士事務所の管理講習会 特別シンポジウム
令和2(2020)年11月25日@東京都建築士事務所協会会議室からWeb配信)
鷹取 奨(東京都建築士事務所協会研修委員会、南部支部、鷹取1級建築士事務所)
協会本部からの発信。
 宮原浩輔東京都建築士事務所協会理事の進行で、職場環境や立場が違う4人のパネリストから、コロナ禍での現状と展望や課題を語っていただいた。
■働き手の「可処分時間」が伸びるときに
秋山 寿徳(株)日刊建設通信新聞社 編集局長
 昨今は土木分野でさえデザインビルドが導入されつつあります。プロジェクトの大型化、高度化というものもあって、発注者のニーズに誰が応えて行くのか、そのキーパーソンは誰なのか、個々のプレーヤーの役割が大きく変わっていきます。そしてたとえば新しい技術をゼネコンと共同開発していくような時代になってくると思われます。そういった中で失礼ながら設計事務所の方々は資本市場からの調達能力といった部分の意識が低いと感じます。
IT化、デジタル化というものもひとつのキーワードになっていますが、在宅勤務を含め、ITが、効率化、収益に結びついているのか、これから結び付けて行けるのかどうか、と言うことが建築界にとって重い課題になりつつあると思います。
 コロナ後に大きく変わっていくのはテレワーク化です。通勤時間がなくなって働き手の可処分時間が伸びたわけで、一旦それを手にした働き手が、コロナの収まった時に元の世界に戻れるとは思えません。そういった社会変容に経営側はどのように対処したらいいのか、経営側も変わっていけるのか、そのことが今いちばん問われているのではないか。
■Webによるコミュニケ―ションには経験値が必要
土屋 守(株)土屋建築研究所 代表
 私どもの事務所は所員60名弱、90%以上が官公庁の仕事で新宿を拠点にしています。
今年(令和2/2020年)2月28日からテレワークの試行を始めて、緊急事態宣言時に4日在宅、1日出社という新しい就業制度を導入しました。
 建築設計の仕事というのは図面を描く、計算するというような個人作業的な部分があるので、テレワークには比較的馴染みやすいかも知れません。また実際、生産効率は下がっていません。打ち合わせや会議などコミュニケーションの部分が、コロナ渦で問題になるわけですが、私どもではWeb会議ツールに加えてグループウェア、チャットツールを使用して今のところ何とかなっている状況です。
 今後心配な部分は新人教育の部分です。仕事のやり方を教えることもさることながら、社会人教育もツールを使ったコミュニケーションではなかなか難しいので「新人は極力出社する」というところに落ち着いています。
 もうひとつ、Webによるコミュニケ―ションは、経験値の上に成り立っていると思います。今まで一緒に仕事をやってきた人物とならばツールでも必要なコミュニケーションは取れますが、初めて接する人物との間で果たしてそれが通用するのか、という懸念を抱いています。
 それと、新しいアイデア、イノベーションはコミュニケーションの中で生まれると思われますが、ツールによるコミュニケーションで果たしてそれが可能なのか、という疑問も持っています。
■スムーズに移行できたテレワーク
柳田 耕治(株)梓設計 常務取締役
 私どものところでは昨年(令和元/2019年)の8月に、メガ・プレートと称して430名ほどの所員が約5,300㎡のワンフロアで一堂に会することを始めました。そして同時に、個人の机を決めずに働くシーンに応じて移動しながら働いてもらうフリー・アドレスも始めました。
 新しい器を用意して半年で「会社に来るな」という状況になってしまったわけですが(笑)、ひとりひとりがノートPCを持ち、スマートフォンで連絡を取り合うことは既にやっていましたので、テレワークへの移行も比較的スムースだったと思っています。
 当初は8割在宅を掲げましたが、現在は原則週1回出社、後は個人の裁量に任せています。最近はオフィスに人が戻ってきて、半分程度に間引いたデスクがほぼ埋まっている状況です。
■現場でしか学べないことも
佐田 一恵(株)梓設計 副主幹
 在宅勤務の時でも同じ仕事に携わっているメンバーで、毎朝5~15分くらいのWeb会議をしていますが、その中で上がった問題点や課題の対応をすぐに上司が協議してくれるので助かります。現場監理ではVRを使って構造や設備のスタッフとweb上で打ち合わせをするようにしていますが、今、課題になっているのは、web上での打ち合わせはどうしてもスケール感が欠落しがちなことです。
 先ほど新人育成の話がありましたが、現場での立ち振る舞いとか人間関係とか、どうしても現場でしか学べないところがあります。直接会えば無駄話なんかもしますよね。新人教育でもそうですが、ベテランでも初めての現場監督さんと仕事をするケースでも一見無駄に見えるようなことが実は大切ではないかと感じています。

 限られた時間内で、Web配信という挑戦ではあったが、テレワークが常態となった現在、その課題と可能性がさまざまな角度から語られたシンポジウムであった。
(報告:鷹取 奨|東京都建築士事務所協会研修委員会、南部支部、鷹取1級建築士事務所)
鷹取 奨(たかとり・すすむ)
東京都建築士事務所協会南部支部副支部長、鷹取1級建築士事務所
1958生まれ/芝浦工業大学建築学科卒/鷹取一級建築士事務所、東京都建築士事務所協会南部支部