新潟の集合住宅 Ⅲ
細海拓也一級建築士事務所
第46回東京建築賞|東京都建築士事務所協会会長賞、共同住宅部門最優秀賞
南西側ファサード。「都市スケールの構造フレーム」と「ヒューマンスケールの薄い外周壁とスラブ」。
  • 南西側ファサード。「都市スケールの構造フレーム」と「ヒューマンスケールの薄い外周壁とスラブ」。
  • 南東側立面。古くから残る長屋や町家のスケールを継承して積層した集合住宅。
  • 10層分の骨格を剥き出しにした構造フレームがテラスに領域をつくる。
  • 都市スケールの構造フレームが集合住宅としてのつながりを認識させる。
  • 平面図
  • 立面図
  • 断面図
建築主:
株式会社廣瀨
設計:
細海拓也一級建築士事務所
施工:
株式会社廣瀨
所在地:
新潟市中央区
主要用途:
共同住宅
構造:
RC造
階数:
地上10階
敷地面積:
619.90㎡
建築面積:
288.41㎡
延床面積:
2,631.76㎡
工事期間:
2017年5月〜2018年9月
撮影:
Naomichi Sode
設計趣旨:
 「新潟の集合住宅Ⅲ」は、都市化された高密度な状況下での住宅における内部と外部との関係性を再構築した集合住宅である。
 ヒューマンスケールの住戸空間を荒々しく貫通する都市スケールの土木的構築物(柱・梁)は、居住者に隣人の存在と気配を確かに感じさせ、都市居住における集合体としてのつながりを認識させる。
 構造は、10層の集合住宅を成立させる無理のない経済スパンによるラーメン構造である。純ラーメン構造とすることで、スラブと外周壁・戸境壁の位置は完全に自由に設計し、汎用性の高い建築を実現した。
 近隣の長屋や家屋が持つ人間的な大きさや密度感から逸脱しないよう、この地域に古くから残る建物のスケールをひとつの単位とし、その単位を積層する構成による建築としている。近年、建て替えが進み、この地域の昔ながらの建物が失われていく中で、歴史的なまちなみの記憶の断片を継承し、未来につなげていくアーカイブのような建築を目指した。(細海 拓也)
細海 拓也(ほそかい・たくや)
細海拓也一級建築士事務所
1980年 新潟県生まれ/2003年 横浜国立大学卒業/2005年 横浜国立大学大学院博士課程前期修了/OMA、BIG勤務後、Ensamble Studio(文化庁新進芸術家海外研修員)を経て、2013年細海拓也一級建築士事務所設立
選考評:
 人は都市の住まい・集合住宅に何を求めるのか。外部の「ノイズ」を徹底的に排除し、自分の殻に閉じ籠るだけの住まい─世の中にはその種の住居が溢れ返っている。しかし、周辺環境のコンテクストから切り離された住居は個人と公共の断絶を促進するだけであり、外界との関係性に目を向けることで新たな可能性と共に心を豊かにする住まいとは対極にあるものだろう。
 本作品はそのような後ろ向きな住まい方に対するアンチテーゼとして発想されている。外から眺めれば、2・3層に分節された町屋的スケールとシャープでフラットな壁面がつくり出す陰影が、街の持つ歴史とそこに住まう人の息遣いを感じさせる。部屋に居る時は、柱・梁のビルディングフレームの力強さが10階建ての建築と都市のスケールを感じさせ、吹き抜けになっているインナーテラスが街のざわめきや隣人の存在を思い起こさせる。そのような内外が相互嵌入し影響しあう住まいの空間を設計者は目指したのだろう。
 この地で生まれ育った彼は、住まう人びとのリアルな息遣いによって愛する街が活性化することを希求し、そしてそれは成功したようだ。都市に住まうことの可能性を拡げた点を高く評価し、会長賞を授与するものである。(宮原 浩輔)
宮原 浩輔(みやはら・こうすけ)
一般社団法人日本建築士事務所協会連合会理事、一般社団法人東京都建築士事務所協会常任理事、株式会社山田守建築事務所代表取締役社長
1956年鹿児島県生まれ/1981年東京工業大学建築学科卒業後、株式会社山田守建築事務所入社/現在、同代表取締役社長