竹中工務店東関東支店ZEB化改修
竹中工務店
第45回東京建築賞|リノベーション賞、一般一類部門優秀賞
建築主:
株式会社竹中工務店
設計:
株式会社竹中工務店東京一級建築士事務所
施工:
株式会社竹中工務店
所在地:
千葉県千葉市中央区中央港1-16-1
主要用途:
事務所
構造:
鉄筋コンクリート造、鉄骨造
階数:
地上2階
敷地面積:
1,432.02㎡
建築面積:
679.52㎡
延床面積:
1,318.11㎡
工事期間:
2015年10月〜2016年4月
撮影:
新建築社写真部
設計趣旨:
 2003年竣工のオフィスビルに対して日本初のネット・ZEB化改修を行った。既存外装のダブルスキン化、自動制御日射遮蔽と自然通風開口の設置等の既に実用化されている技術と、地中熱・太陽熱利用の放射空調システム・天井隠蔽型デシカント空調機といった先端技術を統合化し、居住者の体感申告とセンサーからの情報に応じてリアルタイムで制御している。さらに快適性のあり方・働き方の見直しにより省エネルギーを行った。全体を常に均一な環境にするという従来のユニバーサルオフィスの思想を見直し、多様な環境差異があることでワークモードが変わり知的生産性も上がる、といった考え方で省エネと快適性・知的生産性の両立を実現している。その結果消費エネルギーを約7割削減し、太陽光発電を行うことでネットZEB化を達成した。EVの蓄電池をリユースしたリチウムイオン蓄電池をはじめ、内外装共に利用できるものは極力利用するリユースを行った。(田附 岳夫、川上 大樹)
田附 岳夫(たづけ・たけお)
1968年 京都府生まれ/1992年 京都大学工学部建築学科卒業/1993〜94年 パリ ラ・ヴィレット建築学校(文部省給費留学生)/1995年 京都大学大学院修士課程修了後、竹中工務店入社/現在、竹中工務店東京本店設計部設計第2部門設計3グループ長
川上 大樹(かわかみ・ひろき)
1986年 神奈川県生まれ/2010年 首都大学東京都市環境学部建築都市コース卒業後、竹中工務店入社/現在、竹中工務店東京本店設計部設備部門設備12グループ
選考評:
 建築分野でリノベーションといえば、これまでは既存の建築を改修することで建物をスクラップアンドビルドするのでなく保存再生することを意味していた。この建物の改修のポイントはそこにあるのではない。平成27(2015)年7月に交付された「建築物省エネ法」の省エネ基準適合性判定義務が平成29(2017)年4月から施行される時期に、それに先行して竹中工務店の自社ビルを省エネ+創エネによりZEB(Net Zero Energy Building)に改修したものである。
 この改修はそれだけでもきわめて先端的であるが、さらに特筆されるべき点として、単にエンジニアリング的な達成だけではなく、以下に述べる包括的なストラテジーに即して必要な創エネルギー量が算定されているところにある。
 原設計の建物にも瀟洒な日射遮蔽用のアルミフィンが装備されていたし、窓ガラスもLow-Eペアガラスだった。それをアルゴン封入Low-Eペアガラスというハイスペックに変更、外部にガラス面を加えてダブルスキン化の上、さらに自動制御ブラインドを付加、屋根面には100mmの断熱材を敷き込むことで熱貫流率(U値)を3.00から1.00、日射遮蔽係数(SC値)を0.49から0.14に改善した。ただし、このような外装の改善による省エネ効果は全体の8%でしかない。LED照明への変更などにより照明で12%、地中熱利用などにより空調で21%、自然採光、自然通風などにより9%で計50%の削減を達成する。さらに働き方改革やPCやプリンターのダウンサイジングにより20%を削減し、最後の30%を太陽光発電による創エネで賄うことでZEBに到達させている。
 このように、ZEBという今後わが国の建築物すべてが影響を受ける理念に対して、明快で合理的な到達法を提示したことの意義は大きい。(渡辺 真理)
渡辺 真理(わたなべ・まこと)
建築家、法政大学デザイン工学部建築学科教授、設計組織ADH共同代表
群馬県前橋市生まれ/1977年 京都大学大学院修了/1979年 ハーバード大学デザイン学部大学院修了/磯崎新アトリエを経て、設計組織ADHを木下庸子と設立